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「ふ、ふふふ……」
さあ、人をババアだの、老けてるだの呼ばわりした悪者二人をどう懲らしめてあげようか。
怒りが一周回って、肩を震わせて笑うわたしに目の前の二人は少し驚いて後ずさる。
「兄ちゃん、思い出した! あの女、SSSランクだぜ! あの金色のチョーカー! ど、どどどうしよう兄ちゃん!」
「落ち着け弟よ! 例えSSSランクだろうとたかが女ひとり。こっちは二人だ、押さえ付けちまえばいーんだよぉ!」
「あっそっか! さすが兄ちゃん!」
弟の方は青い顔をして逃げ腰だったけれど、兄の言葉を聞いて分かり易いくらい強気な表情に変わる。
ニタニタ笑いながらわたしへとゆっくり歩み寄ってくる悪党兄弟。
鉄格子に触らないように気を付けながらハティに声を掛ける。
「ハティ、もう少しそこで待ってなさい」
「あんなやつら、ハティなら一瞬なのだ! ここから出すのだぞ! ……いッ、」
ハティが鉄格子に触ってばちっと音が立つ。魔力が吸い取られて痛みを感じている顔を見て、申し訳ない気持ちになるけれど、この分はわたしがしっかりあの二人にぶつけてやらなくちゃ。
「いいから、大人しくしてなさい。ね?」
納得いってなさそうなハティの顔を見てから、悪党二人に向き直る。
「へへっ丸腰の女にゃ負ける気がしねえな」
身の丈ほどある斧を重そうに回しながらわたしに一歩一歩近付いてくる悪党兄。
「可愛い女を痛めつけるなんて、おれ、興奮するぜ兄ちゃん」
鼻息荒く鞭を床に叩きつけて兄の数歩後ろを歩いている悪党弟。
悪党二人の方へ、わたしも足を向けて歩み出す。
油断してくれているなら、それでいい。
わたしは中央に立っている柱まで来ると、足を止める。
立ち止まったのをチャンスと思ったんだろう。
悪党兄の口元がにぃ、と上がり、斧を構えながらわたしへと真っ直ぐに走ってくる。
「オラァッッ!!」
斧が遠心力を利用して、わたしの腹辺りを目掛けて横に薙ぐ――けれど、その刃は当たることは無い。
「な……ッ!?」
「そんな遅い動きで、わたしに攻撃が当たると思った?」
少し上へ跳ぶと斧は勢いよく柱に深く喰い込んで、その刃の上に爪先で立つ。
顔を目掛けて片足で思い切り蹴りを入れれば、後ろへと倒れる悪党兄。
ぴょんともう一度跳んで床へと着地をして悪党兄を見る。その顔は悔しそうに顔を歪めていて、鼻からは血が流れ。
「く、くそ……ッ!」
「あっ兄ちゃん!? あ、あわわわ……」
悪党兄が屋敷の奥へと逃げ出す。
まあ、追わなくてもいいかな。わたしの目的は悪党退治な訳じゃない。
兄に置いて行かれて、呆然としている弟に歩み寄れば勝手に尻餅をついて怯える悪党弟。
「ま、待ってくれ! おれ、おれたちは頼まれてただけなんだよ! そいつは返す! 返すから!」
攻撃を避けて、牽制のつもりでたった一回蹴っただけなのに、こんなに怯えるなんて。
兄が居ないと何も出来ないみたいだ。
「襲ってこないならもういいわよ。ハティを返してくれるなら」
がくがく震えて涙目の弟の姿に何だか逆に申し訳なくなっちゃって。
これ以上何かするつもりもないし、さっさとハティを出して帰ろう。
――そう、思っていた時。
「きゃーーーーーーっ!!」
悪党兄が逃げていった方向から悲鳴が聞こえた。
「スコル! スコル!!」
檻の中からハティが叫ぶ。鉄格子を両手で掴んで、痛いはずなのに何度もスコル、と名を叫んでいる。
「そうか! やっぱり兄ちゃんすげえや! ひひひっ」
さっきまでの怯えようはどこへやら。
悪党兄が奥から出てくる。悪党弟は立ち上がると瞳を輝かせて兄のもとへと駆け出す。
