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十三歳、淡い初恋、片想い

再会

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月の光を受けてきらめく彼の灰銀の瞳に見惚れそうになった時――
「ルーク、エマ!」
よく聞き慣れた声で呼ばわれて、お互い目を見開く。
「今のって」
「テオの声、だよな」
声のした方に目を向けると、先ほど汽笛を鳴らした船の舳先に大きく手を振る影が見えた。
「テオ、お前何してるんだよ」
橋から身を乗り出してルークが叫ぶ。
「いいから、お前らも乗れよ」
「乗れって言ったって……」
船は止まる気配も見せず、こちらに近づいてくる。それほど速度は出ていないようだから、できないことはない。
こうなってしまったら、告白は一旦お預けだ。ぐずぐずしていたのが悪い。残念なようなほっとしたような複雑な気持ちでエマは小さく息を吐いた。
テオはしきりにこちらへ来いと手を招いている。その背後にすらりした女性のシルエットを見つけ、目を見張る。
「行こう、ルーク」
欄干から降りて、エマはルークの腕を引く。
「早くしないと間に合わないよ」
船は着々と近づいてきている。橋をくぐる時はきっとほんの少し速度を落とすだろうから、乗り移れるとしたらその時がチャンスだ。
「わかった」
ルークも欄干から離れ、二人で橋のたもとに移動する。ルークに支えてもらいながら、草を踏み分け川のぎりぎりまで近寄った。
橋の向こうに船が見える。水面との間はエマの両腕を伸ばしたよりも短い。
「エマ、行かせるぞ」
ルークが知らせると、船からテオの腕が突き出し親指を上に向けた。
「今だ!」
ルークに背を押され、両足で力強く地面を蹴って船に向かって跳んだ。足先が縁を越えデッキに着地すると待ち構えていたテオが受け止めてくれた。
ルークはと岸の方を見ると、今まさに跳躍しているところだった。彼は危なげなくデッキに着地して、テオとハイタッチを交わした。
「帰ってくるの、明日じゃなかったのか」
「そうだったんだけど、色々あったんだよ」
「ねえ二人とも、それよりやることがあるんじゃない?」
二人のそばを離れ、船の中ほどでエマに向かって小さく手を振る女性に近づいた。
「リュシー、久しぶり」
すらりと背筋を伸ばし、優美な笑みを浮かべながらリュシーはエマに向かって足を踏み出した。
「ええ。元気そうね、エマ」
鈴を転がすようなという表現はこういうことを言うのかもしれないという涼やかな声色が耳になじむ。リュシーことリュシエンヌ・ヴィオネはエマの六つ上の従姉でテオの姉でもある。
「会えて嬉しいわ」
抱きしめられると花のような香りが鼻先をかすめ、エマは密かに深く息を吸い込んだ。
柔らかく波打ち艶を帯びた髪はエマやルークと同じ亜麻色であるはずなのに、ずっと輝いて見える。
露草のように紫がかった青色の瞳は長いまつ毛でいつも影が差していて神秘的だ。
彼女が帰ってきたことがわかれば、街の男性陣は華やぐだろう。
「連絡なかったから気になってたの」
「そうよね、ごめんなさい。もう少し先に戻るつもりだったんだけど、急に予定が変わってテオにも昨日電報を打ったところなの」
美しい彼女は学術都市バルフォア・ソニアの女子寄宿学校であるクイーンズカレッジに在籍する才女でもある。両親は国を離れているから長い休暇はテオと共にエマの家で過ごすのがいつものことだ。
「ううん。疲れてるだろうから今日は私の部屋で寝て」
「ふふ、ありがとう。でも私はソファで構わないのよ」
そんなことはさせられない。いざとなればエマは父の薬局に用意された簡易的な寝台を使うつもりだった。話がひと段落すると、リュシーはエマの背後に目線を向けた。
「ルークも大きくなったわね」
「うん。リュシーは相変わらず綺麗だ」
「あら、いつの間にか女の子の扱い方が上手になったじゃない」
「……そんなんじゃない」
撫でようとして近づいたリュシーの細い指を避けるルークの頬はわずかに赤らんでいた。
それを横目に、エマはテオの方へ歩み寄る。
「私たちのこと、ちゃんと船員さんに言ってある?」
「いや、これから」
テオのことだからきっとそうだと思ってはいたが、やっぱりだ。それなら今、エマとルークはこの船に無断で乗り込んていることになる。
「もう、一緒に来て」
ため息と共にテオの腕を掴み、船の操縦席に向かう。
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