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第三章 恋人になった
恋人という関係
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次の日の朝。
登校してきた僕は、一呼吸おいて、教室のドアを開ける。
すると……。
手前の席に座っている咲野さんと目が合った。
瞬間、咲野さんが笑顔の花を咲かせる。
「渡くん、おはよー!」
弾んだ声で挨拶してくる咲野さん。
僕は後ろ手にドアを閉めながら、挨拶を返す。
「おはよう、咲野さん」
それを聞いた咲野さんの笑顔が萎れる。
代わりに唇を尖らせて。
「……咲野さんじゃなくて、優。ゆう、だよ」
拗ねたように主張してくる咲野さん。
そうだった。優って呼ぶようになったんだっけ……。
いつからか咲野さん呼びに戻ってしまっていた。
「ごめん、優。人目があるところだと、恥ずかしくって」
謝りつつ、そんな言い訳を口にする。
実際、この会話は周囲の人には聞こえているはずで、そういう照れ臭さはあるのだ。
「周囲の目なんて気にしてたら、楽しめないよー?」
人差し指を立てて、教育するかのように言葉を繰る優。ちょっとお姉さんっぽい。
「そうだよね」
僕が頷くと、優はまたニコッと頬を緩める。
「名前で呼ばれるとね、実感するんだー。渡くんと付き合ってるんだなあって」
照れている様子は少しあるが、それでもハッキリと付き合っていると口にする優。
噂は本当だった、と。周囲が騒めく。
僕はこの騒めきを気にしてはいけない。
「僕も優との関係が変わったんだなあって感じる」
そう。僕と優は恋人という関係になったのだ。
目の前にいる笑顔が素敵でゆるふわな雰囲気の女の子が僕の彼女で。
他ならぬこの僕が、その女の子の彼氏なんだ。
自覚を持たなければ。
「感情を伝え合うのって、ムズムズするけど……幸せー」
「うん」
優の言葉に、僕は頷く。
そう。これはきっと幸せな事なんだ。
頬を染めながらも語り合う僕たち。
恥ずかしいセリフを互いに言い合うのが恋人なのかもしれない。
始業の少し前になって、優との会話を切り上げ、ようやく僕は自分の席へと向かう。
歩き出した僕の背後から。
「よかったじゃん」
二条院さんが優を祝福する言葉と。
「うんっ!」
優が弾んだ声で答えたのが聞こえた。
登校してきた僕は、一呼吸おいて、教室のドアを開ける。
すると……。
手前の席に座っている咲野さんと目が合った。
瞬間、咲野さんが笑顔の花を咲かせる。
「渡くん、おはよー!」
弾んだ声で挨拶してくる咲野さん。
僕は後ろ手にドアを閉めながら、挨拶を返す。
「おはよう、咲野さん」
それを聞いた咲野さんの笑顔が萎れる。
代わりに唇を尖らせて。
「……咲野さんじゃなくて、優。ゆう、だよ」
拗ねたように主張してくる咲野さん。
そうだった。優って呼ぶようになったんだっけ……。
いつからか咲野さん呼びに戻ってしまっていた。
「ごめん、優。人目があるところだと、恥ずかしくって」
謝りつつ、そんな言い訳を口にする。
実際、この会話は周囲の人には聞こえているはずで、そういう照れ臭さはあるのだ。
「周囲の目なんて気にしてたら、楽しめないよー?」
人差し指を立てて、教育するかのように言葉を繰る優。ちょっとお姉さんっぽい。
「そうだよね」
僕が頷くと、優はまたニコッと頬を緩める。
「名前で呼ばれるとね、実感するんだー。渡くんと付き合ってるんだなあって」
照れている様子は少しあるが、それでもハッキリと付き合っていると口にする優。
噂は本当だった、と。周囲が騒めく。
僕はこの騒めきを気にしてはいけない。
「僕も優との関係が変わったんだなあって感じる」
そう。僕と優は恋人という関係になったのだ。
目の前にいる笑顔が素敵でゆるふわな雰囲気の女の子が僕の彼女で。
他ならぬこの僕が、その女の子の彼氏なんだ。
自覚を持たなければ。
「感情を伝え合うのって、ムズムズするけど……幸せー」
「うん」
優の言葉に、僕は頷く。
そう。これはきっと幸せな事なんだ。
頬を染めながらも語り合う僕たち。
恥ずかしいセリフを互いに言い合うのが恋人なのかもしれない。
始業の少し前になって、優との会話を切り上げ、ようやく僕は自分の席へと向かう。
歩き出した僕の背後から。
「よかったじゃん」
二条院さんが優を祝福する言葉と。
「うんっ!」
優が弾んだ声で答えたのが聞こえた。
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