33 / 76
第三章 恋人になった
休日デート④
しおりを挟む
陽が傾き始めた時分。
優と二人、駅近くの公園へとやってきた。
入るときに、それまで遊んでいたらしい子どもたちとその保護者が帰っていった。公園内にはもう誰も残っていない。
「……二人きり、だね」
夕日に頬を染めた優が囁きかけてくる。
「えっと……」
くすぐったさからか、僕の口からはうまく言葉が出て来ない。
思えば今日のデートで、人目のない場所へ来たのはこれが初めてだ。
僕は優から視線を外し、周囲に巡らせた。
その視線が、公園の片隅、自動販売機が目に留まった。
「……何か飲む?」
自動販売機を指差しながら優に訊ねる。
「うん」
優の頷きを受け、自動販売機の正面へと移動。
僕は缶ジュースを、優は紅茶を買って、傍のベンチに腰掛ける。
時折吹く九月半ばの涼風。
それが、隣に座る優の亜麻色髪をさらさらと靡かせる。
それを横目に、僕は自販機で買った缶ジュースのプルタブを開けた。カシュっと心地よい音が響く。
それに口をつけグイっと呷ると、夕焼け色に染まり始めた空が視線に入った。
缶を口から離した後もなんとなくそれを見続けていると、優も空を見上げ、目を細めて呟く。
「デートってこんな感じなんだねー……二人で一緒に過ごすだけでドキドキして、けどなんだか心地良くって。初デート、すっごく楽しかったなー」
優の言葉に頷きを返しながら、今日一日を思い返す。
映画館で手を握ってきて、幸せそうに微笑む優。
カフェで映画の感想を楽しそうに語る優。
プリクラ撮影で顔を赤らめながらも密着してきた優。
そして、二人きりの公園で夕日に頬を染める優。
僕と一緒に過ごしているだけで、優はずっと幸せそうな顔をしていた。本当に僕の事を好いてくれているのだと思う。
そんな子に好かれていると、僕も幸せな気分になってくる。
彼女と付き合うことになった理由……僕の事情は打算的なものだったけれど、結果として僕たち二人はうまく付き合っていけそうな気がする。
そう思ったから。
「またデートしような」
優の目を見て、僕はそう口にする。言うことができた。
「うんっ!」
優は勢いよく頷いて、今日一番の笑顔を浮かべた。
それから。
「渡くん、ちょっといい?」
手招きと共にそう言ってきた。
どうやら顔を寄せて欲しいということらしい。
内緒話でもするのだろうか?
そう思いながら、僕が顔を寄せると……。
「ちゅっ……」
最初、それがなんだかわからなかった。頬の一点に柔らかさだけを感じていた。
一瞬の事で、その感触はすぐに離れて行ってしまう。
余韻と共に、僕は優の顔を窺った。
少し潤んだ優の瞳。
それから、これまでにないほど真っ赤に染まった頬。
――それがキスだったのだと僕は気が付く。
「優……」
どう反応すればいいのか分からない中で、優の名前を口にする。
それ以上、言葉は続かない。
対して優は、真っ赤になりながらも、恋に揺れる瞳で僕を見つめてくる。
「あの、えっと……約束だから」
優は探り探り言葉を繰り続ける。
「またデートしてくれるって……絶対だからね」
僕だけを映す優の瞳。
その瞳が真剣に訴えかけてくる。
「うん……絶対」
返事と同時に頷きを返すと、優は再度口を開いた。
それから躊躇いがちに言葉を紡ぐ。
「渡くんからも……。渡くんからも、して欲しいな……約束の――」
そこまで言うと、優は顔を少し上向け、瞼を閉じた。
軽くすぼめられた瑞々しい唇に目を奪われる。
先程僕の頬に口づけをした優の唇。
今度はここに僕からの約束のしるしを求められている。
少しだけ、逡巡する。
キスをしたら、もう後戻りはできない気がしたから。
それでも僕は一刹那の内に覚悟を決めて、優に口づけをしようとした。
けれど、その瞬間。
視界の端、公園の入り口。
僕の目はそこに佇む人影を捉えてしまった。
小柄な体躯、夕日に透ける茶色髪。
そして、僕の学校の制服姿。
何の因果か、その人影は、明希だった。