悪党兄の腕には、金髪の女の子だ。でも、その顔は――
「ハティ……!?」
「スコル! スコルを離すのだぞ!」
ハティとそっくりな顔をした子が、悪党兄の腕に強く抱かれ、首元にナイフを当てられて怯えている。
どうやらハティと知り合いらしい。
「へへっこのガキに傷付けられたくなけりゃあ大人しくしな嬢ちゃん」
スコル、と呼ばれた女の子は涙を溢さないように唇を強く噛み締めていて、僅かに血が滲んでいるのが見えた。
悪党弟は威嚇のつもりなのかわざと大きな音を立てて鞭を床に叩きつけている。
「そうだぜ、兄ちゃんの言う通りにしておけば傷モノにはさせないぜぇ?」
――仕方ない。これはあんまり使いたくなかったけど。
「たった一撃食らわせたくらいで俺たちをやっつけたとでも思ったか? 勘違いしてんじゃねーぞ嬢ちゃん!」
二人してゲラゲラ笑っている。
「武器も無しにこのアクドー兄弟を倒すなんて無謀もはな……はなだ……はなだたしいぜ!」
「弟よ、甚だしいだぜ!」
人質がいるからか、さっきまで以上に強気な姿勢だ。
この人たちは、勘違いしている。
――わたしは、踊り子だ。そもそも武器なんて必要ない。
わたしは体全体を使ってゆっくり息を吸って、吐き出す。
丸まった背中を戻して悪党二人と視線を合わせば、空気の違いを感じ取ったようだ。僅かに息を詰まらせたのを見逃さない。
随分久しく使ってなかったけれど、これがわたしの本領だ。
二人の視線はわたしに集中している。これはもう、勝ちは決まっているようなものね。
――二人を真っ直ぐに見て、にっこりと可愛く笑顔を浮かべる。声を出すときは、いつもよりちょっぴり高い声で。
「ね、人質を解放して? お、ね、が、いっ」
最後にぱちん、とウインクをして見せれば、ほら。
「は、はひ……」
「あひゃ……」
――これでもう、わたしの虜。
さあ、人をババアだの、老けてるだの呼ばわりした悪者二人をどう懲らしめてあげようか。
怒りが一周回って、肩を震わせて笑うわたしに目の前の二人は少し驚いて後ずさる。
「兄ちゃん、思い出した! あの女、SSSランクだぜ! あの金色のチョーカー! ど、どどどうしよう兄ちゃん!」
「落ち着け弟よ! 例えSSSランクだろうとたかが女ひとり。こっちは二人だ、押さえ付けちまえばいーんだよぉ!」
「あっそっか! さすが兄ちゃん!」
弟の方は青い顔をして逃げ腰だったけれど、兄の言葉を聞いて分かり易いくらい強気な表情に変わる。
ニタニタ笑いながらわたしへとゆっくり歩み寄ってくる悪党兄弟。
鉄格子に触らないように気を付けながらハティに声を掛ける。
「ハティ、もう少しそこで待ってなさい」
「あんなやつら、ハティなら一瞬なのだ! ここから出すのだぞ! ……いッ、」
ハティが鉄格子に触ってばちっと音が立つ。魔力が吸い取られて痛みを感じている顔を見て、申し訳ない気持ちになるけれど、この分はわたしがしっかりあの二人にぶつけてやらなくちゃ。
「いいから、大人しくしてなさい。ね?」
納得いってなさそうなハティの顔を見てから、悪党二人に向き直る。
「へへっ丸腰の女にゃ負ける気がしねえな」
身の丈ほどある斧を重そうに回しながらわたしに一歩一歩近付いてくる悪党兄。
「可愛い女を痛めつけるなんて、おれ、興奮するぜ兄ちゃん」
鼻息荒く鞭を床に叩きつけて兄の数歩後ろを歩いている悪党弟。
悪党二人の方へ、わたしも足を向けて歩み出す。
油断してくれているなら、それでいい。
わたしは中央に立っている柱まで来ると、足を止める。
立ち止まったのをチャンスと思ったんだろう。
悪党兄の口元がにぃ、と上がり、斧を構えながらわたしへと真っ直ぐに走ってくる。
「オラァッッ!!」
