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第一幕・擬態者の核を砕け
取調べ
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「おらおらァ!邪魔だァ!」
人の街ミズガルズ。その中央にはミズガルズを象徴するように建てられた大きな城がある。
その城に向かいつつ声を荒らげているのは、鎧を纏った一人の男。よく見れば手に縄を持ち何かを引っ張って走っているようだ。
何かと言うのは遠くからも、近くからも分からない。というのも彼の豪快な走りで、地面の土が舞い上がり土煙となって、彼の後ろ……つまり縄の先にある物を隠してしまっているのだ。
そして彼が街を歩く人々を避けながら向かう城の周囲には、一定間隔に離れた近衛兵が警備として立っている。なのにも関わらずその男の走り……いや突進で城壁が崩れることとなる。
だが城壁が倒壊しようと決して近衛兵は、ほぼ表情を変えない。逆にもう何度目だと言わんばかりの呆れたような顔色を浮かべている人が多いのだ。
どうやら彼の突進で城壁が壊れるのは日常茶飯事らしく、ちゃんと城門から入るようにと鎧の男に注意などしても変わることは一切ない。それ故なのか注意することを諦め、毎度の如く壊されるのならば自分たちで直そうと、近衛兵の数人が魔法禁忌区域の人の街で使用許可が降りている修復魔法〈修復〉を使用し壁の修復作業を行うことにしているのである。
だが鎧の男は自身の突進で城壁が崩れたことなど一切気にせず、更には謝ることもほぼなく、縄を引きずり城内地下へと向かう。
「あ、おかえりなさい。先ぱーー」
ーー途中、これまた鎧を纏った癖毛が目立つ黄緑の短い髪の女性とすれ違うが、彼の走りが早すぎて、彼女が言葉を完全に言いきる前に地下へと突入した。
「んじゃ話を聞こうじゃないか!」
ズザザザという靴が地面との摩擦で鳴り響く音を立て、急に止まるのだが、その反動からか縄に繋がっていた二人の少女、ハティとスコルは急に止まれず前に吹き飛ぶこととなる。
しかし彼女達が飛ばされたのには責任を感じているらしく、怪我はさせまいと男がしっかりと止めーー否、吹き飛ぶことは前提で責任も何も感じていない。それ故にそのまま近くにあった狭く、貧相な部屋に思い切り放り込んだ。勿論それで怪我をされては流石にまずいと男は知っている。だからこそ怪我をしないように、されども強く放り投げたのだ。
「ゲホゲホ……あ、あの……ここはどこですか?」
「城の地下だな。それがどうした」
「なんで私達を連れてきたの~?もしかして誘拐?」
「誘拐ではないが……というか、しらを切る気か!?禁忌指定の魔道書魔法を使っておいて!!白状するまで帰さないぞ!」
と、狭い部屋の中なのにも関わらず、鎧を纏う男は、これでもかというくらいの大声で彼女たちを問いつめる。
「それで!?お前達はどこ出身の誰で、なんで魔法禁忌区域の人里で禁忌指定されてる魔法を使ったんだァ!?」
「え、えっと……なんて説明したらいいんでしょうか?」
「いや、知らねぇよ。ていうかそれを俺に聞くなよ」
流石に彼女達は気迫負けし、彼の言う事を聞かねばここから出ることは無理だと悟るのだが、魔法を使った経緯を話そうとするも、ここは人狼が疎まれる土地、故に事情を話し人狼と知られてしまうと一生ここから出してもらえない可能性もあり、上手く説明も話もできないのだ。
「そう言えばハティ~サッちゃん居ないんだけど~」
「スコルさん、それよりもこの状況を何とかしないとですよ?」
「……なるほどな、馬鹿なのかお前ら……でスコルさん、ハティさんよ。なんで魔法を使ったんだ?」
「「なんで名前知ってるの」ですか!?」
「今、自分から言ったよなぁ!?」
どうやら双子の姉妹は自分から名前を言ったことを全く自覚していないらしい。その上、彼女達にそんな気はないだろうが、男とのやり取りがちょっとした夫婦漫才のように聞こえてくる程、愉快な会話を弾ませている。
そんなことは知らず、困った表情を見せる彼女達はどうにか解決方法を見出そうとしていたその時。ガチャッと部屋の部屋の扉が開いた。
「ゼウス先輩!!そんな取調べじゃあ彼女達が可愛そうですよ!!ただでさえ先輩の顔怖いのに……隣の取調べ室にもう一人受ける人いますから、彼女達のことを私に任せて、隣の人を担当してください」
「そ、そんなに怖いか……まあ、それなら仕方ない。じゃあ、あと頼むぞエリス」
「はい!……てことで、ここからは私、エリスが話を聞きますね?」
常に大きな声で話す鎧の男ーーゼウスと彼女達がいる取調べ室に、先程ゼウスが猛烈な速さで駆けた際に城内ですれ違っていた癖毛が目立つ黄緑の短髪の一人の女性ーーエリスがこの部屋にやってきたのだ。
直後、話し合いをし、ハティ、スコルの取調べ担当を交代したようだが、彼女の立場は簡単に担当を替えれる程上ではない。極端な話下の下である。それなのにも関わらず交代を申し出てあっさりとゼウスは受け入れたがそれは否、こうして取調べを担当する人はエリスとゼウスの二人しかいない。だからこそ男は受け入れたのだ。
「言い難いこととかあったら言わなくてもいいからね?でも、この魔道感知器が魔法を感知しちゃった以上……ってあれ?感知器の反応が……もしかしてまだ魔法使ってる?」
「は……はい」
