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第一幕・擬態者の核を砕け

モフられる狼の耳

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 その一押しでとうとうハティ自身とスコルにかけている魔法〈擬態カモフラージュ〉を解いてしまい、折角隠していた狼の尻尾や耳が双子姉妹揃って顕になってしまった。

 ーーもう後戻りはできない
 ーー人狼だとばれた
 ーーここで終わる

 と様々な言葉がハティの頭を支配し、自然に彼女の顔が青ざめる。

 そしてハティ、スコルのそれを見たエリルは驚きの顔では無く、何故か目を輝かせ、生唾をゴクリと飲み干すとずいっと顔をハティに近づけた。無論ばらしてしまったことと、急に接近されたことでビクッと身体を震わせ、不意に目を瞑ってしまう。

「も、もしかしてハティさんと、スコルさんって獣人……なんですか……!?」

「そ、そうですけど……あの顔が近いです……」

「その顔みてたら背筋凍りそうだよ~」

「そ、それをいうなら悪寒が走るではないですか……」

 顔を近づけた後は無意識のようだが、確かにエリスはジリジリっと少しずつ双子姉妹の獣人、ハティ、スコルとの間を詰め始める。だが双子は逆に逃げるようにして距離を置こうとするのだが、後ろに下がりすぎ気づけば背中は壁にぴたりとくっついている。どうやら彼女達が逃げる場所はもうないらしい。

「あ、ごめんね?びっくりしちゃったかな。で本題に戻るけど獣人のハティさん、スコルさん、誰にも言いわないから魔道書取得経緯と魔法の使用経緯、などここに来るまでのことを教えて欲しいな?」

「わかってます……あの、全部話しますが……唯一の姉妹、スコルさんだけは見逃してください」

「なに言ってるのハティ~!」

「んー内容にもよるけど……」

 スコルは少し黙っててと言わんばかりに、ハティは話を、ここに来た経緯などを話し始めた。勿論、自身らが人狼だと言うことも、魔道書のことも、道中起きた事も含めた全てをだ。

「ーーなるほどね。話を聞く限りスコルさんは魔法使ってないし。それじゃあハティさんの言うとおりスコルさんは解放するよ。ハティさんはまだここにいてね」

「なんで~!!」

「スコルさんはとりあえず荷物の整理をーー」

「ハティが一緒じゃないと嫌だよ~!!」

 スコルは道中魔法を使おうとしたが失敗に終わっている。それ故に魔法を使用していないと見なされ解放すると言うのだが、スコルはそれで納得はしない。唯一の姉妹そして唯一の家族でもあるため一緒じゃないと嫌だと我儘を言い続ける。

 何度も、何度も、涙目になりつつも、また家族を失いたくない一心で嫌だと言い続ける。

 それを見たエリスは短く息をつくと。

「私もそんな鬼じゃないから……そうだ!途中で拾った魔石を提出して、ハティさんの耳を触わらせてくれる。この二つの条件を呑んでくれるなら二人とも見逃してあげるよ」

 と、にこにことした表情で言ってきた。

 勿論、ハティはその条件を呑む他無い。何故ならば魔石の提出と耳を触られるだけで、人狼であることを、魔導書の魔法使用を見逃すというのだから。

「うぅ……耳ですか……仕方ありません。ど、どうぞ……」

「私も触る~!」

「スコルさんは関係ないですよね!?というか何時も寝てる時に噛みますよね!?……まぁいいです触りたいなら勝手にしてください。でも……優しく、お願い……します」

 彼女はそう言うと、頭に付いている耳を触りやすいように頭を差し出すと、緊張からか心臓がどくっどくっと、周りに聞こえてしまうのではと思うほど強く脈打ち、顔も赤面し始めていた。

「それじゃあ失礼して……」

 そしてエリスの手が、スコルの手が差し出されたハティの耳へと伸びていき、優しく触れる。直後ふわっとした気持ちの良い触り心地の狼の毛が彼女達の手の触感を支配した。

「ん……あっ……」

「「はぅ~気持ちいい~」」

「やっ……あっ……」

 耳を触れられたことで無意識に色っぽい声が出てしまう彼女だが、それは仕方ないもの。自分で触れたり、ものが当たったりする時は何も感じないものの、他人が触ると耳がまるで性感帯のように
 なり自然と出てしまうのだ。勿論尻尾も同じことが言える。

「……な、なんか罪悪感が……でも手が止まらない……」

「ふぅ……ん……も、もういい……ですよね……」

「あ、はい!なんかすいません!」

 顔を真っ赤に染め、目尻に涙を溜めたハティがエリスの方を見て、小さな声でされどもスコルもエリスも聞こえる声でそう呟く。

 それを聞いたエリスは直ぐに手を離すものの、スコルはまだ手を離さず耳の裏、耳の内側など耳の色んな箇所を触り続ける。

「ス、スコル……さん……はぁっ……もうやめ……ひぅ!!」

「なんか言った~?」

「も、やめて……って言ってます!!それに尻尾は触っていいって言ってませんから!!」

「痛ッッ!!急に噛まないでよぅ」

 耳という耳を触り続けた……いや、最後の最後でスコルは彼女の尻尾にも触れるが、その結果、もう限界と感じ取ったハティがスコルの腕に思い切り噛み付いた。

 それも甘噛みではなく本気の噛み付き、されども血が出ないように力加減をして歯型だけ残すように噛み付いたのだ。

「……今日一日話聞きませんから」
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