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静かな貴族街の一番奥、一番大きくて、真新しい屋敷。ここがニーナの家。
「……ニーナは貴族だったのか」
「この辺り仕切ってる領主の娘なんだよ」
中級貴族だけれど、この街の辺りを持っている領主でありニーナの父親のベンノさんだ。……出来れば外出していてほしいけれど――
「ごきげんよう、ニア様。ニーナ様がニア様とお連れの方がいらっしゃると仰っておりましたのでここでお待ちしておりました。……それと、旦那様がお会いしたがっておりましたよ」
あー、やっぱり居るかあ……。
大きな門の向こう側に居るのは長いロングスカートのメイド服を身に纏った女性――この家のメイド長のハイルメラさん。二十代前半くらいの見た目だけれど、ニーナが生まれたときから変わらないままらしくて、ひっそりと魔女メイドなんて呼ばれていたりしている。
ハイルメラさんの深いお辞儀とともに門が開いて、中へと足を踏み入れる。
「どういう家なんだ、ここは……」
玄関までの間には噴水付きの庭があって、しっかりと鎖に繋がれている三つの頭を持ったウルフ系の魔物が何体もいて、わたし達に向かって元気に吠えている。
「変わり者の領主の館ですよ」
淡々とした声でばっさり言うハイルメラさん。仮にも仕えているお屋敷の主人にそんなこと言っていいのかとつっこみたくなるけれど、その言葉をわたしは否定できない……。
屋敷の中はあまり趣味が良いとは思えないようながらくた――骨董品が廊下にずらりと並んでいる。
絶対に破れないと謳い文句が掛かれた値札がついている真ん中にぽっかり穴が空いた盾。絶対に折れないとあおられている値札のついたまま真ん中でぽっきり折れている槍。
他にもどう見たって手書きで顔が描いてある自称呪いの壺に、わたしの身長くらいあって何に使うかわからない銅製の硬貨。
前に来た時よりもがらくた……じゃない、趣があるものが増えているような気がする。
「先に旦那様にお会いになられますか?」
と聞きながら進んでいるのは応接間の方じゃない……。
「領主なら、挨拶しておくべきだろう、ニア。ハティとスコルも世話になったことだしな」
「そ、そうだね……」
魔王だなんて忘れるくらい律儀な人だな。
でも確かにお世話になったわけだし、挨拶くらいはしておかなくちゃだよね。気は重いけれど。
「旦那様、ニア様とお連れ様がいらっしゃいました」
「おお! 来たか!」
ハイルメラさんが応接室の扉を軽くノックして、返ってきた言葉は明るいものだった。
扉を開いて深々と頭を下げるハイルメラさんの前を通って部屋の中へと入る。
すでにお茶と茶菓子が用意されていて、恐らく昨日からわたしが来ることを期待されていたんだろう。
「ニア様、よくぞお越しいただいて。ささ、どうぞこちらへ」
わたし達を座るように促したこの小太りな男性は、屋敷の主であり、街を含めた辺り一帯を治めている領主のベンノさん。
貴族さまなんだけど、王都に居るような金ぴかな装飾品だったりを好まなくて――代わりに変なものを集める趣味はあるけれど――領民からも好かれていて、とても親しみやすい人だ。
「こんにちは、ベンノさん。昨晩は子供を預かってくれたみたいでありがとうございます」
「礼を言われるほどではないですぞ。うちの娘が振り回しただけですからな」
柔和な表情で首を振るベンノさん。優しい人ではあるんだけれど……。
ふと真顔になってテーブルに手をついたかと思えば、ゴンッと音を立ててベンノさんがテーブルに頭をぶつける。
「……寧ろ、この街初のSSSランクのニア様のお連れ様にご迷惑をお掛けしてしまって申し訳ございません!」
ベンノさんがわたしのことを好きすぎるのが、唯一の問題だろうか……。
「……ニーナは貴族だったのか」
「この辺り仕切ってる領主の娘なんだよ」
中級貴族だけれど、この街の辺りを持っている領主でありニーナの父親のベンノさんだ。……出来れば外出していてほしいけれど――
「ごきげんよう、ニア様。ニーナ様がニア様とお連れの方がいらっしゃると仰っておりましたのでここでお待ちしておりました。……それと、旦那様がお会いしたがっておりましたよ」
あー、やっぱり居るかあ……。
大きな門の向こう側に居るのは長いロングスカートのメイド服を身に纏った女性――この家のメイド長のハイルメラさん。二十代前半くらいの見た目だけれど、ニーナが生まれたときから変わらないままらしくて、ひっそりと魔女メイドなんて呼ばれていたりしている。
ハイルメラさんの深いお辞儀とともに門が開いて、中へと足を踏み入れる。
「どういう家なんだ、ここは……」
玄関までの間には噴水付きの庭があって、しっかりと鎖に繋がれている三つの頭を持ったウルフ系の魔物が何体もいて、わたし達に向かって元気に吠えている。
「変わり者の領主の館ですよ」
淡々とした声でばっさり言うハイルメラさん。仮にも仕えているお屋敷の主人にそんなこと言っていいのかとつっこみたくなるけれど、その言葉をわたしは否定できない……。
屋敷の中はあまり趣味が良いとは思えないようながらくた――骨董品が廊下にずらりと並んでいる。
絶対に破れないと謳い文句が掛かれた値札がついている真ん中にぽっかり穴が空いた盾。絶対に折れないとあおられている値札のついたまま真ん中でぽっきり折れている槍。
他にもどう見たって手書きで顔が描いてある自称呪いの壺に、わたしの身長くらいあって何に使うかわからない銅製の硬貨。
前に来た時よりもがらくた……じゃない、趣があるものが増えているような気がする。
「先に旦那様にお会いになられますか?」
と聞きながら進んでいるのは応接間の方じゃない……。
「領主なら、挨拶しておくべきだろう、ニア。ハティとスコルも世話になったことだしな」
「そ、そうだね……」
魔王だなんて忘れるくらい律儀な人だな。
でも確かにお世話になったわけだし、挨拶くらいはしておかなくちゃだよね。気は重いけれど。
「旦那様、ニア様とお連れ様がいらっしゃいました」
「おお! 来たか!」
ハイルメラさんが応接室の扉を軽くノックして、返ってきた言葉は明るいものだった。
扉を開いて深々と頭を下げるハイルメラさんの前を通って部屋の中へと入る。
すでにお茶と茶菓子が用意されていて、恐らく昨日からわたしが来ることを期待されていたんだろう。
「ニア様、よくぞお越しいただいて。ささ、どうぞこちらへ」
わたし達を座るように促したこの小太りな男性は、屋敷の主であり、街を含めた辺り一帯を治めている領主のベンノさん。
貴族さまなんだけど、王都に居るような金ぴかな装飾品だったりを好まなくて――代わりに変なものを集める趣味はあるけれど――領民からも好かれていて、とても親しみやすい人だ。
「こんにちは、ベンノさん。昨晩は子供を預かってくれたみたいでありがとうございます」
「礼を言われるほどではないですぞ。うちの娘が振り回しただけですからな」
柔和な表情で首を振るベンノさん。優しい人ではあるんだけれど……。
ふと真顔になってテーブルに手をついたかと思えば、ゴンッと音を立ててベンノさんがテーブルに頭をぶつける。
「……寧ろ、この街初のSSSランクのニア様のお連れ様にご迷惑をお掛けしてしまって申し訳ございません!」
ベンノさんがわたしのことを好きすぎるのが、唯一の問題だろうか……。
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