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思わず閉じようとした脚の間に彼の腰が挟まった。どうしよう、と息を呑む。
「……やめる?」
私の反応を見かねて、彼が尋ねる。
「ううん、やめない。ちょっとびっくりしただけ」
嫌がっていないということを伝えるために自分からキスをする。狙いが外れて唇の端をかすめるだけになってしまったけれど、今度は友紀くんから唇を寄せられた。
キスをしながら、胸元のボタンが外されていく。できた隙間に手のひらが滑り込んできて、素肌に触れる。
──熱い。
室内の冷えた空気にさらされた肌には過ぎた熱だった。触れられた場所から甘い疼きが広がって、息が浅くなる。
「っ……ふ、ぅ」
声を出したくないのに、いつのまにか下がってきていた唇に首を食まれて小さく声が零れる。柔らかい感触は私の肌よりも冷えていた。手のひらの熱とひんやりとした唇の弾力の差に、胸が切なくなった。
視線を落として気づいた。乱れた前髪の向こうで熱を帯びた瞳が私の反応を見逃すまいとしている。見られていることが恥ずかしくてたまらないのに、魅入られたように視線をそらすことができない。
それでようやく、電気がつけっぱなしだったことを認識した。
「ゃ、電気、」
つたない言葉をくみ取ってくれて、友紀くんは腕を伸ばしてベッドサイドのスイッチに触れる。すぐにライトがしぼられた。常夜灯の淡い光だけは点いているけれど、許容範囲だ。
と、温かな吐息が肌に触れ、くすぐったさに身をよじる。視線が離れたことにほっとしたのもつかの間、胸元に温もりを感じる。直後、同じ場所が肌の熱を奪われるような感覚に陥った。
「な、に……?」
目を向けると、薄い唇の間から舌先が覗いている。唾液で濡れて光を放つその淫靡さにお腹の奥が締め付けられるように重くなった。
だめ、と言いかけた声が、震える息遣いに変わってしまう。ナイトウェアで隠されていたはずの胸の先端が濡れた粘膜に包み込まれたからだ。
「ん、ぁ……っ」
舌で転がされるように愛撫され、もがきながらもとっさに口元に手を当てた。反対側の胸の先は指でもてあそばれている。身体を左右によじるせいで、ナイトウェアはすでにかろうじて腕に引っかかっているだけだ。
いくら暗いとはいえ、抵抗はある。なのに、制止の言葉なんて忘れてしまったかのようにあられもない声ばかりが口から零れ落ちた。
黙ろうと思うのに、触れられれば喉の奥がひくついて、我慢できずにとめどなく嬌声があがる。
熱くぬめる舌が胸でとどまっている間に、優しげな手つきで腹部を撫でられた。その手は腰の横を通って太ももをさする。反射的に足が閉じようとして、足の間に友紀くんの手のひらを挟み込んでしまった。
きつく膝を合わせた状態ではにっちもさっちもいかないのだけれど、脚を開くのは抵抗があって躊躇する。
二人で顔を見合わせていると、ふいに内ももを指先でくすぐられた。
「ひ、っ」
くすぐったさで思わず脚から力が抜けた。その間に手のひらが上がってきて、下着の縁をなぞられる。
「脱がせていい?」
言葉で答えるのは恥ずかしくて、頷きで返す。すぐに足ぐりのレースに指先が潜り込んだのを感じ、軽く腰を浮かした。
する、と下着が脱がされて、また脚がこわばる。怖気づいていることを気づかれたくなくて、腕を上げて顔を隠した。
「顔、見ちゃだめ?」
友紀くんが手を止めて、甘えるような声で言う。
「それは、だめ……」
こればかりは看過できない。いくら明かりを落としていたって、まったく見えなくなるわけじゃないんだから。
「じゃあ、キスして」
「っん、」
答える前に、唇が重なってきた。自然腕が押し上げられる形になって、顔を隠し続けることができない。
遠慮なしに舌を差し込まれ、甘い疼きが口内を満たす。
与えられる快楽にぼんやりしている間に、すっかり身体を覆う物をなくしていた。直接触れる手のひらが通った場所に熱がこもり、肌が汗ばんだ。
優しく撫でる手つきがいつしか核心的な部分に伸びて、息が浅くなる。二人分のせわしない息遣い、濡れた音。
口づけがやんだかと思うと、熱っぽいため息が肌をかすめた。少し距離が離れた場所にある友紀くんの眼差しがひどく艶めいているのに気づく。目が逸らせない。
