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レオンハルトの訪れ

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「ベアトリーチェ王女、レオンハルトだ」
落ち着いた声で名乗られて、そういえば後で訪ねると約束していたことを思い出す。湯を使うと言っていたからこんなに早いとは思わなかった。
どきどきと早鐘を打つ心臓をなだめながら、なんとか答える。
「はい、今まいります」
手早く品物をかき集め、とりあえず枕の下に押し込んで扉に向かった。
「どうぞお入りください」
ちょうどメイドが出払っている時で、ベアトリーチェは自ら扉を開けてレオンハルトを室内に招き入れた。
レオンハルトは先ほど別れた際と変わらない軍服姿でそこに立っていた。
――きっちりされている方みたい。湯を浴びたなら、着替えられたかと。
そんなことを考えながら、ベアトリーチェは彼を窓際に誘う。そこには小さな丸テーブルと深い紅色のベロアを張った一人掛け用の椅子が二脚置いてあった。
もうずいぶん昔になるが、親しい友人を招いた際にここでよくおしゃべりをしたものだ。
レオンハルトが腰を下ろしたのを確認して、口を開く。
「お茶でよろしいですか?」
呼び鈴を鳴らしてメイドを呼ぼうとするが、レオンハルトは首を振った。
「いや、結構だ。それより貴女も掛けてくれ」
言われるままに、ベアトリーチェも椅子に座る。
――どういったお話なのかしら。
お茶を用意する時間すら惜しいとでも言いたげな性急さに、身構えてしまう。
両腕を組んだ状態で鎮座しているレオンハルトは威圧感があり、ベアトリーチェは知れず目線を下げていた。
そうすると、レオンハルトの膝がテーブルの上に大きくはみ出しているのが見える。彼は長い足を持て余し気味にして、テーブルの両脇を挟み込むように折りたたんでいた。
彼は腕組みを解くと、膝がしらの間に指を組んで置いた。
ベアトリーチェはその様子を何の気なしに見つめていたが、直後、それが失敗だったことを悟る。
レオンハルトの手の動きを見ていたはずなのに、その向こうに無防備に開かれた足が目に入り、連鎖的につい先ほど目にした張り形を思い出してしまった。
――レオンハルト様にも……そして私はそれを……
いけないと思いながらも、ついその部分を凝視してしまう。
マダム・ジルダの教えで多少の知識を得たとはいえ、抵抗と不安を感じずにはいられない。それでもヴァレンツァの復興を最速で叶えるためには、フェリクスに焚きつけられた通りにレオンハルトと寝るのが正解だ。
ベアトリーチェの葛藤をよそに、レオンハルトが口を開く。
「部屋を確認させてもらったが、申し分ない状態だった。急なことで準備も大変だっただろう」
労いながらも笑みの一つも見せない彼に、心臓がひやりとする。余計なことを考えている場合ではない。
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