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十三歳、淡い初恋、片想い

夏至祭の誘い

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アイスクリームを食べ終えカフェテラスを出た頃には日差しが少しだけ和らいでいた。
荷物があるから家まで送ってくれるというルークの言葉に甘え、閑静な山の手から賑やかな下町に向かって連れだって歩く。
このまま行けば、十五分もかからずに自宅に到着してしまう。その前に、エマにはやらないといけないことがあった。
ちらりと横目でルークをとらえ、意を決して呼びかけた。
「あのね、ルーク」
するとルークは少しだけ背を丸めてエマの方へ注意を向けた。
「どうした」
落ち着いた声で問われ、緊張で息が詰まりそうになる。それでもなるべく自然体を心掛けて、唇を開く。
「そろそろ夏至祭だね」
「ああ、そうだな」
本来なら夏至祭は六月の後半にあたるが、二人の住むフェネリーでは月遅れで祝うことになっている。
フェネリーは二十年近く前に起こった戦争で隣国による侵略の憂き目に合い、数年にわたり夏至祭が行われなかったという歴史がある。
からくも敵を撃退することに成功し終戦を迎えると、故郷に戻った兵士たちが家族や恋人と再会し、喜びを分かち合った。
そして七月を迎えると、一カ月遅れの夏至祭は戦時の鬱屈を晴らすように盛大に行われた。
その時からずっとフェネリーでは夏至祭は七月に行うものとなっていた。
踊りやかがり火、露店と賑やかな催しが予定されており、一番の目玉は花火を打ち上げることだ。
エマは十日後に迫る今年の夏至祭にルークを誘うつもりでいた。毎年誘い合わせもせず、テオもまじえ三人で迎えていたが、今年は二人で過ごしたい。
ルークが街を離れる前の思い出作りのつもりだった。そしてもし状況が許せばという計画もある。
「ルークはまだ誰からも誘われてない?」
「うん」
「じゃあ、よかったら一緒に行ってほしい」
「いいよ」
緊張の面持ちで返答を待っていると、ルークはあっさりと頷いた。
「やった、ありがとう!」
色よい返事に勇気を出して良かったと唇をほころばせる。
通りを眺めると狭い感覚で隣り合った建物の前で子供たちが元気に駆け回り、女親は立ち話に花を咲かせ、老人は端で座り込み日差しを浴びている。
これまで何百何千と見かけた何気ない日常の風景も、吉報の後に見ると違った趣があるように感じられた。
そろそろ家に着く。角を曲がって同じ建物に眼科と内科と歯科が入ったはす向かいがエマの実家の薬局だ。
「ルーク、ありがとう。ごちそうさま」
足を止め、お礼を伝えるとルークは片手で持っていた鞄をエマの腕に手渡す。かすかに触れ合った指先は硬く、少しだけひやりとしていた。
「待ち合わせの時間とかまた決めような」
ルークの申し出に力いっぱい頷いて、別れの挨拶を交わす。
エマは踵を返し歩き出したルークの姿が通りの向こうに消えるまで見送った。
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