14 / 33
レオンハルトの訪れ
しおりを挟む
「ベアトリーチェ王女、レオンハルトだ」
落ち着いた声で名乗られて、そういえば後で訪ねると約束していたことを思い出す。湯を使うと言っていたからこんなに早いとは思わなかった。
どきどきと早鐘を打つ心臓をなだめながら、なんとか答える。
「はい、今まいります」
手早く品物をかき集め、とりあえず枕の下に押し込んで扉に向かった。
「どうぞお入りください」
ちょうどメイドが出払っている時で、ベアトリーチェは自ら扉を開けてレオンハルトを室内に招き入れた。
レオンハルトは先ほど別れた際と変わらない軍服姿でそこに立っていた。
――きっちりされている方みたい。湯を浴びたなら、着替えられたかと。
そんなことを考えながら、ベアトリーチェは彼を窓際に誘う。そこには小さな丸テーブルと深い紅色のベロアを張った一人掛け用の椅子が二脚置いてあった。
もうずいぶん昔になるが、親しい友人を招いた際にここでよくおしゃべりをしたものだ。
レオンハルトが腰を下ろしたのを確認して、口を開く。
「お茶でよろしいですか?」
呼び鈴を鳴らしてメイドを呼ぼうとするが、レオンハルトは首を振った。
「いや、結構だ。それより貴女も掛けてくれ」
言われるままに、ベアトリーチェも椅子に座る。
――どういったお話なのかしら。
お茶を用意する時間すら惜しいとでも言いたげな性急さに、身構えてしまう。
両腕を組んだ状態で鎮座しているレオンハルトは威圧感があり、ベアトリーチェは知れず目線を下げていた。
そうすると、レオンハルトの膝がテーブルの上に大きくはみ出しているのが見える。彼は長い足を持て余し気味にして、テーブルの両脇を挟み込むように折りたたんでいた。
彼は腕組みを解くと、膝がしらの間に指を組んで置いた。
ベアトリーチェはその様子を何の気なしに見つめていたが、直後、それが失敗だったことを悟る。
レオンハルトの手の動きを見ていたはずなのに、その向こうに無防備に開かれた足が目に入り、連鎖的につい先ほど目にした張り形を思い出してしまった。
――レオンハルト様にも……そして私はそれを……
いけないと思いながらも、ついその部分を凝視してしまう。
マダム・ジルダの教えで多少の知識を得たとはいえ、抵抗と不安を感じずにはいられない。それでもヴァレンツァの復興を最速で叶えるためには、フェリクスに焚きつけられた通りにレオンハルトと寝るのが正解だ。
ベアトリーチェの葛藤をよそに、レオンハルトが口を開く。
「部屋を確認させてもらったが、申し分ない状態だった。急なことで準備も大変だっただろう」
労いながらも笑みの一つも見せない彼に、心臓がひやりとする。余計なことを考えている場合ではない。
落ち着いた声で名乗られて、そういえば後で訪ねると約束していたことを思い出す。湯を使うと言っていたからこんなに早いとは思わなかった。
どきどきと早鐘を打つ心臓をなだめながら、なんとか答える。
「はい、今まいります」
手早く品物をかき集め、とりあえず枕の下に押し込んで扉に向かった。
「どうぞお入りください」
ちょうどメイドが出払っている時で、ベアトリーチェは自ら扉を開けてレオンハルトを室内に招き入れた。
レオンハルトは先ほど別れた際と変わらない軍服姿でそこに立っていた。
――きっちりされている方みたい。湯を浴びたなら、着替えられたかと。
そんなことを考えながら、ベアトリーチェは彼を窓際に誘う。そこには小さな丸テーブルと深い紅色のベロアを張った一人掛け用の椅子が二脚置いてあった。
もうずいぶん昔になるが、親しい友人を招いた際にここでよくおしゃべりをしたものだ。
レオンハルトが腰を下ろしたのを確認して、口を開く。
「お茶でよろしいですか?」
呼び鈴を鳴らしてメイドを呼ぼうとするが、レオンハルトは首を振った。
「いや、結構だ。それより貴女も掛けてくれ」
言われるままに、ベアトリーチェも椅子に座る。
――どういったお話なのかしら。
お茶を用意する時間すら惜しいとでも言いたげな性急さに、身構えてしまう。
両腕を組んだ状態で鎮座しているレオンハルトは威圧感があり、ベアトリーチェは知れず目線を下げていた。
そうすると、レオンハルトの膝がテーブルの上に大きくはみ出しているのが見える。彼は長い足を持て余し気味にして、テーブルの両脇を挟み込むように折りたたんでいた。
彼は腕組みを解くと、膝がしらの間に指を組んで置いた。
ベアトリーチェはその様子を何の気なしに見つめていたが、直後、それが失敗だったことを悟る。
レオンハルトの手の動きを見ていたはずなのに、その向こうに無防備に開かれた足が目に入り、連鎖的につい先ほど目にした張り形を思い出してしまった。
――レオンハルト様にも……そして私はそれを……
いけないと思いながらも、ついその部分を凝視してしまう。
マダム・ジルダの教えで多少の知識を得たとはいえ、抵抗と不安を感じずにはいられない。それでもヴァレンツァの復興を最速で叶えるためには、フェリクスに焚きつけられた通りにレオンハルトと寝るのが正解だ。
ベアトリーチェの葛藤をよそに、レオンハルトが口を開く。
「部屋を確認させてもらったが、申し分ない状態だった。急なことで準備も大変だっただろう」
労いながらも笑みの一つも見せない彼に、心臓がひやりとする。余計なことを考えている場合ではない。
0
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
監禁蜜月~悪い男に囚われて【短編】
乃木ハルノ
恋愛
「俺はアンタのような甘やかされたご令嬢が嫌いなんだよ」
「屈服させるための手段は、苦痛だけじゃない」
伯爵令嬢ながら、継母と義妹によって使用人同然の暮らしを強いられていたミレイユ。
継母と義妹が屋敷を留守にしたある夜、見知らぬ男に攫われてしまう。
男はミレイユを牢に繋ぎ、不正を認めろと迫るが…
男がなぜ貴族を嫌うのか、不正とは。何もわからないまま、ミレイユはドレスを脱がされ、男の手によって快楽を教え込まれる──
長編執筆前のパイロット版となっております。
完結後、こちらをたたき台にアレンジを加え長編に書きなおします。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる