12 / 12
エピローグ
しおりを挟む
ふっと意識が浮かび上がる。
瞼を上げると見慣れない天井が目に入った。ゆっくりと視線をずらしていくと淡い色のカーテンが現れる。その向こうから漏れる光が和らいでいるところを見ると、おそらくもう夕方だ。
まだぼんやりする意識のまま寝返りを打とうとした時、腕が温もりに触れる。振り返って見れば、そこにはタオルケットにくるまる紗矢の姿があった。
一瞬で覚醒した頭に紗矢と気持ちが通じ合ったこと、それを確かめるようにHにもつれ込んだ記憶が呼び起こされる。
笑み崩れる口元をそのままに、眠ったままの紗矢を覗き込む。
頬にかかった髪をそっとかき分けると化粧っ気のない少し幼い寝顔が現れた。なだらかな輪郭をなぞっても起きる気配はない。
さらさらの髪を撫で、タオルケットから出た肩の丸みに沿って手のひらを滑らせる。これで起きなかったら次はどこに触れようか。
いたずら心のままに顔を寄せると、ごく近くにある紗矢の瞼がぴくりと震えた。緩慢な動作で瞼が上がり、とろんとした瞳が現れる。
「おはよ」
「ぁ……啓斗」
寝ぼけているのか目をしょぼしょぼとさせている。無防備なその姿にぐっときて、唇を瞼に触れさせる。押しのけられるかもしれないと思ったけれど、紗矢はされるがままだった。
物足りないような気もする。けれどこういう振舞いが許される関係になったのだという喜びを感じずにはいられなかった。
「起きる?」
「んー」
会話が成立しないまま、紗矢はタオルケットの下に潜り込んでしまった。落ち着く場所を探してか、もぞもぞと頭の位置を変えている。首の下へ腕を差し込んでやると微調整の後、ぴたりと動きを止めた。
腕にかかる確かな重みが心地よくて、こうして素直に甘えてくれることがたまらなく嬉しい。
肌寒いのか、紗矢は体を丸く縮めている。窓から射し込む西日を差し引いても室内は涼しい。エコの観点からも設定温度を上げるべきだろう。ベッドサイトのテーブルにリモコンが置いてあるのも知っている。
けれどずっと焦がれてようやく手に入った温もりを一瞬でも手放すのが惜しくて、見ないふりを選んだ。
瞼を上げると見慣れない天井が目に入った。ゆっくりと視線をずらしていくと淡い色のカーテンが現れる。その向こうから漏れる光が和らいでいるところを見ると、おそらくもう夕方だ。
まだぼんやりする意識のまま寝返りを打とうとした時、腕が温もりに触れる。振り返って見れば、そこにはタオルケットにくるまる紗矢の姿があった。
一瞬で覚醒した頭に紗矢と気持ちが通じ合ったこと、それを確かめるようにHにもつれ込んだ記憶が呼び起こされる。
笑み崩れる口元をそのままに、眠ったままの紗矢を覗き込む。
頬にかかった髪をそっとかき分けると化粧っ気のない少し幼い寝顔が現れた。なだらかな輪郭をなぞっても起きる気配はない。
さらさらの髪を撫で、タオルケットから出た肩の丸みに沿って手のひらを滑らせる。これで起きなかったら次はどこに触れようか。
いたずら心のままに顔を寄せると、ごく近くにある紗矢の瞼がぴくりと震えた。緩慢な動作で瞼が上がり、とろんとした瞳が現れる。
「おはよ」
「ぁ……啓斗」
寝ぼけているのか目をしょぼしょぼとさせている。無防備なその姿にぐっときて、唇を瞼に触れさせる。押しのけられるかもしれないと思ったけれど、紗矢はされるがままだった。
物足りないような気もする。けれどこういう振舞いが許される関係になったのだという喜びを感じずにはいられなかった。
「起きる?」
「んー」
会話が成立しないまま、紗矢はタオルケットの下に潜り込んでしまった。落ち着く場所を探してか、もぞもぞと頭の位置を変えている。首の下へ腕を差し込んでやると微調整の後、ぴたりと動きを止めた。
腕にかかる確かな重みが心地よくて、こうして素直に甘えてくれることがたまらなく嬉しい。
肌寒いのか、紗矢は体を丸く縮めている。窓から射し込む西日を差し引いても室内は涼しい。エコの観点からも設定温度を上げるべきだろう。ベッドサイトのテーブルにリモコンが置いてあるのも知っている。
けれどずっと焦がれてようやく手に入った温もりを一瞬でも手放すのが惜しくて、見ないふりを選んだ。
6
お気に入りに追加
32
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる