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7月
第13帖。たまには外食。中華屋へ行く。
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7月に入ったので、堂々とエアコンをつける慧太だった。
機械的な音がして、やがて冷たい風が吹く。
「ふいー、涼しいのう」
「なんでまたいるんだ、けーこ。エアコン、苦手じゃなかったのか」
「苦手じゃが、こう暑くては参ってしまうわい。あ、けいた。エアコンは〝弱〟で頼む」
「はいはい」
居候みたいなクセに、けーこは命令口調だった。
昼下がりの一番暑い時間帯である。
けーこは半そで、半ズボンの軽快な格好で突如、慧太の家に現れたのだった。ちょうどシャワーから上がったばかりの慧太は、すっぽんぽん。
けーこが慌てて玄関扉から逃げて行ったとき、慧太は思わず大爆笑してしまったものだ。
「で、けーこ。買い物はどうする」
「珍しいのう。お主から言い出すとは。買い物か。そうじゃな、ヒマじゃし行っても良いかも知れぬ。何が食べたい?」
「うーん、何でも」
「〝何でもいい〟はナシじゃぞ」
慧太が答えるよりも早く、けーこは制する。
「な、な、何でも美味しく食べます」
「似たようなものじゃぞ! ふー。そうじゃのー。思い付かんのー。さすがのワシもトッサに言われては……」
「外食する?」
「外食か」
「近所の公園の近くにうどん屋がある」
「オシャレじゃないのう」
「そば屋もある」
「同じじゃろ」
「何が食べたいんだ、けーこは」
「うーん。何でも良いが……。美味しいものがいい」
「それって〝何でもいい〟とあんまり変わらないけど。痛っ。蹴らないでよ」
「うるさいから蹴ったのじゃ。いいからそこのマンガを寄越せ。まだ読んでおらん」
「あ。これ? はいはい」
「うむ」
けーこはベッドに寝転がる。うつ伏せでマンガを読んでいる。半ズボンから飛び出すした足を、ぱったんぱったん上下させ、マンガのページをめくる。
「む!」
「どうした」
「けいた。これ食べたい」
「ん? ラーメン?」
「その横じゃ。チャーハンが食べたい! 食べたい! 食べたい!」
「分かった分かった。なら中華屋に行こう。公園の向こうに1軒あったはずだ」
「うむ! 決まりじゃ!」
◆
カラスの鳴く道を歩く2人。
「けーこ、今日は学校は?」
「土曜日じゃぞ。半日じゃ」
「へー。今どき休みじゃないんだ」
「ワシが小中学生だった頃は土日は休みじゃった。じゃが最近変わっての。土曜日は半日授業なのじゃ」
慧太にとっては珍しくも何ともない。
土日が休みになったのは慧太が小中学生のときである。だからそれが元に戻っただけでのこと。
ただ人間、いったん休むことを覚えるとダラけるもので、半日の授業さえ億劫そうであった。
「そういえばけーこ、帰ってくるなり〝疲れたー、アイスー〟って」
「暑い日じゃったからの。夕方になってようやく、暑さは薄らいだが」
「そして僕のヌードを見るなんて変態だ。いてぇ! 蹴るな馬鹿!」
「ワシは変態じゃないぞ! ヒキコモリ!」
「最近ちゃんと外に出てます!」
「それ普通じゃぞ、馬鹿! 毎日、平日は外に出るのが普通なのじゃ」
「そ、そうか」
「何を、えばっておるのじゃ、まったく。そういえば休学届はどうなっておる?」
「来週出す」
「……」
「な、なんだよ」
「約束するか?」
けーこは、スッと小指を出す。
指切りゲンマンせよ、というのだ。慧太はちょっと恥ずかしい。20歳にもなって、こんなガキっぽいことをするなんて。
「けいた」
「分かった分かった。指切りゲンマン」
「嘘ついたら?」
「うーん、どうしよ。針千本のます」
「マンガ1万冊ワシに買うのじゃ。指きった!」
「あ、きたねえ! 僕まだ約束してないぞ!」
