先生と俺

第57話

家庭科の授業が始まる前に、先生が俺に声をかけてきた。
「正彦くん、次の家庭科の授業で少し手伝ってほしいことがあるんだけど、いいかな？」
「もちろんです！」
俺は快く返事をした。
先生が何を頼んでくるのか少しワクワクしながら、家庭科の教室へと向かった。
教室に入ると、すでに調理台にはさまざまな食材が並べられていた。
先生が指示を出しながら、クラスメイトたちがそれぞれの準備を始めていた。

「今日のテーマは、簡単で美味しい和風の献立を作ることです。
正彦くんには、お手本として最初に作ってもらう料理があります。
皆に見せながら進めていくので、ちょっと緊張するかもしれないけど、やってみてください。」
先生が俺に任せたのは、和風ハンバーグだった。俺の好きな料理だったので、少し驚いたけれど、同時に嬉しかった。
「さあ、正彦くん、まずは材料を切っていきましょう。
玉ねぎのみじん切りから始めてくださいね。」
先生が優しく指導してくれる。

俺は少し緊張しながらも、玉ねぎを細かく刻んでいった。
周りのみんなが俺の手元を見ているのが分かり、手が震えそうになったけど、先生の穏やかな声が耳に入るたびに気持ちが落ち着いた。
「いい感じですね、次はひき肉と一緒に混ぜていきましょう。」
先生の声が、俺に自信を与えてくれる。
ハンバーグの形を整えて、フライパンでじっくりと焼き上げる。
ジュワッという音とともに、いい香りが教室に広がった。

最後におろしポン酢をかけて仕上げると、先生が笑顔で俺に声をかけた。
「とても上手にできましたね！みんなも、この手順を覚えておいて、自分のグループで作ってみてください。」
俺は、皆の前で無事に料理を作り終えた達成感と、先生の助けがあったおかげでうまくできたという安心感で、胸がいっぱいだった。
クラスメイトたちがそれぞれの調理を始める中、俺は先生と一緒に他の生徒たちをサポートする役割に回った。
家庭科の授業も終わりに近づき、みんなで作った料理をテーブルに並べた。
各グループが作った和風ハンバーグや副菜がきれいに盛り付けられ、教室中に美味しそうな香りが広がっていた。

先生が
「みんな、お疲れ様でした。それでは、自分たちで作った料理をいただきましょう」
と声をかけ、俺たちはそれぞれの席に座った。目の前に置かれた自分の作った和風ハンバーグを見て、自然と笑みがこぼれる。
「いただきます！」
と声を合わせて、俺たちは食事を始めた。最初に一口ハンバーグを口に運ぶと、ジュワッと肉汁が広がり、ポン酢のさっぱりとした味わいが口の中に広がる。
自分で作った料理がこんなにも美味しいとは、改めて実感する。
クラスメイトたちも、口々に「美味しい！」と笑顔を見せていて、教室の雰囲気はとても和やかだった。
先生も俺たちの様子を見て満足そうにしていた。
食事をしながら、俺はふと、次はどんな料理を作れるのか、どんなことを学べるのかと、家庭科の授業がますます楽しみになっていた。
先生の教え方も分かりやすく、調理の楽しさを実感できる時間だった。

みんなで協力して作り上げた料理を囲むこの時間は、家庭科調理実習ならではの特別なひとときだった。