「それじゃあ魔法を解除してもらっていいかな?大丈夫。さっきの先輩と違って何もしないから……ね?」
人の街ミズガルズ。その中央にはミズガルズを象徴するように建てられた大きな城がある。
その城に向かいつつ声を荒らげているのは、鎧を纏った一人の男。よく見れば手に縄を持ち何かを引っ張って走っているようだ。
何かと言うのは遠くからも、近くからも分からない。というのも彼の豪快な走りで、地面の土が舞い上がり土煙となって、彼の後ろ……つまり縄の先にある物を隠してしまっているのだ。
そして彼が街を歩く人々を避けながら向かう城の周囲には、一定間隔に離れた近衛兵が警備として立っている。なのにも関わらずその男の走り……いや突進で城壁が崩れることとなる。
だが城壁が倒壊しようと決して近衛兵は、ほぼ表情を変えない。逆にもう何度目だと言わんばかりの呆れたような顔色を浮かべている人が多いのだ。
どうやら彼の突進で城壁が壊れるのは日常茶飯事らしく、ちゃんと城門から入るようにと鎧の男に注意などしても変わることは一切ない。それ故なのか注意することを諦め、毎度の如く壊されるのならば自分たちで直そうと、近衛兵の数人が魔法禁忌区域の人の街で使用許可が降りている修復魔法〈修復〉を使用し壁の修復作業を行うことにしているのである。
だが鎧の男は自身の突進で城壁が崩れたことなど一切気にせず、更には謝ることもほぼなく、縄を引きずり城内地下へと向かう。
「あ、おかえりなさい。先ぱーー」
ーー途中、これまた鎧を纏った癖毛が目立つ黄緑の短い髪の女性とすれ違うが、彼の走りが早すぎて、彼女が言葉を完全に言いきる前に地下へと突入した。
「んじゃ話を聞こうじゃないか!」
ズザザザという靴が地面との摩擦で鳴り響く音を立て、急に止まるのだが、その反動からか縄に繋がっていた二人の少女、ハティとスコルは急に止まれず前に吹き飛ぶこととなる。
しかし彼女達が飛ばされたのには責任を感じているらしく、怪我はさせまいと男がしっかりと止めーー否、吹き飛ぶことは前提で責任も何も感じていない。それ故にそのまま近くにあった狭く、貧相な部屋に思い切り放り込んだ。勿論それで怪我をされては流石にまずいと男は知っている。だからこそ怪我をしないように、されども強く放り投げたのだ。
「ゲホゲホ……あ、あの……ここはどこですか?」
「城の地下だな。それがどうした」
「なんで私達を連れてきたの~?もしかして誘拐?」
「誘拐ではないが……というか、しらを切る気か!?禁忌指定の魔道書魔法を使っておいて!!白状するまで帰さないぞ!」
と、狭い部屋の中なのにも関わらず、鎧を纏う男は、これでもかというくらいの大声で彼女たちを問いつめる。
「それで!?お前達はどこ出身の誰で、なんで魔法禁忌区域の人里で禁忌指定されてる魔法を使ったんだァ!?」
「え、えっと……なんて説明したらいいんでしょうか?」
「いや、知らねぇよ。ていうかそれを俺に聞くなよ」
流石に彼女達は気迫負けし、彼の言う事を聞かねばここから出ることは無理だと悟るのだが、魔法を使った経緯を話そうとするも、ここは人狼が疎まれる土地、故に事情を話し人狼と知られてしまうと一生ここから出してもらえない可能性もあり、上手く説明も話もできないのだ。
「そう言えばハティ~サッちゃん居ないんだけど~」
「スコルさん、それよりもこの状況を何とかしないとですよ?」
「……なるほどな、馬鹿なのかお前ら……でスコルさん、ハティさんよ。なんで魔法を使ったんだ?」
「「なんで名前知ってるの」ですか!?」
「今、自分から言ったよなぁ!?」
どうやら双子の姉妹は自分から名前を言ったことを全く自覚していないらしい。その上、彼女達にそんな気はないだろうが、男とのやり取りがちょっとした夫婦漫才のように聞こえてくる程、愉快な会話を弾ませている。
そんなことは知らず、困った表情を見せる彼女達はどうにか解決方法を見出そうとしていたその時。ガチャッと部屋の部屋の扉が開いた。
「ゼウス先輩!!そんな取調べじゃあ彼女達が可愛そうですよ!!ただでさえ先輩の顔怖いのに……隣の取調べ室にもう一人受ける人いますから、彼女達のことを私に任せて、隣の人を担当してください」
「そ、そんなに怖いか……まあ、それなら仕方ない。じゃあ、あと頼むぞエリス」
「はい!……てことで、ここからは私、エリスが話を聞きますね?」
常に大きな声で話す鎧の男ーーゼウスと彼女達がいる取調べ室に、先程ゼウスが猛烈な速さで駆けた際に城内ですれ違っていた癖毛が目立つ黄緑の短髪の一人の女性ーーエリスがこの部屋にやってきたのだ。
直後、話し合いをし、ハティ、スコルの取調べ担当を交代したようだが、彼女の立場は簡単に担当を替えれる程上ではない。極端な話下の下である。それなのにも関わらず交代を申し出てあっさりとゼウスは受け入れたがそれは否、こうして取調べを担当する人はエリスとゼウスの二人しかいない。だからこそ男は受け入れたのだ。
「言い難いこととかあったら言わなくてもいいからね?でも、この魔道感知器が魔法を感知しちゃった以上……ってあれ?感知器の反応が……もしかしてまだ魔法使ってる?」
「は……はい」
「それじゃあ魔法を解除してもらっていいかな?大丈夫。さっきの先輩と違って何もしないから……ね?」
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