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第二章 如月さんとの協力関係
二条院誠羅の想い
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「如月……話あんだけど」
テンション低めの声音。
体育の授業前。
体操服への着替えを終えた私に声をかけてきたのは、クラス内カーストトップの巻き髪女子、二条院誠羅。
彼女の言葉には、敵対心がたっぷり含まれていた。
……表にも、裏にも。
二条院さんは咲野さんと一緒にいるのをよく見かけるが、今は一人だった。
「なにかしら」
嫌な予感を感じながらも、冷静に言葉を返す。
対して二条院さんは、
「こっち」
と、それだけ言って私に背中を向ける。
ついてこい、ということらしい。
そうして連れてこられたのは体育館裏。
「……」
ここなら人目につかないわね。
改めて、二条院さんと相対する。
目の高さは同じくらい。私も彼女も、女子にしては背が高い方。
彼女の薄化粧や巻いた髪が私に威圧感を与えてくる。
「如月。アンタ、なんのつもり?」
巻き髪を人差し指で弄りながらの第一声。いきなり高圧的。
「わざわざ周囲を突き放して……その癖、気に入った男には色目使ってさぁ……。孤立して、優しい男子に同情してもらおうって魂胆だったわけ?」
厳しい声音で言い放ってくる二条院さん。発言に裏表はほとんどない。ただ、男とは天瀬くんのことを指しているのだと彼女の発言と本意の僅かなズレから判明する。
「……天瀬くんとの関係の事なら、変えるつもりはないわよ」
私は彼の覚悟を知っている。
自分の秘密を明かしてまで――孤立するリスクを冒してまで、私を助けようとしてくれている、彼の覚悟を。
私にはそれが嬉しかった。
だから、彼を裏切るようなことはできない。
たとえここで二条院さんに目を付けられることになろうとも……私の小さな平穏が崩れ去ってしまったとしても、彼の気持ちを無下にすることなんてしたくないから。
だから、私は確固たる意志を込めて、二条院さんに言い放った。
「なっ……」
機先を制された二条院さんは、動揺からか、少し言葉に詰まったが……。
すぐに彼女の眉間にしわが寄る。
そして、両拳をぐっと握り込んで、私に言い返してきた。
「ゆ、優の方が、不愛想なアンタなんかよりずっと天瀬にふさわしいんだからっ!」
その言葉は意外だった。
それまで、二条院さんは自分本位な理由で私に対峙していると決めつけていたから。
けれど、この諍いは彼女が友達を思う気持ちから来ていたのだと、その一言でわかった。
本意を前面に押し出した発言でわかってしまった。
「咲野さん、か……」
いいな、と。
彼女を羨ましいと思ってしまった。
友だちに思われて、素敵な相手に恋をして。
咲野さんには人望があって、愛嬌もある。
……きっと天瀬くんにお似合いだろう。
どちらも欠けている私なんかより、ずっと。
「それでも……」
言葉を続けようとするが、喉の奥に引っかかって出てこない。
先程までの私の意思は、天瀬くんが咲野さんと一緒に幸せになる未来を想像した瞬間、歪んでしまった。
私は邪魔ものなのだ。
授業開始のチャイムが鳴り。
「とにかく……態度、改めろし」
苦々しい顔でそう言って、二条院さんは体育館へと戻っていく。
私はしばらくその場を動けなかった。
テンション低めの声音。
体育の授業前。
体操服への着替えを終えた私に声をかけてきたのは、クラス内カーストトップの巻き髪女子、二条院誠羅。
彼女の言葉には、敵対心がたっぷり含まれていた。
……表にも、裏にも。
二条院さんは咲野さんと一緒にいるのをよく見かけるが、今は一人だった。
「なにかしら」
嫌な予感を感じながらも、冷静に言葉を返す。
対して二条院さんは、
「こっち」
と、それだけ言って私に背中を向ける。
ついてこい、ということらしい。
そうして連れてこられたのは体育館裏。
「……」
ここなら人目につかないわね。
改めて、二条院さんと相対する。
目の高さは同じくらい。私も彼女も、女子にしては背が高い方。
彼女の薄化粧や巻いた髪が私に威圧感を与えてくる。
「如月。アンタ、なんのつもり?」
巻き髪を人差し指で弄りながらの第一声。いきなり高圧的。
「わざわざ周囲を突き放して……その癖、気に入った男には色目使ってさぁ……。孤立して、優しい男子に同情してもらおうって魂胆だったわけ?」
厳しい声音で言い放ってくる二条院さん。発言に裏表はほとんどない。ただ、男とは天瀬くんのことを指しているのだと彼女の発言と本意の僅かなズレから判明する。
「……天瀬くんとの関係の事なら、変えるつもりはないわよ」
私は彼の覚悟を知っている。
自分の秘密を明かしてまで――孤立するリスクを冒してまで、私を助けようとしてくれている、彼の覚悟を。
私にはそれが嬉しかった。
だから、彼を裏切るようなことはできない。
たとえここで二条院さんに目を付けられることになろうとも……私の小さな平穏が崩れ去ってしまったとしても、彼の気持ちを無下にすることなんてしたくないから。
だから、私は確固たる意志を込めて、二条院さんに言い放った。
「なっ……」
機先を制された二条院さんは、動揺からか、少し言葉に詰まったが……。
すぐに彼女の眉間にしわが寄る。
そして、両拳をぐっと握り込んで、私に言い返してきた。
「ゆ、優の方が、不愛想なアンタなんかよりずっと天瀬にふさわしいんだからっ!」
その言葉は意外だった。
それまで、二条院さんは自分本位な理由で私に対峙していると決めつけていたから。
けれど、この諍いは彼女が友達を思う気持ちから来ていたのだと、その一言でわかった。
本意を前面に押し出した発言でわかってしまった。
「咲野さん、か……」
いいな、と。
彼女を羨ましいと思ってしまった。
友だちに思われて、素敵な相手に恋をして。
咲野さんには人望があって、愛嬌もある。
……きっと天瀬くんにお似合いだろう。
どちらも欠けている私なんかより、ずっと。
「それでも……」
言葉を続けようとするが、喉の奥に引っかかって出てこない。
先程までの私の意思は、天瀬くんが咲野さんと一緒に幸せになる未来を想像した瞬間、歪んでしまった。
私は邪魔ものなのだ。
授業開始のチャイムが鳴り。
「とにかく……態度、改めろし」
苦々しい顔でそう言って、二条院さんは体育館へと戻っていく。
私はしばらくその場を動けなかった。
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