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第三章 恋人になった
明希への謝罪と……
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咲野さんが教室を去ってからしばらくの間、僕はその場に立ち尽くしていた。
登校してきたクラスメイトが扉を開けるなり怪訝な視線を向けてきて、それでようやく僕は自分の席へと戻る。
スマホを取り出して、一呼吸。
僕にとって一番大切な人。
けれど、そうとは気づかず傷つけてしまった相手と話しをしなければならない。
「明希、話があるんだ。学校来てるか?」
そうメッセージを送るが、既読はつかない。
一晩中泣きはらしていた明希が、今日通学してくるのかはわからない。
来るにせよ、来ないにせよ、僕の教室で待つより、昇降口――いや、校門で待っていた方がいい。
そう考え、登校してきた生徒たちとすれ違いながら、校門の前へと移動する。
メッセージに既読が付かないまま、明希を待つこと数十分。始業五分前の生徒たちの群れの中。
そこに小柄な体を埋もれさせ、俯きながら歩いてくる明希の姿を見つけた。
「明希っ!」
僕は叫んだ。そして、人並みをかき分けて彼女の元へと向かう。
そして、その手を取って生徒の流れの中から連れ出した。
校門付近の木陰で明希と向き合う。
「……お兄ちゃん」
弱々しく呟いて、僕を見上げる明希。
その目は充血していて腫れぼったい。
「明希、ごめん、ごめんな……」
僕は謝らずにはいられなかった。
もっと順序立てて話して、きちんと謝罪をしたいのに、明希の目を見たら、感情が溢れてきてしまった。
「え、ちょっと……お兄ちゃん、どうしたの? 急に」
戸惑いつつも、明希は笑顔を浮かべようとする。ただ、その無理矢理な笑顔は痛々さを感じさせる。
「目が腫れるほどに明希を泣かせたのは僕だ。僕のせいだ……」
「っ……」
咄嗟に俯いて目元を隠す明希。
「や、やだなぁ。ただの寝不足だよ、寝不足。アタシは別に、泣いてなんて……」
そう言って強がって見せるけれど、明希は俯いたまま、顔を上げようとしない。
どころか、僕は気付いてしまった。
彼女の頬を伝う雫に。
「泣いてるのか?」
「な、泣いてないよぉ……」
「でも、お前……」
「いいから、ほっといて……お兄ちゃんが、何を謝ってるのか知らないけれど、もうすぐチャイムなるから……遅刻しちゃう……」
明希が僕に背中を向ける。今にも立ち去ってしまいそうな彼女の手を、僕は引き留め、言葉を続ける。
「大事な話なんだ。僕が咲野さんと付き合ってたこと。明希に謝らなきゃいけないから」
「謝るとか、意味わかんないよ……。お兄ちゃんはその子と一緒に幸せになればいいんだ」
「それはもうあり得ない。僕は咲野さんと別れたんだから」
「えっ……」
予想外の言葉だったのか、明希が振り返った。
「別れた、の……?」
「ああ」
彼女の目は、どういうことかと問いかけてくる。
「僕にとって一番大切なのは明希だった。そのことに気が付いたんだ。だから今朝、咲野さんに別れ話をした」
「なんで……」
「なんでって……?」
明希が何を指してなんでと言っているのかわからなかった。
明希は、聞き返した僕を見上げ、片手を自分の胸に当てて、訴えかけるように口を開いた。
「アタシ、こんなんだよ。ちんちくりんだし、子どもっぽいし、真っ平らだし……あの子の方が可愛くてスタイルもよくて、優しそうで……」
「そんなことはない。明希は可愛いし、優しい。明るくて面白いし、一緒に居て楽しい。元気を貰える。それに真面目なところもあるし、いつだって全力だ。そんな明希が……好きなんだっ!」
「っ……」
明希が大きく目を見開く。
そして、そのまま微動だにしない。
「明希?」
その呼びかけで、ようやく明希が瞬きをした。
小さく開いていた口が空気を吸いこむ。
そして。
「わけわかんないっ」
「へ?」
「いつの間にか知らない女の子と付き合ってるし、その子との交際を報告されるのかと覚悟したらお別れ報告だったし、その上お兄ちゃんに告白されるし……ほんっと、わけわかんないっ!」
「おお……」
「アタシ、すごくショックだったんだからっ。一晩中泣いたんだから。学校には来たけど、来るときだってずっと泣きそうだったし……もうずっと立ち直れないと思ってたっ!」
まくし立てるように言い放った明希は、そこで言葉を止めると、一度呼吸を整え、そっと僕に寄り添ってくる。
そのまま、僕の胸元でか細い声を出す。
「お兄ちゃん、アタシのこと好きって、嘘じゃないよね」
「嘘じゃない。好きだ、明希」
「アタシも……アタシも、お兄ちゃんのこと、好き。大好き。だから、本当につらかった」
「ごめんな、明希」
「ん……でも、許さない……どんなに謝っても許さないよ、お兄ちゃん」
「え……」
「アタシと付き合って、いっぱいデートして、いつか結婚して……一緒に幸せになってくれないと、許さないからっ」
「わかった。幸せにするよ……一緒に幸せになろう」
「うんっ」
僕は明希の身体にそっと腕を回す。
腕の中にある、大切な温もり。
