[完結]夢わたる恋模様

深山ナオ

文字の大きさ
上 下
46 / 76
第四章 幸せな日々

デートの話

しおりを挟む
「渡っ! クリスマスなんだけど……デートしよっ!!」

 緊張した面持ちで明希がそう切り出してきたのは、十一月の中旬、明希の部屋で勉強会をしていた時だった。
 その日の明希は普段と違って勉強に身が入っていないというか、僕の方にちらちらと視線を向けてきていたので、なにかあるかなとは思っていた。
 けれど、デートの誘いとは思っていなかった。

 僕たちは付き合ってからまだ一度もデートらしいデートをしていない。
 明希は受験勉強をしなければならないからと、そういう話題を出すことも控えていた。
 けれど、心の中ではクリスマスにはデートをしたいと思っていたし、機を見てお伺いを立てることも検討していた。
 デートは無理だとしても、クリスマスプレゼントだけでも……と思い、先月末からバイトを始め、準備を進めている。

 そんな僕に持ち掛けられた嬉しい誘い。
 僕は一も二も無く即答した。

「うん! しよう、デート!」

 そんな僕を見て、明希は安心したように息をつく。
 それから悪戯っぽい笑みを浮かべ。

「渡、めっちゃ嬉しそうだねっ」

 明希にからかわれ、顔が熱くなる。
 僕は明希から視線を外しつつぶっきらぼうに言い返した。

「……大好きな彼女からデートに誘われたんだ。そりゃ、嬉しいに決まってるだろ」 
「大好きな彼女……」

 そのワードに反応して、明希が頬を抑える。
 二人して赤くなり、それを誤魔化すように勉強へと戻る。

 教科書の呪文のおかげで、五分後には大分落ち着いてきた。
 僕は顔を上げ、明希の様子を窺う。
 すると、ちょうどそのタイミングで明希も顔を上げた。バッチリ目が合う。

「あー、えっとね」

 茶っこめのボブカットを指先でくるくる巻きながら、明希がぽつりぽつりと話し始める。

「デートの事なんだけど……一か所、お兄ちゃんに付いてきて欲しい場所があるんだよね」
「付いてきて欲しい場所?」
「うん……病院なんだけど」

 病院……まさか、病気⁉
 
「どこか具合悪いのか⁉」

 身を乗り出して明希に訊ねる。

「違うよぉ」

 その答えを聞いて安堵する。
 
「飛躍しすぎだからっ」
「すまん」

 明希に一言謝ってから、本題に戻る。

「で、なんで病院?」
「クリスマス会やるんだ。前にアタシが入院してた病院で」
「ああ、そういうことか」

 今でこそ元気いっぱいだけれど、明希は昔、長い間入院していたことがある。
 そのときお世話になった病院にはきっとたくさんの思い入れがあるはずだ。

「うん。まだ入院してる友達もいるから、退院してからもたまに病院に顔を出してるんだー。クリスマスも、毎年病院で過ごしてた。今年もそうしたい」
「それは構わないんだけど、僕も参加していいものなのか?」
「もちろんだよっ! 渡はアタシの大事な彼氏さんなんだから」
「そうか。わかった。一緒に行こう」
「うんっ! ありがと、渡っ‼」

 こうして、僕は明希と一緒に病院のクリスマス会に参加することになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

私が公爵の本当の娘ではないことを知った婚約者は、騙されたと激怒し婚約破棄を告げました。

Mayoi
恋愛
ウェスリーは婚約者のオリビアの出自を調べ、公爵の実の娘ではないことを知った。 そのようなことは婚約前に伝えられておらず、騙されたと激怒しオリビアに婚約破棄を告げた。 二人の婚約は大公が認めたものであり、一方的に非難し婚約破棄したウェスリーが無事でいられるはずがない。 自分の正しさを信じて疑わないウェスリーは自滅の道を歩む。

婚約者の命令により魔法で醜くなっていた私は、婚約破棄を言い渡されたので魔法を解きました

天宮有
恋愛
「貴様のような醜い者とは婚約を破棄する!」  婚約者バハムスにそんなことを言われて、侯爵令嬢の私ルーミエは唖然としていた。  婚約が決まった際に、バハムスは「お前の見た目は弱々しい。なんとかしろ」と私に言っていた。  私は独自に作成した魔法により太ることで解決したのに、その後バハムスは婚約破棄を言い渡してくる。  もう太る魔法を使い続ける必要はないと考えた私は――魔法を解くことにしていた。

幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」  夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。  ──数年後。  ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。 「あなたの息の根は、わたしが止めます」

両親と妹から搾取されていたので、爆弾を投下して逃げました

下菊みこと
恋愛
搾取子が両親と愛玩子に反逆するお話。ざまぁ有り。

フルハピ☆悪女リスタート

茄珠みしろ
恋愛
国を襲う伝染病で幼くして母親を失い、父からも愛情を受けることが出来ず、再婚により新しくできた異母妹に全てを奪われたララスティは、20歳の誕生日のその日、婚約者のカイルに呼び出され婚約破棄を言い渡された。 失意の中家に帰れば父の命令で修道院に向かわされる。 しかし、その道程での事故によりララスティは母親が亡くなった直後の7歳児の時に回帰していた。 頭を整理するためと今後の活動のために母方の伯父の元に身を寄せ、前回の復讐と自分の行動によって結末が変わるのかを見届けたいという願いを叶えるためにララスティは計画を練る。 前回と同じように父親が爵位を継いで再婚すると、やはり異母妹のエミリアが家にやってきてララスティのものを奪っていくが、それはもうララスティの復讐計画の一つに過ぎない。 やってくる前に下ごしらえをしていたおかげか、前回とは違い「可哀相な元庶子の異母妹」はどこにもおらず、そこにいるのは「異母姉のものを奪う教養のない元庶子」だけ。 変わらないスケジュールの中で変わっていく人間模様。 またもやララスティの婚約者となったカイルは前回と同じようにエミリアを愛し「真実の愛」を貫くのだろうか? そしてルドルフとの接触で判明したララスティですら知らなかった「その後」の真実も明かされ、物語はさらなる狂想へと進みだす。 味方のふりをした友人の仮面をかぶった悪女は物語の結末を待っている。 フ ル ハッピーエンディング そういったのは だ ぁ れ ? ☆他サイトでも投稿してます

婚約破棄ですか? では、最後に一言申しあげます。

にのまえ
恋愛
今宵の舞踏会で婚約破棄を言い渡されました。

夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す。

ゆずこしょう
恋愛
女騎士として働いてきて、やっと幼馴染で許嫁のアドルフと結婚する事ができたエルヴィール(18) しかし半年後。魔物が大量発生し、今度はアドルフに徴集命令が下った。 「俺は魔物討伐なんか行けない…お前の方が昔から強いじゃないか。か、かわりにお前が行ってきてくれ!」 頑張って伸ばした髪を短く切られ、荷物を持たされるとそのまま有無を言わさず家から追い出された。 そして…5年の任期を終えて帰ってきたエルヴィールは…。

処理中です...