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第一幕・擬態者の核を砕け

体力不足の騎士、その名はエリエリ

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「……今日一日スコルさんの話聞きませんから」

「ごめんなさい~」

「エリスさん、あとは魔石を渡したら解放ですよね?」

「あ、はい」

「ハティ~無視しないでよ~」

 スコルはハティの怒りの声を聞くとすぐさま謝り、ハティの機嫌を戻そうとするが、当の本人は本当にスコルの言葉を聞くことは無く、その場にいないとでも思ってるかのように無視をし続け拾っていた魔石を約束通り、癖毛が目立つ女騎士ーーエリスに手渡ししていた。

 勿論その後は何事も無かったかのように取調べ室を出るのだがーー

「あ、ハティさん!スコルさん!ちょっといいかな?話忘れたことがあって」

 とエリスがその場を後にしようとしていた人狼の双子ハティとスコルを呼び止め、取調べ室へと引き戻し忘れていた話をし始めた。

 それに話す場所はハティ達のことを考え取調べ室を選んでいる。そこならば壁は厚く熱血な漢騎士、ゼウスよりも大声でなければ外に聞こえることがないからだ。

「話とはなんでしょうか?」

「ミズガルズに在住する件とか色々かな。ミズガルズに人以外が住むとなると、許可証が必要になってね?私みたいに人狼も関係ないって人は少ないから、色々問題になる場合があるの。それで、こっちの方で貴女達を人狼じゃなく獣人としてミズガルズに住む許可証を作っておくよ。それと、私が休みの時、色々相談とか乗ってあげるから……ええっと……」

 サッと携帯していたであろう小さな紙切れを取り出してサラサラと何かを書いていき、何かを書き終わると直ぐにハティの手を取りその紙を握らせていた。
 何を書いたのか直ぐに確認すると、

『ミズガルズA区のここら辺!』

 という文字と共に小さな地図と、小さな丸が描かれている。どうやら彼女の家の場所を書いたようだ。

「あ、丁度休みの日は明日だから、その時来てくれたら次の休みの日も教えてあげるよ」

「あ、ありがとうございます……でもいいんですか?」

「いいに決まってるよ。仕事は仕事、プライベートはプライベートだからね!あ、でもハティさん達が人狼だっていうこと、わかってると思うけど私以外に知られたらダメだからね?特にさっきのゼウス先輩は口軽いから……」

「わかってるよ~エリエリ~」

「エリエリ!?……まぁ可愛いからいいけど仕事中はそう呼んだらダメだからね?それじゃあ外に案内するね!あ、なんなら家まで送るけど」

「お願いします。あ、住所はーー」

 その後、ようやく取調べ室を後にし、城からも無事でることが出来た。

 外に出れば天に日が登りきる昼頃、やはり周りは人で溢れかえっているのだが、だからこそハティ達双子の獣人は要注意しなければならない時もある。

 人が多ければ多いほど危険に見舞われる可能性が高くなるからだ。それ故にフードを被りエリスに隠れるかのようにして後ろを着いていき街の中を歩いていく。

「そう言えば、ハティさん達の荷物ーー」

「「あっ!」」

 歩いていると唐突にエリスが尋ねてくる。それもそのはずだ、なんせ彼女達は“持ってきていたはずの荷物が手元にない”のだから。
 というのも、魔導書の魔法を使った際に荷物は関係ないと言わんばかりにゼウスに連れてかれ、そのまま草原のど真ん中に置いてきてしまっているからだ。

「荷物は多分、ゼウスさんが来た時に置いたままです!それも草原!どうしましょう!?」

「えぇ……ゼウス先輩……まぁ、わかったよ。先にそこに向かおう?」

「ありがとうございます」「ありがと~エリエリ~」

 直ぐに家への案内から荷物回収へと変更し急いで草原へと、ゼウスと初めて出会い身柄を拘束されてしまった場所へと向かった。

 勿論、フードが脱げない様に片手でフードを抑えながら走……らなかった。いや、正確にはミズガルズの外に出た瞬間から走れなかったと言うべきだろう。

 というのもミズガルズの外に出る頃には、エリスの体力が尽き、息があがってしまっていたのである。

「な、なんで……そんなに速い……のぉぉぉ……」

「だ、大丈夫ですか?」

「も、もうダメ……走れない……」

「えええええ!?」

 ここまで体力がないというのに、国を守る仕事をしていることに驚きだが、元々彼女はあちこちを走って罪ある人を捕まえることは任されておらず、監視塔から外を見張るのがメインの仕事だったのだ。しかし、つい最近ゼウスと一緒に取締の仕事を任され今に至るようだ。

「す、少し休みましょうか……?」

「い、いえ……急ぎですから……急ぎましょう……」

「エリエリ~無理しないでね~」

 体力は尽きたが、ハティ達のことを思いゆっくりながらも荷物を無事回収して見せた。

 だが、ゆっくりと歩いた為か街に戻る頃には日が暮れ始め辺りは綺麗な夕焼け色に支配されていた。

「ーーあ、あの……すっごいこっち見てる人いるんですが……」

「え?……あ、あの人ゼウス先輩が取調べ行った人だよ」

 改めてミズガルズに入ろうとした時、街への入口近くに海を見ているかのごとく青い髪を持つ一人の細い男がぽつんと立ち尽くし、焦げ付いたかのように茶色い瞳で彼女達をじっと見続けていたのだ。

「フフフッ」

 気にせずに街の中へと入ろうとした瞬間、彼女達を見る目付きが変わり、気味の悪そうな笑いとともに彼の頬は釣り上がり不気味に笑い始める。

 しかし、彼の目は何かを企むような目付きではなく、ハティ、スコルの身体を舐め回すかの如く気持ちの悪い目線だ。どうやら一種の変態……といったところのようだ。

「子供がこんな時間まで外を歩いちゃダメだろう?」

 男にしては長い肩まで伸びきった青い髪を揺らすかの如くふらついているかのように身体を揺らしつつ、ゆっくりと彼女達に近づいてくるが、もはや心配して掛けた声とは裏腹な表情に目つきでハティとスコルは背筋が凍りついた。
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