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軍人王と忠実なる部下

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ヴァレンツァの城から出ると、レオンハルトは軍の駐留する街の外へと戻った。
すでに厩につないだ愛馬の漆黒のたてがみを撫で、その場を後にする。
野営用の天幕でフェリクスの帰りを待ちながら、彼は思いを巡らせた。今頭を占めるのは、ベアトリーチェ王女のことだった。
――聞いていた話と違う。
トラレスを平定した際に捕らえたヴァレンツァ軍は多くを語らなかったが、ここへ来るまでの道中、不審な馬車の一隊を見つけ呼び止めると、ヴァレンツァの貴族だった。
急いでいるの一点張りで怪しいという直感が働き、問い詰めて発覚したことだ。少し脅すとぽろぽろとしゃべり始めた。
曰く、戦争になったのもこうして国を追われたのも王女のせいだとか。毒婦だの何だのと王女に対しての数々の悪評は聞くに堪えなかった。ただし、王女の横暴ぶりは以前より噂になっていたから、すべてが真実でなくともそういう気質があるのだろうと思っていた。
そして本日、実際に彼女と顔を合わせてみて、レオンハルトは混乱した。実際に会ってみたベアトリーチェ王女はやたらとしおらしく、悪女と思えなかったためだ。
女というものはレオンハルトにとっては理解しがたい生き物だった。笑顔でいたかと思えばすぐに機嫌を悪くし、そのくせ理由を言わない。レオンハルトに惹かれていると言った舌の根も乾かぬうちに二度と会いたくないと背を向ける。理不尽な相手だと苦手意識を持っていた。
それなら男ばかりを周囲に置いて国王業をやっている方が気が楽だ。立場が違うからおもねられることはあっても、基本的に彼らは正直だ。政治も戦争も、レオンハルトは楽しんでいた。
「……女はわからん」
「おや、珍しい。陛下ともあろう方が弱音を吐かれますか」
独り言のつもりだったのに返事があって、レオンハルトは目を見張る。
「フェリクス、戻ったのか」
振り返ると、側近が天幕の入り口を持ち上げていた。
「ええ。もう一時間もすれば出発しても構わないでしょう。それで陛下、女がどうされたのですか。良ければわたくしが相談に乗りますよ」
明らかに面白がっている口ぶりのフェリクスをにらみつける。
「二人きりの時はその話し方はやめろと言っただろう」
「はいはい。で、どうしたっていうんです?」
咎められ、フェリクスはすぐさま敬語を崩した。
「ベアトリーチェ王女のことだ。あの男から聞いた話と違う」
「アバズレとは思えない、と?」
「……そういった言い方は好きではない」
「奔放な方ではなさそうでした?」
言い直させた言葉に頷いてみせると、フェリクスは肩をすくめた。
「陛下は戦いや政治に関しては容赦がないのに、女性には甘いところがある」
「そんなことは――」
「ないと断言できます? あのねえ、女性は猫を被るものですよ。特に初対面では。女を知らないわけでもないでしょうに」
フェリクスとは付き合いが長い分、こうした軽口も許している仲だ。一見上品で柔和な彼が実のところ辛辣でいい性格をしていることを知る人間は、そう何人もいない。
「そうかもしれないが、噂をすべて信じるのも賢いとは言えないだろう」
「なら、見極めてください。王女の本質を」
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