斧が遠心力を利用して、わたしの腹辺りを目掛けて横に薙ぐ――けれど、その刃は当たることは無い。
「な……ッ!?」
「そんな遅い動きで、わたしに攻撃が当たると思った?」
少し上へ跳ぶと斧は勢いよく柱に深く喰い込んで、その刃の上に爪先で立つ。
顔を目掛けて片足で思い切り蹴りを入れれば、後ろへと倒れる悪党兄。
ぴょんともう一度跳んで床へと着地をして悪党兄を見る。その顔は悔しそうに顔を歪めていて、鼻からは血が流れ。
「く、くそ……ッ!」
「あっ兄ちゃん!? あ、あわわわ……」
悪党兄が屋敷の奥へと逃げ出す。
まあ、追わなくてもいいかな。わたしの目的は悪党退治な訳じゃない。
兄に置いて行かれて、呆然としている弟に歩み寄れば勝手に尻餅をついて怯える悪党弟。
「ま、待ってくれ! おれ、おれたちは頼まれてただけなんだよ! そいつは返す! 返すから!」
攻撃を避けて、牽制のつもりでたった一回蹴っただけなのに、こんなに怯えるなんて。
兄が居ないと何も出来ないみたいだ。
「襲ってこないならもういいわよ。ハティを返してくれるなら」
がくがく震えて涙目の弟の姿に何だか逆に申し訳なくなっちゃって。
これ以上何かするつもりもないし、さっさとハティを出して帰ろう。
――そう、思っていた時。
「きゃーーーーーーっ!!」
悪党兄が逃げていった方向から悲鳴が聞こえた。
「スコル! スコル!!」
檻の中からハティが叫ぶ。鉄格子を両手で掴んで、痛いはずなのに何度もスコル、と名を叫んでいる。
「そうか! やっぱり兄ちゃんすげえや! ひひひっ」
さっきまでの怯えようはどこへやら。
悪党兄が奥から出てくる。悪党弟は立ち上がると瞳を輝かせて兄のもとへと駆け出す。
悪党兄の腕には、金髪の女の子だ。でも、その顔は――
「ハティ……!?」
「スコル! スコルを離すのだぞ!」
ハティとそっくりな顔をした子が、悪党兄の腕に強く抱かれ、首元にナイフを当てられて怯えている。
どうやらハティと知り合いらしい。
「へへっこのガキに傷付けられたくなけりゃあ大人しくしな嬢ちゃん」
スコル、と呼ばれた女の子は涙を溢さないように唇を強く噛み締めていて、僅かに血が滲んでいるのが見えた。
悪党弟は威嚇のつもりなのかわざと大きな音を立てて鞭を床に叩きつけている。
「そうだぜ、兄ちゃんの言う通りにしておけば傷モノにはさせないぜぇ?」
――仕方ない。これはあんまり使いたくなかったけど。
「たった一撃食らわせたくらいで俺たちをやっつけたとでも思ったか? 勘違いしてんじゃねーぞ嬢ちゃん!」
二人してゲラゲラ笑っている。
「武器も無しにこのアクドー兄弟を倒すなんて無謀もはな……はなだ……はなだたしいぜ!」
「弟よ、甚だしいだぜ!」
人質がいるからか、さっきまで以上に強気な姿勢だ。
この人たちは、勘違いしている。
――わたしは、踊り子だ。そもそも武器なんて必要ない。
わたしは体全体を使ってゆっくり息を吸って、吐き出す。
丸まった背中を戻して悪党二人と視線を合わせば、空気の違いを感じ取ったようだ。僅かに息を詰まらせたのを見逃さない。
随分久しく使ってなかったけれど、これがわたしの本領だ。
二人の視線はわたしに集中している。これはもう、勝ちは決まっているようなものね。
――二人を真っ直ぐに見て、にっこりと可愛く笑顔を浮かべる。声を出すときは、いつもよりちょっぴり高い声で。
「ね、人質を解放して? お、ね、が、いっ」
最後にぱちん、とウインクをして見せれば、ほら。
「は、はひ……」
「あひゃ……」
――これでもう、わたしの虜。
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