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第四章 幸せな日々
クリスマス会②
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クリスマス用にセッティングされた病院の四階広場。
ちびっ子たちからの質問攻めが終わった後、みんなでテーブルを囲む。
子どもたちは早速ボードゲームに興じ始めた。
その横で明希が友達二人を紹介してくれる。
「こっちのポニーテールの子がハルちゃん。アタシと同い年」
明希は言いながら、向かいに座ったポニーテールの女子に手をやる。
「どーも初めましてー! 九重春風ですー。明希ちゃんとは昔、同じ病室だったのがきっかけで仲良くなりましたー!」
明朗快活な自己紹介。
ポニーテール姿と相まって入院患者には見えないなあ、と思っていると。
九重さんは微笑を湛えながら手を差し出してきた。
「よろしくなー! 天瀬くん!」
「こちらこそ。九重さん、よろしくお願いします」
言葉を返し、その手を取る。
すると、九重さんの表情は満面の笑みへと変わる。
運動部なんかで元気に外で走り回ってそうな印象の女の子。
ただ、九重さんの手はひんやりとして、少し瘦せていた。肌の色も真っ白だった。
「それでね、こっちが栞ちゃん。中学二年生」
続いて、明希がもう一人の方を紹介してくれる。
「あの……どうも。仲手川栞、です……」
ゆっくりとした……というより、躊躇いがちな話し方。
目元が隠れるほどに長い前髪の隙間からおそるおそる僕の反応を窺ってくる。
「よろしく、仲手川さん」
さっき九重さんが僕に向けてくれたような笑み……は難しいけれど、僕なりに笑顔を浮かべながら挨拶を口にする。
仲手川さんの視線――前髪の下からの視線を感じる。
そして、少し遅れて彼女は頷く。その口元は心なしか和らいでいる気がした。
こうして挨拶を終えた後、明希は二人とのおしゃべりに入っていく。
明希の学校での話。
九重さんや仲手川さんの病院での話。
僕はそれを傍らで聴きながら、時折相槌をうつ。
九重さんは最近体調が回復してきているらしく、近いうちに退院できるかもしれないと喜んでいた。
「まあ、うちは退院するの三回目なんやけどねー。また戻ってくることになるかもなー」
なんて最後に付け足すものだから、僕は反応に困ってしまったけど。
仲手川さんは読書が好きらしい。
明希が「栞ちゃん、今何読んでるの?」と訊ねると、仲手川さんは身を乗り出し、前髪の隙間から覗く瞳を輝かせながら応えた。
「『シャーロック・ホームズの冒険』を読みました……。私……ミステリーはあまり読まないのですが、気が付いたら夢中になって読んでました……おすすめです」
そんなふうに会話をしていると、子どもたちが席を立って、九重さんのもとに駆け寄ってきた。
「はるかぜー、ピアノひいて!」「ひいてほしいのですっ」
男の子が九重さんの服の裾を引っ張りながら、部屋の隅を指差す。
その方向を見ると、部屋の隅にキーボードが設置されていた。
「ええでー! クリスマスソングでも歌うかー?」
「うたう!」
九重さんが立ち上がると、子どもたちがすぐさま彼女を引っ張って連行しようとする。
「行くから引っ張らんといてー」
苦笑いを浮かべながらそう訴える九重さん。
歩きながら彼女は僕たちの方を振り向く。
「明希ちゃんたちも、こっちこっちー!」
その一声で、僕たちも席を立ってキーボードの方へ向かう。
そして、この場にいる全員でキーボードの周りに並び、クリスマスソングを歌った。
ちびっ子たちからの質問攻めが終わった後、みんなでテーブルを囲む。
子どもたちは早速ボードゲームに興じ始めた。
その横で明希が友達二人を紹介してくれる。
「こっちのポニーテールの子がハルちゃん。アタシと同い年」
明希は言いながら、向かいに座ったポニーテールの女子に手をやる。
「どーも初めましてー! 九重春風ですー。明希ちゃんとは昔、同じ病室だったのがきっかけで仲良くなりましたー!」
明朗快活な自己紹介。
ポニーテール姿と相まって入院患者には見えないなあ、と思っていると。
九重さんは微笑を湛えながら手を差し出してきた。
「よろしくなー! 天瀬くん!」
「こちらこそ。九重さん、よろしくお願いします」
言葉を返し、その手を取る。
すると、九重さんの表情は満面の笑みへと変わる。
運動部なんかで元気に外で走り回ってそうな印象の女の子。
ただ、九重さんの手はひんやりとして、少し瘦せていた。肌の色も真っ白だった。
「それでね、こっちが栞ちゃん。中学二年生」
続いて、明希がもう一人の方を紹介してくれる。
「あの……どうも。仲手川栞、です……」
ゆっくりとした……というより、躊躇いがちな話し方。
目元が隠れるほどに長い前髪の隙間からおそるおそる僕の反応を窺ってくる。
「よろしく、仲手川さん」
さっき九重さんが僕に向けてくれたような笑み……は難しいけれど、僕なりに笑顔を浮かべながら挨拶を口にする。
仲手川さんの視線――前髪の下からの視線を感じる。
そして、少し遅れて彼女は頷く。その口元は心なしか和らいでいる気がした。
こうして挨拶を終えた後、明希は二人とのおしゃべりに入っていく。
明希の学校での話。
九重さんや仲手川さんの病院での話。
僕はそれを傍らで聴きながら、時折相槌をうつ。
九重さんは最近体調が回復してきているらしく、近いうちに退院できるかもしれないと喜んでいた。
「まあ、うちは退院するの三回目なんやけどねー。また戻ってくることになるかもなー」
なんて最後に付け足すものだから、僕は反応に困ってしまったけど。
仲手川さんは読書が好きらしい。
明希が「栞ちゃん、今何読んでるの?」と訊ねると、仲手川さんは身を乗り出し、前髪の隙間から覗く瞳を輝かせながら応えた。
「『シャーロック・ホームズの冒険』を読みました……。私……ミステリーはあまり読まないのですが、気が付いたら夢中になって読んでました……おすすめです」
そんなふうに会話をしていると、子どもたちが席を立って、九重さんのもとに駆け寄ってきた。
「はるかぜー、ピアノひいて!」「ひいてほしいのですっ」
男の子が九重さんの服の裾を引っ張りながら、部屋の隅を指差す。
その方向を見ると、部屋の隅にキーボードが設置されていた。
「ええでー! クリスマスソングでも歌うかー?」
「うたう!」
九重さんが立ち上がると、子どもたちがすぐさま彼女を引っ張って連行しようとする。
「行くから引っ張らんといてー」
苦笑いを浮かべながらそう訴える九重さん。
歩きながら彼女は僕たちの方を振り向く。
「明希ちゃんたちも、こっちこっちー!」
その一声で、僕たちも席を立ってキーボードの方へ向かう。
そして、この場にいる全員でキーボードの周りに並び、クリスマスソングを歌った。
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