上 下
3 / 33

会談に臨む

しおりを挟む
使いはレオンハルトから講和のための会談の申し入れを記した書状を携えて戻った。
そして日を改めた本日、ベアトリーチェはレオンハルトの到着を待っていた。
敗戦国の代表らしく、服装は派手にならないように、灰色のクレープ地を使ったシンプルなドレスを纏う。露出も最低限で、襟ぐりの控えめなレース以外は装飾はなし。それに艶消しの真珠の耳飾りを合わせた。
自室の窓から数名の兵士を連れたレオンハルトの姿をみとめると、ベアトリーチェは部屋を出て階下へ向かった。
「ベアトリーチェ様。私たち、どうなるのでしょう」
お付きのメイドが不安そうな顔をするので、ベアトリーチェはいったん足を止め、彼女を振り返った。
「ローゼンハイトの王はひどく冷酷だと……」
「冷酷? 冷静、ではなかったかしら」
ベアトリーチェの耳にもレオンハルト・クリューガーが冷酷な君主だという噂は届いていた。けれどメイドを怯えさせたくなくて、わざと違う言葉に言い換える。
「クリューガー陛下とは私がお話をしてみますから、あなたは待っていて」
「……でも、給仕が必要なのでは」
職務を全うしようという気持ちが捨てきれないのだろう、手先を震わせながらも追いすがろうとするメイドに向かって首を振ってみせる。
「応接室には従僕が控えているし、どちらにせよ話が始まればみんな出てもらうわ。私一人で臨むことになります」
そう伝えると、ようやく彼女は納得したようだった。深々としたお辞儀と共に見送られ、ベアトリーチェはエントランスホールへと足を急がせた。
ホールに下りる階段の踊り場にたどり着くと、ちょうど衛兵によって扉が左右に開かれるところだった。
重厚な扉の隙間から淡い朝の光が入ってくる。その向こうに人影が見え、緊張で手すりに置いた手に力がこもる。
じっと視線を向けていると、扉が開いた直後よりも強い光がベアトリーチェの瞳に射し込んだ。まぶしさに思わず目を閉じる。
次に瞼を開けると、ホールにはすでに幾人かの男たちが立っていた。揃いの軍服に身を包んだ彼らの中、ひときわ目を引く人物がいる。
鍛えられた体躯の兵士たちの中、周囲より頭半分ほど背が高い。兵士たちに何事か指示をしているところを見て、最初は彼らを束ねる士官なのだと思った。
しかし、その肩を覆う丈の短いマント飾りに特徴的な紋章を見つけ、彼こそがローゼンハイト帝国の若き王、レオンハルト・クリューガーその人だと理解する。
ベアトリーチェが立ち尽くしている間、彼はマントを脱ぎ、腰に下げたサーベルを取って部下に手渡した。
――こうしてはいられない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

監禁蜜月~悪い男に囚われて【短編】

乃木ハルノ
恋愛
「俺はアンタのような甘やかされたご令嬢が嫌いなんだよ」 「屈服させるための手段は、苦痛だけじゃない」 伯爵令嬢ながら、継母と義妹によって使用人同然の暮らしを強いられていたミレイユ。 継母と義妹が屋敷を留守にしたある夜、見知らぬ男に攫われてしまう。 男はミレイユを牢に繋ぎ、不正を認めろと迫るが… 男がなぜ貴族を嫌うのか、不正とは。何もわからないまま、ミレイユはドレスを脱がされ、男の手によって快楽を教え込まれる── 長編執筆前のパイロット版となっております。 完結後、こちらをたたき台にアレンジを加え長編に書きなおします。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福

ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡 〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。 完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗 ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️ ※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...