「知りませーん! 約束したのじゃぞ。言うこと守れよ!」
「このヤロー!」
てんやわんや騒ぎながら、2人は夕暮れの街並を歩く。
◆
中華屋に入るとすぐ、水が出て来る。
「さーて、何を食べよっかのー」
けーこはウキウキしている。メニューのあちこちを見ている。
「うーん、うーん」
「何だ、便秘か?」
ぎろりとにらむけーこ。眼力めっちゃ強い。怖い。
「けいたは黙っておれ」
「はい」
「何にしようかのう。酢豚がウマそうじゃ」
「それこの前、作ってくれたじゃないか」
「自分で作るのと、お店で食べるのは違うぞ。それともホイコーローか? チンジャオロースか?」
「チャーハンはどうだ」
「それいいの! うむ! チャーハンとホイコーローにしよう」
「りょ、両方? 食べきれるのか。そんなに頼んで」
「ワシなら行ける」
「その自信、僕にも欲しいよ。……よし、僕は台湾ラーメンだ」
注文する。
メニューを立てかけ、一息入れる。
けーこは厨房を見ている。年老いた店主が大きな中華鍋を振るっている。炎がゴウッと上がる。
店主は物怖じせず、中華鍋を我が物のように操る。
「いつもならワシはあっち側じゃ」
「ああ、あの店主の? そう言えばそうか。座って飯を待つだけだ。楽だろ?」
「うむ。座っておるだけで飯が出来る。ワシはひとり暮らしするまで、飯なぞあって当然じゃと思うておった。前の世界でも給仕どもが準備する飯を食うだけであったし。これほど料理が大変だとは考えもせなんだわ」
「そうか。逆の立場になって初めて分かるんだなあ」
「うむ。じゃが、けいたは飯を食うだけで良いぞ」
「かたくなに僕に飯を作らせようとしないね、けーこは。何か理由があるの?」
「何を言うておる」とけーこは笑う。「台所は女のテリトリーじゃぞ。男が踏み込んで良いものではない」
「そ、そうなの?」
「台所に女が2人立ってはならぬというじゃろう」
「聞いたことない」
「いかんのう。常識も知らんようじゃから、けいたはモテぬのだ」
「だから! 僕が! モテるモテないのは関係ないでしょ!」
「ふふふ、そうかのう」
けーこは不穏な笑みである。世の全てを知っているかのごとき、妖しげな笑み。
慧太は手元のウーロン茶をぐいっと飲み干した。
間もなく、注文の品がテーブルの上に並ぶ。
チャーハン。ホイコーロー。
それに台湾ラーメン。
「ウマそうじゃのー。イタダキマス」
けーこはすぐさまレンゲでチャーハンをぱくり。
卵でコーティングされた白米が強火で炒められている。わずかな焦げみを感じると同時に、ネギ、チャーシュー片、カニカマの地味な具たちも、今ばかりは主役である。
「ウマい。ご飯がパラパラになっておる。よほどの強火で炒めねばこうはならん」
けーこはほめつつ、レンゲをすさまじい速度で往復させる。
一息ついたらしい。レンゲを置いた。と、すかさず箸に持ち替え、目標をホイコーローに改める。
「おおっ、ホイコーローもウマい。中華ミソがキャベツによくからんでおる。豚バラ肉もカラリとしておる。これもまた家庭の台所では出せぬ味じゃぞ。けいた、聞いておるか?」
「え、ああ。聞いてる聞いてる。台湾ラーメンもウマい。ずるずる」
「少しくれ」
「いいよ。じゃ、チャーハンくれよ」
「減るから嫌じゃ」
「なんてガメつい!」
けーこは台湾ラーメンをすする。
辛い肉ミソが麺にからまる。口の中で一体になってあとを引き、食べれば食べるほど食欲が増す。添えられたニラの炒め物も、緑の鮮やかさを与えている。
鷹の爪の輪切りがときどき混じっているが、これさえもウマ味を引き出す一員になっているのだった。
「おー、辛い。じゃがウマい。やっぱり中華は王道じゃ」
「ウマいよね。中華に外れはない」
「うむ。時代が時代ならワシの城に抱えてやっておった」
「抱えて……? お抱え料理人てことか? この中華屋を?」
