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14買い物デートじゃありません
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麻衣と別れてから、友紀くんとの約束のために向かった先は恵比寿。一週間前も同じ地を踏んでいる。お互いの家からだいたい中間地点で、混み過ぎない所が安心だ。
待ち合わせに現れた友紀くんは細かいドットの入った紺色のシャツに薄手のセーター、下はベージュっぽいチノパンだ。いつも落ち着きのある恰好をしているけれど、今日も漏れなく上品だ。
対して私はケーブル模様のざっくりニットにチェックの巻きスカート。試着の時に脱ぎ着しやすいかどうかと、場所柄と買い物の使途でカジュアル過ぎない方がいいだろうと思ってのチョイスだった。
早速駅直結のビルに入る。
友紀くんはシャツとネクタイ、ポケットチーフが必要だという。私はパンプスとジャケットはあるので、ドレス単体で買うつもりだ。
ファッションフロアはメンズもレディースも混在しているので、どちらからとも決めずにぐるりと巡る。
いくつか流し見して、友紀くんはある程度の目星をつけることができたらしい。私と言えば、デザインやお値段で決めきれないまま最後の店舗になってしまった。
なじみのない名前のセレクトショップで、あまり期待はしていなかったけれど、店内奥の一角にウエストの部分でベルトのように布が交差したコクーン型のワンピースドレスを見つける。
色はブラックと鮮やかなクリムゾンレッド、明るめのネイビーにくすみのあるラベンダーの四色展開のようだ。
使いやすそうなのは黒だけど、前のドレスも黒だったから少し気分を変えたい気もする。レッドは鮮やか過ぎて落ち着かない。
「紫は?」
ブラックとネイビーを手に取って鏡で合わせていると、友紀くんに声をかけられた。ハンガーラックの隅につるされているラベンダー色のドレスに目をやる。
「綺麗な色だと思う」
直感的に思ったことを伝える。あまり着たことのない色で、つい視界から追いやってしまっていた。
彼は片手でラベンダー色のドレスのかかったハンガーを取り、反対側の手で私が持っているドレスを回収して新たなドレスを差し出した。
「似合うと思うよ」
すぐ近くにある鏡を確認すると、意外なほどにしっくりなじむ。光沢が抑えめなシャンタン生地は華やかさに加えエレガントさも持ち合わせている。
着慣れない色だと思っていたけれど、肌の色になじんで心なしか顔色もよく見えるような気がした。
見れば見るほどこのドレス以外は考えられないような気になってくるから不思議だった。
「ほら、可愛い」
普段なら恥ずかしくて居たたまれなくなるような褒め言葉だけど、うっかり否定を忘れるくらいドレスに見入ってしまっていた。
「……試着しようかな」
呟くと、鏡越しに友紀くんが軽く目をすがめた。
その後、彼が店員さんを呼んでくれて、試着室へ入る。
実際に着てみて形も丈も、申し分ないことを確認する。試着室のカーテンを開けて顔を出すと、すぐ近くのソファに座っていた友紀くんが腰を上げた。
「思った通り、すごく可愛い」
店員さんも友紀くんも絶賛してくれた。短い袖から出る二の腕を抱えているのは、肌寒さと気恥ずかしさのせいだ。とはいえ、自分でもすごく気に入った。
ひとまず着替えをしてから会計をお願いする。すると、作業をしながら店員さんがにこにこと話しかけてきた。
「お客様にとってもお似合いでしたよ~。彼氏さん、センスいいですね」
「か、彼氏……!?」
悪気のない言葉に慌てふためいてしまう。
違う、そうじゃない。けれど、ここでむきになって否定するのも変かもしれない。
出口付近で待っていてくれている友紀くんに聴こえていないことを祈りながら、愛想笑いを浮かべた。
ショップを出ると、今度は友紀くんの買い物に向かう。すでに心は決まっているらしく、迷いなく一度通った道を戻る。
待ち合わせに現れた友紀くんは細かいドットの入った紺色のシャツに薄手のセーター、下はベージュっぽいチノパンだ。いつも落ち着きのある恰好をしているけれど、今日も漏れなく上品だ。
対して私はケーブル模様のざっくりニットにチェックの巻きスカート。試着の時に脱ぎ着しやすいかどうかと、場所柄と買い物の使途でカジュアル過ぎない方がいいだろうと思ってのチョイスだった。
早速駅直結のビルに入る。
友紀くんはシャツとネクタイ、ポケットチーフが必要だという。私はパンプスとジャケットはあるので、ドレス単体で買うつもりだ。
ファッションフロアはメンズもレディースも混在しているので、どちらからとも決めずにぐるりと巡る。
いくつか流し見して、友紀くんはある程度の目星をつけることができたらしい。私と言えば、デザインやお値段で決めきれないまま最後の店舗になってしまった。
なじみのない名前のセレクトショップで、あまり期待はしていなかったけれど、店内奥の一角にウエストの部分でベルトのように布が交差したコクーン型のワンピースドレスを見つける。
色はブラックと鮮やかなクリムゾンレッド、明るめのネイビーにくすみのあるラベンダーの四色展開のようだ。
使いやすそうなのは黒だけど、前のドレスも黒だったから少し気分を変えたい気もする。レッドは鮮やか過ぎて落ち着かない。
「紫は?」
ブラックとネイビーを手に取って鏡で合わせていると、友紀くんに声をかけられた。ハンガーラックの隅につるされているラベンダー色のドレスに目をやる。
「綺麗な色だと思う」
直感的に思ったことを伝える。あまり着たことのない色で、つい視界から追いやってしまっていた。
彼は片手でラベンダー色のドレスのかかったハンガーを取り、反対側の手で私が持っているドレスを回収して新たなドレスを差し出した。
「似合うと思うよ」
すぐ近くにある鏡を確認すると、意外なほどにしっくりなじむ。光沢が抑えめなシャンタン生地は華やかさに加えエレガントさも持ち合わせている。
着慣れない色だと思っていたけれど、肌の色になじんで心なしか顔色もよく見えるような気がした。
見れば見るほどこのドレス以外は考えられないような気になってくるから不思議だった。
「ほら、可愛い」
普段なら恥ずかしくて居たたまれなくなるような褒め言葉だけど、うっかり否定を忘れるくらいドレスに見入ってしまっていた。
「……試着しようかな」
呟くと、鏡越しに友紀くんが軽く目をすがめた。
その後、彼が店員さんを呼んでくれて、試着室へ入る。
実際に着てみて形も丈も、申し分ないことを確認する。試着室のカーテンを開けて顔を出すと、すぐ近くのソファに座っていた友紀くんが腰を上げた。
「思った通り、すごく可愛い」
店員さんも友紀くんも絶賛してくれた。短い袖から出る二の腕を抱えているのは、肌寒さと気恥ずかしさのせいだ。とはいえ、自分でもすごく気に入った。
ひとまず着替えをしてから会計をお願いする。すると、作業をしながら店員さんがにこにこと話しかけてきた。
「お客様にとってもお似合いでしたよ~。彼氏さん、センスいいですね」
「か、彼氏……!?」
悪気のない言葉に慌てふためいてしまう。
違う、そうじゃない。けれど、ここでむきになって否定するのも変かもしれない。
出口付近で待っていてくれている友紀くんに聴こえていないことを祈りながら、愛想笑いを浮かべた。
ショップを出ると、今度は友紀くんの買い物に向かう。すでに心は決まっているらしく、迷いなく一度通った道を戻る。
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