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会談に臨む4

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――この人は私を恐れていない。嫌ってはいるかもしれないけれど。
すっかり慣れたはずなのに、まだ傷つく余地があるようだ。そんな資格はないというのに。
「王女?」
低い声に呼びかけられ、ベアトリーチェは意識を浮上させる。
「はい」
うつむき加減になっていた顔を上げると、テーブル越しにレオンハルトがこちらの方へ身体を傾けてきていた。
「何か……?」
「気分が悪そうに見えたのでな」
「いいえ、問題ありません。……お気遣い、ありがとうございます」
可愛げのない返事をしてしまったことに気づき、慌てて感謝の言葉を述べる。
「それならいいんだ」
レオンハルトは前屈みの姿勢を解き、また最初のように背筋を伸ばした。
会話が途切れたところで部屋の隅の使用人用の扉から従僕がやってきて、お茶をサーブする。
丸みを帯びた大きなポットから揃いのカップに湯気を立てる紅茶が注がれ、茶葉の香ばしい香りが立ち込める。
ブルスケッタやクッキー、チョコレートなど一口でつまめる軽食が乗った皿がベアトリーチェの近くに置かれた。
「いただこう」
レオンハルトの節高の男らしい指先がティーカップを取る。彼の手の中では、ティーカップがひどく小さく見えた。彼が紅茶を一口含むのを確認して、ベアトリーチェもカップを持ち上げる。
「さて、それでは早速ですが、話し合いを始めましょうか」
レオンハルトの側近が口火を切る。
彼は少し癖のある灰がかった薄茶の髪をうなじで束ね、肩に垂らしていた。瞳は琥珀色。垂れたまなじりや笑みの形作られた口元で、柔和な印象を受ける。
「申し遅れましたが、わたくしはクリューガー陛下の側近のフェリクス・ノイベルトと申します」
テーブル越しに目礼され、ベアトリーチェも軽くそれに倣う。
その後はフェリクスが進行を買って出て、会談が進められた。まずは今回の争いの発端について説明を受ける。
「二か月ほど前、我が国の領地に貴軍の侵入がありましたことは、ご存じですね」
「ええ、存じております」
「トラレスは小さな街ですが、炭鉱がありましてね。我々の土地は冬が厳しいので、死活問題です」
「……ご迷惑をおかけしました」
「いえいえ、幸いなことに採掘場はすぐに取り戻すことができましたし」
フェリクスの言う通り、戦慣れしたローゼンハイト帝国軍の前にヴァレンツァ軍は総崩れとなっていたという。
兵士たちの所存については、ベアトリーチェの一番気にかかることだった。
「我が国の兵士たちは、捕虜になっているのでしょうか」
「そうですね。捕らえてあります」
「怪我などはしていますか?」
「まったくしていないとは言いませんが、ほとんどは抵抗もせず下りましたからそう大したことはありません」
「負傷兵は敵味方関係なく治療を行っている」
それまで部下に任せて口を閉ざしていたレオンハルトがそう補足する。
「ありがとうございます。……安心しました」
レオンハルトの言葉に、ベアトリーチェは膝の上で握りしめていた手から力を抜いた。
「捕虜の解放についての条件ですが、まずは休戦条約の締結から話し合いましょう」
フェリクスの口から語られた休戦の条件は主に、ヴァレンツァの武装解除と勝手に併合した都市の支配権の放棄だった。
それらに関して異論はない。
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