優と二人、駅近くの公園へとやってきた。
入るときに、それまで遊んでいたらしい子どもたちとその保護者が帰っていった。公園内にはもう誰も残っていない。
「……二人きり、だね」
夕日に頬を染めた優が囁きかけてくる。
「えっと……」
くすぐったさからか、僕の口からはうまく言葉が出て来ない。
思えば今日のデートで、人目のない場所へ来たのはこれが初めてだ。
僕は優から視線を外し、周囲に巡らせた。
その視線が、公園の片隅、自動販売機が目に留まった。
「……何か飲む?」
自動販売機を指差しながら優に訊ねる。
「うん」
優の頷きを受け、自動販売機の正面へと移動。
僕は缶ジュースを、優は紅茶を買って、傍のベンチに腰掛ける。
時折吹く九月半ばの涼風。
それが、隣に座る優の亜麻色髪をさらさらと靡かせる。
それを横目に、僕は自販機で買った缶ジュースのプルタブを開けた。カシュっと心地よい音が響く。
それに口をつけグイっと呷ると、夕焼け色に染まり始めた空が視線に入った。
缶を口から離した後もなんとなくそれを見続けていると、優も空を見上げ、目を細めて呟く。
「デートってこんな感じなんだねー……二人で一緒に過ごすだけでドキドキして、けどなんだか心地良くって。初デート、すっごく楽しかったなー」
優の言葉に頷きを返しながら、今日一日を思い返す。
映画館で手を握ってきて、幸せそうに微笑む優。
カフェで映画の感想を楽しそうに語る優。
プリクラ撮影で顔を赤らめながらも密着してきた優。
そして、二人きりの公園で夕日に頬を染める優。
僕と一緒に過ごしているだけで、優はずっと幸せそうな顔をしていた。本当に僕の事を好いてくれているのだと思う。
そんな子に好かれていると、僕も幸せな気分になってくる。
彼女と付き合うことになった理由……僕の事情は打算的なものだったけれど、結果として僕たち二人はうまく付き合っていけそうな気がする。
そう思ったから。
「またデートしような」
優の目を見て、僕はそう口にする。言うことができた。
「うんっ!」
優は勢いよく頷いて、今日一番の笑顔を浮かべた。
それから。
「渡くん、ちょっといい?」
手招きと共にそう言ってきた。
どうやら顔を寄せて欲しいということらしい。
内緒話でもするのだろうか?
そう思いながら、僕が顔を寄せると……。
「ちゅっ……」
最初、それがなんだかわからなかった。頬の一点に柔らかさだけを感じていた。
一瞬の事で、その感触はすぐに離れて行ってしまう。
余韻と共に、僕は優の顔を窺った。
少し潤んだ優の瞳。
それから、これまでにないほど真っ赤に染まった頬。
――それがキスだったのだと僕は気が付く。
「優……」
どう反応すればいいのか分からない中で、優の名前を口にする。
それ以上、言葉は続かない。
対して優は、真っ赤になりながらも、恋に揺れる瞳で僕を見つめてくる。
「あの、えっと……約束だから」
優は探り探り言葉を繰り続ける。
「またデートしてくれるって……絶対だからね」
僕だけを映す優の瞳。
その瞳が真剣に訴えかけてくる。
「うん……絶対」
返事と同時に頷きを返すと、優は再度口を開いた。
それから躊躇いがちに言葉を紡ぐ。
「渡くんからも……。渡くんからも、して欲しいな……約束の――」
そこまで言うと、優は顔を少し上向け、瞼を閉じた。
軽くすぼめられた瑞々しい唇に目を奪われる。
先程僕の頬に口づけをした優の唇。
今度はここに僕からの約束のしるしを求められている。
少しだけ、逡巡する。
キスをしたら、もう後戻りはできない気がしたから。
それでも僕は一刹那の内に覚悟を決めて、優に口づけをしようとした。
けれど、その瞬間。
視界の端、公園の入り口。
僕の目はそこに佇む人影を捉えてしまった。
小柄な体躯、夕日に透ける茶色髪。
そして、僕の学校の制服姿。
何の因果か、その人影は、明希だった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる