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エピローグ

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ふっと意識が浮かび上がる。
瞼を上げると見慣れない天井が目に入った。ゆっくりと視線をずらしていくと淡い色のカーテンが現れる。その向こうから漏れる光が和らいでいるところを見ると、おそらくもう夕方だ。
まだぼんやりする意識のまま寝返りを打とうとした時、腕が温もりに触れる。振り返って見れば、そこにはタオルケットにくるまる紗矢の姿があった。
一瞬で覚醒した頭に紗矢と気持ちが通じ合ったこと、それを確かめるようにHにもつれ込んだ記憶が呼び起こされる。
笑み崩れる口元をそのままに、眠ったままの紗矢を覗き込む。
頬にかかった髪をそっとかき分けると化粧っ気のない少し幼い寝顔が現れた。なだらかな輪郭をなぞっても起きる気配はない。
さらさらの髪を撫で、タオルケットから出た肩の丸みに沿って手のひらを滑らせる。これで起きなかったら次はどこに触れようか。
いたずら心のままに顔を寄せると、ごく近くにある紗矢の瞼がぴくりと震えた。緩慢な動作で瞼が上がり、とろんとした瞳が現れる。

「おはよ」
「ぁ……啓斗」

寝ぼけているのか目をしょぼしょぼとさせている。無防備なその姿にぐっときて、唇を瞼に触れさせる。押しのけられるかもしれないと思ったけれど、紗矢はされるがままだった。
物足りないような気もする。けれどこういう振舞いが許される関係になったのだという喜びを感じずにはいられなかった。

「起きる?」
「んー」

会話が成立しないまま、紗矢はタオルケットの下に潜り込んでしまった。落ち着く場所を探してか、もぞもぞと頭の位置を変えている。首の下へ腕を差し込んでやると微調整の後、ぴたりと動きを止めた。
腕にかかる確かな重みが心地よくて、こうして素直に甘えてくれることがたまらなく嬉しい。
肌寒いのか、紗矢は体を丸く縮めている。窓から射し込む西日を差し引いても室内は涼しい。エコの観点からも設定温度を上げるべきだろう。ベッドサイトのテーブルにリモコンが置いてあるのも知っている。
けれどずっと焦がれてようやく手に入った温もりを一瞬でも手放すのが惜しくて、見ないふりを選んだ。
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