先生と俺

第64話

月曜日の朝、俺が教室に入ると、先生はいつものように授業の準備をしていた。
書類を一つ一つ丁寧に整理し、黒板には今日の授業内容がすでに書かれていた。
「おはようございます、先生。」
俺は元気に挨拶をする。
「おはよう、正彦くん。」
先生は微笑みながら手を止め、俺の方に視線を向ける。

「土曜日に図書館で本を借りてきたんですけど、その本に錬金術のことが書いてあって、すごく興味深かったんです。」

俺がその本について話し始めると、先生はさらに興味を示し、優しい眼差しで俺を見つめながら、「どんなことが書かれていたの？」
と促すように尋ねてくれた。
「例えば、金属を錬成する技術とか、毒を中和する方法とか、賢者の石のことも出てきました。
錬金術師たちは昔、こんなにも奥深い研究をしていたんだって驚きました。」
俺が興奮気味に話すと、先生は少し頷いてから、静かに語り始めた。
「錬金術は、確かに今ではほとんどが伝説のように扱われていますが、その試みが現代科学の発展に繋がったと言っても過言ではありません。
金属錬成の理論は、化学反応の理解を深めるきっかけになったし、薬草を使った中和剤の研究は、医薬品の開発の基礎を築いたんです。」

先生の話を聞きながら、俺は改めて錬金術の重要性を感じた。
「やっぱり、錬金術はただの魔法じゃなくて、科学の前身だったんですね。」
「そうですね、正彦くん。」
先生は優しく微笑んで言った。
「当時の錬金術師たちは、現代の科学者と同じように、自然の法則を理解しようと一生懸命研究していたんです。
その熱意が、今日の科学技術の基盤となったんですよ。」
先生の言葉はいつもそうだが、深くて温かい。俺はその話を聞きながら、もっと色々なことを知りたいという気持ちが強くなっていった。

「先生、僕も手伝ってもいいですか？」
俺は少し照れながら申し出る。
先生は少し驚いた様子で目を見開いたが、すぐに柔らかく微笑んで
「もちろん、助かります」
と言ってくれた。
先生と一緒に授業の準備を手伝うなんて、なんだか特別な時間に感じた。
まずは黒板の書き直しから始めた。
俺が黒板消しを使って、先生が前の授業で書いた文字をきれいに消していく。
すると、先生は次の授業内容を書き始めた。
俺はその手元を見つめながら、書く内容を確認するために隣に立つ。
書かれた漢字や図表が綺麗で、見ているだけで勉強になりそうだった。

その後、先生と一緒に教科書やプリントを配る作業をした。
俺が手分けしてクラスメートたちの机にプリントを配る間、先生は教卓で授業の進行を確認しているようだった。
プリントを配り終えると、先生が感謝の意を込めて
「ありがとう、正彦くん。助かりましたよ」
と言ってくれた。
「いえ、僕も楽しかったです。」
俺は少し照れながら答えた。
教室には朝の柔らかい光が差し込み、先生と一緒に過ごす穏やかな時間が流れていた。
この日もきっと、楽しい授業になるだろうと思いながら、俺は自分の席に戻った。