「左様。ウマい飯を食えるのは幸せじゃぞ」
けーこはチャーハンをぱくぱく食べる。慧太に1口あげようとかいう気はなさそうだ。
「けいた」
「ん?」
「あーんせよ。チャーハンを1口だけやる」
「あ、あーん。もぐもぐ」
「どうじゃ。ウマかろう」
「うん」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
というかそのレンゲ、けーこのだ。
慧太は「そういうこと」を意識する。が、けーこはそんなこと全然意識していないようである。間接キスである。などということは。
「ふー。ゴチソウサマデシタ」
あっという間に平らげるけーこだった。
◆
帰り道のコンビニでアイスを買った。それからすっかり暗くなった夜道の中途、公園に立ち寄る。
「休もうぞ」
「そうだね。アイスでも食べようか」
「うむ」
ベンチに並んで座る。
コンクリート製のベンチはまだ暖かい。どうやら暑苦しい夜になりそうだ。
「やっぱり中華のあとはアイスじゃな」
「そうだね。けーこのいた世界にアイスあった?」
「あるわけなかろう。中世じゃぞ。せいぜいが万年雪から持って来た、かき氷じゃ」
「へー。なるほど、それなら夏でもかき氷が食える」
「手間じゃぞ。こんなに気軽にアイスが食えて幸せじゃ。む、けいた。それは何じゃ。宇治金時か?」
「そうだよ。食べる?」
「うむ。代わりにこれをやる」
それはチューペットである。
困る。間接キスどころではない。もはやここまで来たら、けーこの口を直接吸った方が早いんじゃないか?
——って、僕は何を考えているんだ!
「くれぬのか」
「あげるあげる。けーここそ。このチューペット、もらっていいの?」
「構わんぞ。食え。……うむ、宇治金時ウマい。やっぱり料理を食うなら2人で食うに限るの。いろんな味を楽しめる」
「そうだね。それがいい」
慧太はうなずく。誰かと食う飯がウマい、ということは分かっている。
それにこうして公園で食べるアイス。何でもないことのように思えるが、慧太にはたまらなく嬉しい。
機械的な音がして、やがて冷たい風が吹く。
「ふいー、涼しいのう」
「なんでまたいるんだ、けーこ。エアコン、苦手じゃなかったのか」
「苦手じゃが、こう暑くては参ってしまうわい。あ、けいた。エアコンは〝弱〟で頼む」
「はいはい」
居候みたいなクセに、けーこは命令口調だった。
昼下がりの一番暑い時間帯である。
けーこは半そで、半ズボンの軽快な格好で突如、慧太の家に現れたのだった。ちょうどシャワーから上がったばかりの慧太は、すっぽんぽん。
けーこが慌てて玄関扉から逃げて行ったとき、慧太は思わず大爆笑してしまったものだ。
「で、けーこ。買い物はどうする」
「珍しいのう。お主から言い出すとは。買い物か。そうじゃな、ヒマじゃし行っても良いかも知れぬ。何が食べたい?」
「うーん、何でも」
「〝何でもいい〟はナシじゃぞ」
慧太が答えるよりも早く、けーこは制する。
「な、な、何でも美味しく食べます」
「似たようなものじゃぞ! ふー。そうじゃのー。思い付かんのー。さすがのワシもトッサに言われては……」
「外食する?」
「外食か」
「近所の公園の近くにうどん屋がある」
「オシャレじゃないのう」
「そば屋もある」
「同じじゃろ」
「何が食べたいんだ、けーこは」
「うーん。何でも良いが……。美味しいものがいい」
「それって〝何でもいい〟とあんまり変わらないけど。痛っ。蹴らないでよ」
「うるさいから蹴ったのじゃ。いいからそこのマンガを寄越せ。まだ読んでおらん」
「あ。これ? はいはい」
「うむ」
けーこはベッドに寝転がる。うつ伏せでマンガを読んでいる。半ズボンから飛び出すした足を、ぱったんぱったん上下させ、マンガのページをめくる。
「む!」
「どうした」
「けいた。これ食べたい」
「ん? ラーメン?」
