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太陽はわたしの真上でぴかぴか輝いている。
今日は晴天。いつもならとっても元気に街を歩いているけれど、今日はどんよりした気分だ。

なんでかって?
それは――――

「ニア、ギルドには昨日報告したんじゃなかったのか?」

昨日ハオフェンさんから言われた通り、シャルを連れてギルドに行くからだ。

わたしの心配とは裏腹にシャルは気にしている様子は全くない。

「したけど……シャルの話が聞きたいって」

行かないということも出来るんだろうけれど、何となく後が怖いから行くことにした。

「そうなのか。何を不安がっているかはわからないが、ニアの足を引っ張るつもりはない。安心してくれ」

わたしを見て不思議そうにしながらもどこか自信ありげに言うシャルに余計に心配になる。
魔王だってことがバレたら大変なことになることわかってるのかなぁ……。

「ま、ちゃちゃっと終わらせちゃいましょ」

ハオフェンさんと、シャル。
二人が直接対面して、何事も無ければいいけれど……。


なんて考えていれば、ギルドに向かっている途中でシャルが足を止める。
驚いた表情で何かを見ている。

シャルの視線の先を追っていけば、竜車の御者が困っているようだ。

「オラ! 動け、この愚図!」

その場から動く気配のない、緑色の体がてかてかした竜の背中が蹲って丸まっているのが見える。
竜の背中を蹴ったり、鞭で叩いたりしているけれど、竜はぴくりとも動かない。

「おい!! 聞いているのか!! ったく、使えないモンを買わされちまったぜ」

「……竜車のトラブルみたいだね。よくあることだよ。ほら、ギルドに行こう、シャル。――シャル?」

視線を戻してシャルを見れば、隣に居たはずのシャルが居ない。

「待ってくれ」

竜車の方をもう一度見れば、シャルが鞭を振りかぶった御者の手を掴んでいる。

「な、なんだお前は!」
「もうそれ以上傷付けるのはやめろ」
「はあ!?」

シャルの力が強いのか御者の腕はつかまれたまま動かない。

「ちょ、ちょっとシャル!?」

慌ててシャルに駆け寄って御者を見れば――

「ニア?! お、お前の知り合いなのか、こいつは!」
「ど、ドラコ……」

青くて短い髪に目だけで人を殺せるんじゃないかってくらい目付きの悪い顔つきをした男――村の幼馴染の一人、ドラコーンが驚いた顔でわたしを見ていた。
わたし達に遅れて村を出たのは知っていたけれど、後ろ姿で気付かなかった。


「叩かないと約束してくれ」
「わかった、わかったよ! 離せ!」

シャルがドラコの手を離す。

捕まれていた手首を逆の手で擦りながらわたしとシャルを睨み付けるドラコ。
シャルは睨むドラコを無視して蹲っている竜の傍にしゃがみ込むと優しく背中を撫でる。

「何なんだよ、お前……おい、ニア、アイツは何なんだよ!!」
「ドラコ落ち着いてよ。えぇと、あの人はわたしのパーティメンバーで……」
「はあ? お前はアルバートと……あっ」

怪訝な顔を浮かべたが、直ぐに何かを察して口を閉じるドラコにイラッとしてしまう。

「振られたとかじゃないのよ、わたしがアイツらなんか要らないって切り捨ててやったんだから!」
「いや、何も言わなくていい。俺はわかってたぜ。アルバートはバカな奴だな……だから最初から俺とパーティ組めば良かっただろ?」

わたし達が村を出た後、半年くらいして追い掛けてきたドラコ。
その時わたしにパーティに入ってほしいってしつこく誘われたけれど、当時はアホ野郎にはわたしが居なくちゃダメなんだって思って断ったんだった。

「そうだよ、ニア! あんな失礼な奴より、俺の方がいいだろ!?」

ドラコに肩を捕まれる。
その力は思っていた以上に強くてびっくりしてしまった。

驚いて固まっているわたしに、鼻息を荒くして興奮気味のドラコの顔が近付いてくる。

「なあニア、アイツなんかより、俺の方がお前のことをずっと大事にしてやれるんだぞ? だから俺とパーティを――」
「おい」

シャルの手がドラコの頭を掴んで後ろに引き戻してから、割り込んでわたしの前に立つ。

「こいつは産気づいてただけだ。どこか暗くて静かな場所で休ませてやってくれ。じきに産まれる」

ドラコがハッとして竜に視線を向けた瞬間にシャルに手を掴まれて、行こうとしていた方向へと踵を返す。

「えっこいつ、雌竜だったのか……っておい、待て! どこにいく!!」
「ギルドだ。呼び出されているらしいからな。その竜にはまた後日様子を見に行かせてもらう」

言い出すなりわたしの手を引っ張って歩き出したシャル。
ドラコはわたしと竜を交互に見ていたけれど、竜に寄り添っていく背中を見て少しだけほっとした。

「アイツは、良い竜使いになるな」

軽くシャルが横目だけでドラコを見てぽつりと告げる。
ドラコはただの竜車の御者だけれど……。
シャルの目はどこか嬉しそうに、もっと違う何かを見据えていて。

なんだろう、少しだけ……ほんのすこーしだけ、わたしとシャルの間にある、何かに違和感を感じてもやもやした。
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