この子を、もう二度と傷つけることがないように。
最大限の幸福を分かち合えるように。
僕は自分を戒め、明希と二人で紡ぐ未来へ思いを馳せる。
登校してきたクラスメイトが扉を開けるなり怪訝な視線を向けてきて、それでようやく僕は自分の席へと戻る。
スマホを取り出して、一呼吸。
僕にとって一番大切な人。
けれど、そうとは気づかず傷つけてしまった相手と話しをしなければならない。
「明希、話があるんだ。学校来てるか?」
そうメッセージを送るが、既読はつかない。
一晩中泣きはらしていた明希が、今日通学してくるのかはわからない。
来るにせよ、来ないにせよ、僕の教室で待つより、昇降口――いや、校門で待っていた方がいい。
そう考え、登校してきた生徒たちとすれ違いながら、校門の前へと移動する。
メッセージに既読が付かないまま、明希を待つこと数十分。始業五分前の生徒たちの群れの中。
そこに小柄な体を埋もれさせ、俯きながら歩いてくる明希の姿を見つけた。
「明希っ!」
僕は叫んだ。そして、人並みをかき分けて彼女の元へと向かう。
そして、その手を取って生徒の流れの中から連れ出した。
校門付近の木陰で明希と向き合う。
「……お兄ちゃん」
弱々しく呟いて、僕を見上げる明希。
その目は充血していて腫れぼったい。
「明希、ごめん、ごめんな……」
僕は謝らずにはいられなかった。
もっと順序立てて話して、きちんと謝罪をしたいのに、明希の目を見たら、感情が溢れてきてしまった。
「え、ちょっと……お兄ちゃん、どうしたの? 急に」
戸惑いつつも、明希は笑顔を浮かべようとする。ただ、その無理矢理な笑顔は痛々さを感じさせる。
「目が腫れるほどに明希を泣かせたのは僕だ。僕のせいだ……」
「っ……」
咄嗟に俯いて目元を隠す明希。
「や、やだなぁ。ただの寝不足だよ、寝不足。アタシは別に、泣いてなんて……」
そう言って強がって見せるけれど、明希は俯いたまま、顔を上げようとしない。
どころか、僕は気付いてしまった。
彼女の頬を伝う雫に。
「泣いてるのか?」
「な、泣いてないよぉ……」
「でも、お前……」
「いいから、ほっといて……お兄ちゃんが、何を謝ってるのか知らないけれど、もうすぐチャイムなるから……遅刻しちゃう……」
明希が僕に背中を向ける。今にも立ち去ってしまいそうな彼女の手を、僕は引き留め、言葉を続ける。
「大事な話なんだ。僕が咲野さんと付き合ってたこと。明希に謝らなきゃいけないから」
「謝るとか、意味わかんないよ……。お兄ちゃんはその子と一緒に幸せになればいいんだ」
「それはもうあり得ない。僕は咲野さんと別れたんだから」
「えっ……」
予想外の言葉だったのか、明希が振り返った。
「別れた、の……?」
「ああ」
彼女の目は、どういうことかと問いかけてくる。
「僕にとって一番大切なのは明希だった。そのことに気が付いたんだ。だから今朝、咲野さんに別れ話をした」
「なんで……」
「なんでって……?」
明希が何を指してなんでと言っているのかわからなかった。
明希は、聞き返した僕を見上げ、片手を自分の胸に当てて、訴えかけるように口を開いた。
「アタシ、こんなんだよ。ちんちくりんだし、子どもっぽいし、真っ平らだし……あの子の方が可愛くてスタイルもよくて、優しそうで……」
「そんなことはない。明希は可愛いし、優しい。明るくて面白いし、一緒に居て楽しい。元気を貰える。それに真面目なところもあるし、いつだって全力だ。そんな明希が……好きなんだっ!」
「っ……」
明希が大きく目を見開く。
そして、そのまま微動だにしない。
「明希?」
その呼びかけで、ようやく明希が瞬きをした。
小さく開いていた口が空気を吸いこむ。
そして。
「わけわかんないっ」
「へ?」
「いつの間にか知らない女の子と付き合ってるし、その子との交際を報告されるのかと覚悟したらお別れ報告だったし、その上お兄ちゃんに告白されるし……ほんっと、わけわかんないっ!」
「おお……」
「アタシ、すごくショックだったんだからっ。一晩中泣いたんだから。学校には来たけど、来るときだってずっと泣きそうだったし……もうずっと立ち直れないと思ってたっ!」
まくし立てるように言い放った明希は、そこで言葉を止めると、一度呼吸を整え、そっと僕に寄り添ってくる。
そのまま、僕の胸元でか細い声を出す。
「お兄ちゃん、アタシのこと好きって、嘘じゃないよね」
「嘘じゃない。好きだ、明希」
「アタシも……アタシも、お兄ちゃんのこと、好き。大好き。だから、本当につらかった」
「ごめんな、明希」
「ん……でも、許さない……どんなに謝っても許さないよ、お兄ちゃん」
「え……」
「アタシと付き合って、いっぱいデートして、いつか結婚して……一緒に幸せになってくれないと、許さないからっ」
「わかった。幸せにするよ……一緒に幸せになろう」
「うんっ」
僕は明希の身体にそっと腕を回す。
腕の中にある、大切な温もり。
この子を、もう二度と傷つけることがないように。
最大限の幸福を分かち合えるように。
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