「その横じゃ。チャーハンが食べたい! 食べたい! 食べたい!」
「分かった分かった。なら中華屋に行こう。公園の向こうに1軒あったはずだ」
「うむ! 決まりじゃ!」
◆
カラスの鳴く道を歩く2人。
「けーこ、今日は学校は?」
「土曜日じゃぞ。半日じゃ」
「へー。今どき休みじゃないんだ」
「ワシが小中学生だった頃は土日は休みじゃった。じゃが最近変わっての。土曜日は半日授業なのじゃ」
慧太にとっては珍しくも何ともない。
土日が休みになったのは慧太が小中学生のときである。だからそれが元に戻っただけでのこと。
ただ人間、いったん休むことを覚えるとダラけるもので、半日の授業さえ億劫そうであった。
「そういえばけーこ、帰ってくるなり〝疲れたー、アイスー〟って」
「暑い日じゃったからの。夕方になってようやく、暑さは薄らいだが」
「そして僕のヌードを見るなんて変態だ。いてぇ! 蹴るな馬鹿!」
「ワシは変態じゃないぞ! ヒキコモリ!」
「最近ちゃんと外に出てます!」
「それ普通じゃぞ、馬鹿! 毎日、平日は外に出るのが普通なのじゃ」
「そ、そうか」
「何を、えばっておるのじゃ、まったく。そういえば休学届はどうなっておる?」
「来週出す」
「……」
「な、なんだよ」
「約束するか?」
けーこは、スッと小指を出す。
指切りゲンマンせよ、というのだ。慧太はちょっと恥ずかしい。20歳にもなって、こんなガキっぽいことをするなんて。
「けいた」
「分かった分かった。指切りゲンマン」
「嘘ついたら?」
「うーん、どうしよ。針千本のます」
「マンガ1万冊ワシに買うのじゃ。指きった!」
「あ、きたねえ! 僕まだ約束してないぞ!」
「知りませーん! 約束したのじゃぞ。言うこと守れよ!」
「このヤロー!」
てんやわんや騒ぎながら、2人は夕暮れの街並を歩く。
◆
中華屋に入るとすぐ、水が出て来る。
「さーて、何を食べよっかのー」
けーこはウキウキしている。メニューのあちこちを見ている。
「うーん、うーん」
「何だ、便秘か?」
ぎろりとにらむけーこ。眼力めっちゃ強い。怖い。
「けいたは黙っておれ」
「はい」
「何にしようかのう。酢豚がウマそうじゃ」
「それこの前、作ってくれたじゃないか」
「自分で作るのと、お店で食べるのは違うぞ。それともホイコーローか? チンジャオロースか?」
「チャーハンはどうだ」
「それいいの! うむ! チャーハンとホイコーローにしよう」
「りょ、両方? 食べきれるのか。そんなに頼んで」
「ワシなら行ける」
「その自信、僕にも欲しいよ。……よし、僕は台湾ラーメンだ」
注文する。
メニューを立てかけ、一息入れる。
けーこは厨房を見ている。年老いた店主が大きな中華鍋を振るっている。炎がゴウッと上がる。
店主は物怖じせず、中華鍋を我が物のように操る。
「いつもならワシはあっち側じゃ」
「ああ、あの店主の? そう言えばそうか。座って飯を待つだけだ。楽だろ?」
「うむ。座っておるだけで飯が出来る。ワシはひとり暮らしするまで、飯なぞあって当然じゃと思うておった。前の世界でも給仕どもが準備する飯を食うだけであったし。これほど料理が大変だとは考えもせなんだわ」
「そうか。逆の立場になって初めて分かるんだなあ」
「うむ。じゃが、けいたは飯を食うだけで良いぞ」
「かたくなに僕に飯を作らせようとしないね、けーこは。何か理由があるの?」
「何を言うておる」とけーこは笑う。「台所は女のテリトリーじゃぞ。男が踏み込んで良いものではない」
「そ、そうなの?」
「台所に女が2人立ってはならぬというじゃろう」
「聞いたことない」
「いかんのう。常識も知らんようじゃから、けいたはモテぬのだ」
「だから! 僕が! モテるモテないのは関係ないでしょ!」
「ふふふ、そうかのう」
けーこは不穏な笑みである。世の全てを知っているかのごとき、妖しげな笑み。