瞳を見れば、何を望まれているか理解できた。きっと向こうもそうだ。
しなやかな腕がヘッドボードに伸びて、何かを取る。
「いい?」
プラスチックのパッケージを見せられて、一瞬目を見開く。頷いてみせると、ピリ、とパッケージが破られる。心臓が口から飛び出そうなくらい高鳴っている。
用意が整えられる間、頂点に達した緊張をどうにか落ち着けなくてはと、深く息を吸った。
そうしてその時が来る。足を開かされ、お互いの生身の胸を合わせると、ぐっと力がかかって──
「っ、ぅ……」
痛みはないものの、圧迫感につい声を漏らす。
身体から力を抜こうと息を吐いていると、ついばむようにキスが送られる。柔らかな温もりに食い締めかけていた歯列が離れる。
時間をかけてゆっくりと身体をひらかれて、隙間なく抱きしめ合った時、胸の奥からじわりと温かな感情があふれた。
まだ違和感はあるものの、それを上回るほどに幸せだった。泣きたくなるくらいに。
潤んだ目元にキスが落とされる。
「苦しい?」
心配そうな顔をされて、緩く首を振ってみせた。
「平気。……動いていいよ」
きっと我慢させているだろうな、と思ってそんな風に促すけれど、彼は私のことをぎゅっと抱きしめたまま動き出す気配はない。
「こうしてるだけでも気持ちいいから」
鼓膜を揺らす声音の甘い響きにびくりと肩を揺らす。
艶めいた囁きに気を取られてしまったけれど、遅れてその内容を嚙み砕き、身に余るくらいに大事にされていると再確認できた。それに対して何か意思表示をしたくて、シーツの上に無造作に置いていた腕を持ち上げた。
友紀くんの首の後ろに腕を回して自分からも抱きつくと、彼が小さく息を呑んだのがわかった。
触れた身体から伝わる鼓動を感じ、心持ちが変わった。彼の拍動もずいぶん早い。
いっぱいいっぱいなのは私だけじゃないのかも、と思って少しだけほっとする。
今はちょっと余裕がなくてこれ以上はできそうにない。でも、この先機会があったらもっと積極的になりたい。今までずっと、もらうばかりだったから。
頭の片隅でそんなことを考えているうちに、身体が慣れてきた。今度こそ大丈夫だと伝えると、浅く身体の奥を揺らされる。
「……やめる?」
私の反応を見かねて、彼が尋ねる。
「ううん、やめない。ちょっとびっくりしただけ」
嫌がっていないということを伝えるために自分からキスをする。狙いが外れて唇の端をかすめるだけになってしまったけれど、今度は友紀くんから唇を寄せられた。
キスをしながら、胸元のボタンが外されていく。できた隙間に手のひらが滑り込んできて、素肌に触れる。
──熱い。
室内の冷えた空気にさらされた肌には過ぎた熱だった。触れられた場所から甘い疼きが広がって、息が浅くなる。
「っ……ふ、ぅ」
声を出したくないのに、いつのまにか下がってきていた唇に首を食まれて小さく声が零れる。柔らかい感触は私の肌よりも冷えていた。手のひらの熱とひんやりとした唇の弾力の差に、胸が切なくなった。
視線を落として気づいた。乱れた前髪の向こうで熱を帯びた瞳が私の反応を見逃すまいとしている。見られていることが恥ずかしくてたまらないのに、魅入られたように視線をそらすことができない。
それでようやく、電気がつけっぱなしだったことを認識した。
「ゃ、電気、」
つたない言葉をくみ取ってくれて、友紀くんは腕を伸ばしてベッドサイドのスイッチに触れる。すぐにライトがしぼられた。常夜灯の淡い光だけは点いているけれど、許容範囲だ。
と、温かな吐息が肌に触れ、くすぐったさに身をよじる。視線が離れたことにほっとしたのもつかの間、胸元に温もりを感じる。直後、同じ場所が肌の熱を奪われるような感覚に陥った。
「な、に……?」
目を向けると、薄い唇の間から舌先が覗いている。唾液で濡れて光を放つその淫靡さにお腹の奥が締め付けられるように重くなった。
だめ、と言いかけた声が、震える息遣いに変わってしまう。ナイトウェアで隠されていたはずの胸の先端が濡れた粘膜に包み込まれたからだ。
「ん、ぁ……っ」
舌で転がされるように愛撫され、もがきながらもとっさに口元に手を当てた。反対側の胸の先は指でもてあそばれている。身体を左右によじるせいで、ナイトウェアはすでにかろうじて腕に引っかかっているだけだ。
