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第四章 幸せな日々
デートの話
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「渡っ! クリスマスなんだけど……デートしよっ!!」
緊張した面持ちで明希がそう切り出してきたのは、十一月の中旬、明希の部屋で勉強会をしていた時だった。
その日の明希は普段と違って勉強に身が入っていないというか、僕の方にちらちらと視線を向けてきていたので、なにかあるかなとは思っていた。
けれど、デートの誘いとは思っていなかった。
僕たちは付き合ってからまだ一度もデートらしいデートをしていない。
明希は受験勉強をしなければならないからと、そういう話題を出すことも控えていた。
けれど、心の中ではクリスマスにはデートをしたいと思っていたし、機を見てお伺いを立てることも検討していた。
デートは無理だとしても、クリスマスプレゼントだけでも……と思い、先月末からバイトを始め、準備を進めている。
そんな僕に持ち掛けられた嬉しい誘い。
僕は一も二も無く即答した。
「うん! しよう、デート!」
そんな僕を見て、明希は安心したように息をつく。
それから悪戯っぽい笑みを浮かべ。
「渡、めっちゃ嬉しそうだねっ」
明希にからかわれ、顔が熱くなる。
僕は明希から視線を外しつつぶっきらぼうに言い返した。
「……大好きな彼女からデートに誘われたんだ。そりゃ、嬉しいに決まってるだろ」
「大好きな彼女……」
そのワードに反応して、明希が頬を抑える。
二人して赤くなり、それを誤魔化すように勉強へと戻る。
教科書の呪文のおかげで、五分後には大分落ち着いてきた。
僕は顔を上げ、明希の様子を窺う。
すると、ちょうどそのタイミングで明希も顔を上げた。バッチリ目が合う。
「あー、えっとね」
茶っこめのボブカットを指先でくるくる巻きながら、明希がぽつりぽつりと話し始める。
「デートの事なんだけど……一か所、お兄ちゃんに付いてきて欲しい場所があるんだよね」
「付いてきて欲しい場所?」
「うん……病院なんだけど」
病院……まさか、病気⁉
「どこか具合悪いのか⁉」
身を乗り出して明希に訊ねる。
「違うよぉ」
その答えを聞いて安堵する。
「飛躍しすぎだからっ」
「すまん」
明希に一言謝ってから、本題に戻る。
「で、なんで病院?」
「クリスマス会やるんだ。前にアタシが入院してた病院で」
「ああ、そういうことか」
今でこそ元気いっぱいだけれど、明希は昔、長い間入院していたことがある。
そのときお世話になった病院にはきっとたくさんの思い入れがあるはずだ。
「うん。まだ入院してる友達もいるから、退院してからもたまに病院に顔を出してるんだー。クリスマスも、毎年病院で過ごしてた。今年もそうしたい」
「それは構わないんだけど、僕も参加していいものなのか?」
「もちろんだよっ! 渡はアタシの大事な彼氏さんなんだから」
「そうか。わかった。一緒に行こう」
「うんっ! ありがと、渡っ‼」
こうして、僕は明希と一緒に病院のクリスマス会に参加することになった。
緊張した面持ちで明希がそう切り出してきたのは、十一月の中旬、明希の部屋で勉強会をしていた時だった。
その日の明希は普段と違って勉強に身が入っていないというか、僕の方にちらちらと視線を向けてきていたので、なにかあるかなとは思っていた。
けれど、デートの誘いとは思っていなかった。
僕たちは付き合ってからまだ一度もデートらしいデートをしていない。
明希は受験勉強をしなければならないからと、そういう話題を出すことも控えていた。
けれど、心の中ではクリスマスにはデートをしたいと思っていたし、機を見てお伺いを立てることも検討していた。
デートは無理だとしても、クリスマスプレゼントだけでも……と思い、先月末からバイトを始め、準備を進めている。
そんな僕に持ち掛けられた嬉しい誘い。
僕は一も二も無く即答した。
「うん! しよう、デート!」
そんな僕を見て、明希は安心したように息をつく。
それから悪戯っぽい笑みを浮かべ。
「渡、めっちゃ嬉しそうだねっ」
明希にからかわれ、顔が熱くなる。
僕は明希から視線を外しつつぶっきらぼうに言い返した。
「……大好きな彼女からデートに誘われたんだ。そりゃ、嬉しいに決まってるだろ」
「大好きな彼女……」
そのワードに反応して、明希が頬を抑える。
二人して赤くなり、それを誤魔化すように勉強へと戻る。
教科書の呪文のおかげで、五分後には大分落ち着いてきた。
僕は顔を上げ、明希の様子を窺う。
すると、ちょうどそのタイミングで明希も顔を上げた。バッチリ目が合う。
「あー、えっとね」
茶っこめのボブカットを指先でくるくる巻きながら、明希がぽつりぽつりと話し始める。
「デートの事なんだけど……一か所、お兄ちゃんに付いてきて欲しい場所があるんだよね」
「付いてきて欲しい場所?」
「うん……病院なんだけど」
病院……まさか、病気⁉
「どこか具合悪いのか⁉」
身を乗り出して明希に訊ねる。
「違うよぉ」
その答えを聞いて安堵する。
「飛躍しすぎだからっ」
「すまん」
明希に一言謝ってから、本題に戻る。
「で、なんで病院?」
「クリスマス会やるんだ。前にアタシが入院してた病院で」
「ああ、そういうことか」
今でこそ元気いっぱいだけれど、明希は昔、長い間入院していたことがある。
そのときお世話になった病院にはきっとたくさんの思い入れがあるはずだ。
「うん。まだ入院してる友達もいるから、退院してからもたまに病院に顔を出してるんだー。クリスマスも、毎年病院で過ごしてた。今年もそうしたい」
「それは構わないんだけど、僕も参加していいものなのか?」
「もちろんだよっ! 渡はアタシの大事な彼氏さんなんだから」
「そうか。わかった。一緒に行こう」
「うんっ! ありがと、渡っ‼」
こうして、僕は明希と一緒に病院のクリスマス会に参加することになった。
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