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十三歳、淡い初恋、片想い

回想:出会ったその日に恋をした5

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どうしたらいいかわからず立ち尽くしていると、横からルークに手を差し伸べる者がいた。
「お前、やるじゃん」
聞き覚えのある声にはっとして顔を向けると、従兄のテオが腰を屈めていた。いつの間に、とエマが目をしばたたかせているうちにテオがルークの手首を取る。
「誰……」
いぶかしげに見上げるルークに向かって、テオがにやっと笑う。
「テオ。エマの従兄。お前は?」
確認するようにルークの視線がこちらを向いたので、エマは頷いてみせる。
「……ルーク」
「そっか。たぶん、同じくらいの年だよな」
テオが掴んだ腕をぐいっと引っ張り上げる。乱暴なやり方に、エマはようやく言葉を発した。
「怪我してるんだから気をつけて」
「あー、そうだな。おぶってやろうか?」
「いらない。平気だ」
ルークは不本意だと言わんばかりにテオの腕を振り払う。テオは気にした様子もなく、「男はそうでなきゃな」なんて機嫌が良さそうに歯を見せている。
場の雰囲気が和やかになりかけた時、恨みがましい声が投げかけられた。
「お前、覚えてろよ」
肩を震わせ右手をかばいながら起き上がったダンが悔しげにルークをねめつけていた。
「君が自滅したんだ」
満身創痍ながらも、ルークは瞳に闘志を宿しながら返す。
「あら、新しいお友達?」
再び臨戦態勢になろうかという空気は鈴を転がすような声音に霧散した。
その場の全員の目線が声の主に集中する。そこにはテオとよく似た容姿を持ち、しかしもっとたおやかで可憐な美少女が立っていた。
「姉ちゃん……」
まだ膨らみの少ない胸元に白魚のような手を当てて、テオの姉であるリュシーは息をついた。
「テオったら、いきなり走り出してびっくりするじゃない。久しぶりに走ったから息が切れてしまったわ。それで、みんなで何をしてたの?」
リュシーは地面にうずくまったダンとボロボロのルーク、そして泣きべそ顔のエマを順繰りに視線で撫で、小首を傾げた。そんな仕草も愛らしく、喧嘩の後だというのに妙に気持ちを寛がせる。
「あ……」
突然現れた美少女相手に、ダンですらも見惚れていた。
「大変。怪我をしているじゃない。とりあえず手当てをした方がいいわね。お医者様へ行く?」
真っ白なサマードレスに包まれた膝に両手を乗せて屈みこんだリュシーに、ダンの赤ら顔がますます色を濃くする。
「いやっ、俺は平気……です……」
「それならいいけれど……痛くなったらちゃんと病院に行かなきゃダメよ」
そう言い置くと、リュシーはエマのそばへ寄った。
「とりあえず、どこから始めたらいいかな?」
少しの逡巡の後、ポケットから出したハンカチで優しく頬を拭われる。ぱりっと糊のかかった純白のハンカチの感触が肌に擦れてくすぐったい。安心したのか、ぎりぎりの所で耐えていた涙があふれ出す。
「ああもう、エマ。大丈夫だから」
リュシーはしなやかな両腕を伸ばし、エマをそっと抱きしめてくれた。
「汚れちゃうよ……」
エマはいまだ握りしめたままのアイスクリームコーンを背中側に回し、遠慮がちに後ずさろうとする。しかしリュシーはエマの背中に回した腕を解こうとなしなかった。
「いいのいいの。この服、気に入ってないから遠慮なく汚して」
エマを慰めるための気休めではなく、彼女の本心だろう。レースとフリルがあしらわれたサマードレスはリュシーにとても似合っているのにもったいないと感じる。けれども正直でさっぱりした所がリュシーらしくて、エマはくすっと笑みをこぼした。
「そうそう、エマは笑ってた方が可愛いよ。さ、もう日が暮れるから帰りましょ。アイス、持ってあげる」
躊躇するエマの手からかつてアイスクリームだった残骸をさらい、リュシーは歩き出した。その後について足を踏み出したものの、ルークのことが気にかかる。すると彼はテオに肩を貸されながらちゃんとついてきていた。
沈みかけた夕日を背に、一同はエマの父親の営む薬局に向かう。道中、リュシーとテオは夏の間、エマの家に世話になると話した。
「リュシーは別の街の寄宿学校に行くけど、俺は街の学校に通うから」
「なら、僕と同じ学校かもしれない」
ルークとテオが同時に校名を言うと、見事に音が重なった。
すでに同じクラスになったかのように意気投合する彼らを見て、エマは羨ましさを感じずにいられなかった。エマの方が先に出会ったのに、男の子同士でさっさと仲良くなってしまいそうで少し焦りを感じていた。
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