いくら暗いとはいえ、抵抗はある。なのに、制止の言葉なんて忘れてしまったかのようにあられもない声ばかりが口から零れ落ちた。
黙ろうと思うのに、触れられれば喉の奥がひくついて、我慢できずにとめどなく嬌声があがる。
熱くぬめる舌が胸でとどまっている間に、優しげな手つきで腹部を撫でられた。その手は腰の横を通って太ももをさする。反射的に足が閉じようとして、足の間に友紀くんの手のひらを挟み込んでしまった。
きつく膝を合わせた状態ではにっちもさっちもいかないのだけれど、脚を開くのは抵抗があって躊躇する。
二人で顔を見合わせていると、ふいに内ももを指先でくすぐられた。
「ひ、っ」
くすぐったさで思わず脚から力が抜けた。その間に手のひらが上がってきて、下着の縁をなぞられる。
「脱がせていい?」
言葉で答えるのは恥ずかしくて、頷きで返す。すぐに足ぐりのレースに指先が潜り込んだのを感じ、軽く腰を浮かした。
する、と下着が脱がされて、また脚がこわばる。怖気づいていることを気づかれたくなくて、腕を上げて顔を隠した。
「顔、見ちゃだめ?」
友紀くんが手を止めて、甘えるような声で言う。
「それは、だめ……」
こればかりは看過できない。いくら明かりを落としていたって、まったく見えなくなるわけじゃないんだから。
「じゃあ、キスして」
「っん、」
答える前に、唇が重なってきた。自然腕が押し上げられる形になって、顔を隠し続けることができない。
遠慮なしに舌を差し込まれ、甘い疼きが口内を満たす。
与えられる快楽にぼんやりしている間に、すっかり身体を覆う物をなくしていた。直接触れる手のひらが通った場所に熱がこもり、肌が汗ばんだ。
優しく撫でる手つきがいつしか核心的な部分に伸びて、息が浅くなる。二人分のせわしない息遣い、濡れた音。
口づけがやんだかと思うと、熱っぽいため息が肌をかすめた。少し距離が離れた場所にある友紀くんの眼差しがひどく艶めいているのに気づく。目が逸らせない。
瞳を見れば、何を望まれているか理解できた。きっと向こうもそうだ。
しなやかな腕がヘッドボードに伸びて、何かを取る。
「いい?」
プラスチックのパッケージを見せられて、一瞬目を見開く。頷いてみせると、ピリ、とパッケージが破られる。心臓が口から飛び出そうなくらい高鳴っている。
用意が整えられる間、頂点に達した緊張をどうにか落ち着けなくてはと、深く息を吸った。
そうしてその時が来る。足を開かされ、お互いの生身の胸を合わせると、ぐっと力がかかって──
「っ、ぅ……」
痛みはないものの、圧迫感につい声を漏らす。
身体から力を抜こうと息を吐いていると、ついばむようにキスが送られる。柔らかな温もりに食い締めかけていた歯列が離れる。
時間をかけてゆっくりと身体をひらかれて、隙間なく抱きしめ合った時、胸の奥からじわりと温かな感情があふれた。
まだ違和感はあるものの、それを上回るほどに幸せだった。泣きたくなるくらいに。
潤んだ目元にキスが落とされる。
「苦しい?」
心配そうな顔をされて、緩く首を振ってみせた。
「平気。……動いていいよ」
きっと我慢させているだろうな、と思ってそんな風に促すけれど、彼は私のことをぎゅっと抱きしめたまま動き出す気配はない。
「こうしてるだけでも気持ちいいから」
鼓膜を揺らす声音の甘い響きにびくりと肩を揺らす。
艶めいた囁きに気を取られてしまったけれど、遅れてその内容を嚙み砕き、身に余るくらいに大事にされていると再確認できた。それに対して何か意思表示をしたくて、シーツの上に無造作に置いていた腕を持ち上げた。
友紀くんの首の後ろに腕を回して自分からも抱きつくと、彼が小さく息を呑んだのがわかった。
触れた身体から伝わる鼓動を感じ、心持ちが変わった。彼の拍動もずいぶん早い。
いっぱいいっぱいなのは私だけじゃないのかも、と思って少しだけほっとする。
今はちょっと余裕がなくてこれ以上はできそうにない。でも、この先機会があったらもっと積極的になりたい。今までずっと、もらうばかりだったから。
頭の片隅でそんなことを考えているうちに、身体が慣れてきた。今度こそ大丈夫だと伝えると、浅く身体の奥を揺らされる。
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