慧太は手元のウーロン茶をぐいっと飲み干した。
間もなく、注文の品がテーブルの上に並ぶ。
チャーハン。ホイコーロー。
それに台湾ラーメン。
「ウマそうじゃのー。イタダキマス」
けーこはすぐさまレンゲでチャーハンをぱくり。
卵でコーティングされた白米が強火で炒められている。わずかな焦げみを感じると同時に、ネギ、チャーシュー片、カニカマの地味な具たちも、今ばかりは主役である。
「ウマい。ご飯がパラパラになっておる。よほどの強火で炒めねばこうはならん」
けーこはほめつつ、レンゲをすさまじい速度で往復させる。
一息ついたらしい。レンゲを置いた。と、すかさず箸に持ち替え、目標をホイコーローに改める。
「おおっ、ホイコーローもウマい。中華ミソがキャベツによくからんでおる。豚バラ肉もカラリとしておる。これもまた家庭の台所では出せぬ味じゃぞ。けいた、聞いておるか?」
「え、ああ。聞いてる聞いてる。台湾ラーメンもウマい。ずるずる」
「少しくれ」
「いいよ。じゃ、チャーハンくれよ」
「減るから嫌じゃ」
「なんてガメつい!」
けーこは台湾ラーメンをすする。
辛い肉ミソが麺にからまる。口の中で一体になってあとを引き、食べれば食べるほど食欲が増す。添えられたニラの炒め物も、緑の鮮やかさを与えている。
鷹の爪の輪切りがときどき混じっているが、これさえもウマ味を引き出す一員になっているのだった。
「おー、辛い。じゃがウマい。やっぱり中華は王道じゃ」
「ウマいよね。中華に外れはない」
「うむ。時代が時代ならワシの城に抱えてやっておった」
「抱えて……? お抱え料理人てことか? この中華屋を?」
「左様。ウマい飯を食えるのは幸せじゃぞ」
けーこはチャーハンをぱくぱく食べる。慧太に1口あげようとかいう気はなさそうだ。
「けいた」
「ん?」
「あーんせよ。チャーハンを1口だけやる」
「あ、あーん。もぐもぐ」
「どうじゃ。ウマかろう」
「うん」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
というかそのレンゲ、けーこのだ。
慧太は「そういうこと」を意識する。が、けーこはそんなこと全然意識していないようである。間接キスである。などということは。
「ふー。ゴチソウサマデシタ」
あっという間に平らげるけーこだった。
◆
帰り道のコンビニでアイスを買った。それからすっかり暗くなった夜道の中途、公園に立ち寄る。
「休もうぞ」
「そうだね。アイスでも食べようか」
「うむ」
ベンチに並んで座る。
コンクリート製のベンチはまだ暖かい。どうやら暑苦しい夜になりそうだ。
「やっぱり中華のあとはアイスじゃな」
「そうだね。けーこのいた世界にアイスあった?」
「あるわけなかろう。中世じゃぞ。せいぜいが万年雪から持って来た、かき氷じゃ」
「へー。なるほど、それなら夏でもかき氷が食える」
「手間じゃぞ。こんなに気軽にアイスが食えて幸せじゃ。む、けいた。それは何じゃ。宇治金時か?」
「そうだよ。食べる?」
「うむ。代わりにこれをやる」
それはチューペットである。
困る。間接キスどころではない。もはやここまで来たら、けーこの口を直接吸った方が早いんじゃないか?
——って、僕は何を考えているんだ!
「くれぬのか」
「あげるあげる。けーここそ。このチューペット、もらっていいの?」
「構わんぞ。食え。……うむ、宇治金時ウマい。やっぱり料理を食うなら2人で食うに限るの。いろんな味を楽しめる」
「そうだね。それがいい」
慧太はうなずく。誰かと食う飯がウマい、ということは分かっている。
それにこうして公園で食べるアイス。何でもないことのように思えるが、慧太にはたまらなく嬉しい。
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