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つぐない3
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騙し打ちのように一夜を共にした手前、処女だったからと言って責任を取ってもらおうなんて思えない。
処女だろうがそうでなかろうが、この先の自分の人生にとって些末事だとベアトリーチェは考えている。
良くて幽閉、悪ければ処刑。そうでなくともここまで悪女という噂が立ってしまったら、男性とまともに関係を築くことなんてとっくに諦めていた。
「情けで抱いたつもりはない。欲望に負けたのは俺の責任だ」
だというのに、レオンハルトは律儀というか極端というか、思いのほか思い込みが激しいようで、ベアトリーチェも困惑してしまう。
いくら気にするなといってもまったく心に届いている気がしない。
「去勢以外にどう償えば……俺と……いや、しかし……」
ベアトリーチェが呆然としている間に、レオンハルトは眉間に皺を寄せて独り言を言い始めた。
更なる説得の方法を見つけるために知恵を絞っていると、軽快なノック音が聴こえてきた。
レオンハルトと二人して部屋の扉に視線を向ける。音は一旦止まったかに思えたが、すぐに再開した。
「陛下、私です」
聴こえてきた声は、レオンハルトの側近であるフェリクスのものだった。
ベアトリーチェは彼と秘密裏に交わした約束を思い出す。
今の所、フェリクスの目論見通りにはいっていない。
誘惑が成功すれば国と国民に便宜を図ってもらえるという約束が反故になってしまうのではという恐れで息が苦しくなった。
そんなベアトリーチェをよそに、レオンハルトは冷静に返事をする。
「フェリクス、何の用だ」
「本日の予定のことでお話があります」
「少し待て」
そう言ってレオンハルトはベアトリーチェに向き直る。
「私、向こうに行っています」
着替えも済ませていない状態で一緒にいるところを見られるのは抵抗があって、続きの間になっている寝室へ移動することを申し出た。
「このままで構わない。……いや、この状態を見せるわけにはいかないか」
そう言うとレオンハルトは軽々とベアトリーチェを抱え上げ、寝室へ連れていった。
腰が立たなくなっているから、移動に手を借りないといけないのはわかっているが、恐縮しきりだ。
ベアトリーチェを丁寧にベッドに下ろした後、そのまま寝室を出るかと思われたレオンハルトだが、再び戻ってきた。
「あの、フェリクス様がお待ちなのでは……」
扉の方を気にしながらそう告げると、レオンハルトは事もなげに言う。
「待たせておけばいい」
その声音は悠然としていて人の上に立つ者の余裕が見えた。
彼はベアトリーチェの身体にたった今脱いだばかりの自身のナイトガウンを着せ掛け、その上からシーツを被せた。
「フェリクスを部屋に入れるが、ここなら視線も届かない」
「ええ……」
「ドアは少し開けておく。何かあったら呼んでくれ」
「はい、わかりました」
レオンハルトが出て行くと、ベッドの上で膝を抱える。
冷徹な軍人王と言われる彼に意外な気遣いを示されて、少し面食らっている自分に気づく。
身体を覆うナイトガウンの大きさとかすかに残るレオンハルトの温もりに、なぜだか落ち着かない気持ちになった。
処女だろうがそうでなかろうが、この先の自分の人生にとって些末事だとベアトリーチェは考えている。
良くて幽閉、悪ければ処刑。そうでなくともここまで悪女という噂が立ってしまったら、男性とまともに関係を築くことなんてとっくに諦めていた。
「情けで抱いたつもりはない。欲望に負けたのは俺の責任だ」
だというのに、レオンハルトは律儀というか極端というか、思いのほか思い込みが激しいようで、ベアトリーチェも困惑してしまう。
いくら気にするなといってもまったく心に届いている気がしない。
「去勢以外にどう償えば……俺と……いや、しかし……」
ベアトリーチェが呆然としている間に、レオンハルトは眉間に皺を寄せて独り言を言い始めた。
更なる説得の方法を見つけるために知恵を絞っていると、軽快なノック音が聴こえてきた。
レオンハルトと二人して部屋の扉に視線を向ける。音は一旦止まったかに思えたが、すぐに再開した。
「陛下、私です」
聴こえてきた声は、レオンハルトの側近であるフェリクスのものだった。
ベアトリーチェは彼と秘密裏に交わした約束を思い出す。
今の所、フェリクスの目論見通りにはいっていない。
誘惑が成功すれば国と国民に便宜を図ってもらえるという約束が反故になってしまうのではという恐れで息が苦しくなった。
そんなベアトリーチェをよそに、レオンハルトは冷静に返事をする。
「フェリクス、何の用だ」
「本日の予定のことでお話があります」
「少し待て」
そう言ってレオンハルトはベアトリーチェに向き直る。
「私、向こうに行っています」
着替えも済ませていない状態で一緒にいるところを見られるのは抵抗があって、続きの間になっている寝室へ移動することを申し出た。
「このままで構わない。……いや、この状態を見せるわけにはいかないか」
そう言うとレオンハルトは軽々とベアトリーチェを抱え上げ、寝室へ連れていった。
腰が立たなくなっているから、移動に手を借りないといけないのはわかっているが、恐縮しきりだ。
ベアトリーチェを丁寧にベッドに下ろした後、そのまま寝室を出るかと思われたレオンハルトだが、再び戻ってきた。
「あの、フェリクス様がお待ちなのでは……」
扉の方を気にしながらそう告げると、レオンハルトは事もなげに言う。
「待たせておけばいい」
その声音は悠然としていて人の上に立つ者の余裕が見えた。
彼はベアトリーチェの身体にたった今脱いだばかりの自身のナイトガウンを着せ掛け、その上からシーツを被せた。
「フェリクスを部屋に入れるが、ここなら視線も届かない」
「ええ……」
「ドアは少し開けておく。何かあったら呼んでくれ」
「はい、わかりました」
レオンハルトが出て行くと、ベッドの上で膝を抱える。
冷徹な軍人王と言われる彼に意外な気遣いを示されて、少し面食らっている自分に気づく。
身体を覆うナイトガウンの大きさとかすかに残るレオンハルトの温もりに、なぜだか落ち着かない気持ちになった。
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