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第二章 如月さんとの協力関係
堂上隼司の激励
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如月さんは転校生。慣れない校舎での生活に、困り事も出てくる。
「あの……天瀬くん」
休み時間。隣の席の如月さんが小声で訊ねてくる。
「次の体育なのだけれど、女子はどこで着替えるのかしら」
普段通りの落ち着いた声音なのだが、軽く首を傾げる仕草が少し幼げで、意外な一面を見た気がした。
「体育館の更衣室だよ。行けばわかると思う。あ、体育館は南方向。渡り廊下に沿って行って」
「そう、ありがとう」
如月さんは軽く頭を下げる。長い黒髪が波打った。
それから髪を翻し、如月さんは教室を出ていく。
「……」
本来は新しくできた女の子の友達に教えてもらって一緒に行くような状況。
けれど、如月さんにはそれができる相手がいない。
難しい事かもしれないけれど、彼女がクラスの女の子と仲良くなれたら……。
一人でいい。
一人でいいから、どうか――。
そんな感情に浸っていると。
「なあ、天瀬」
前方から低い声。
顔を上げると、そこにいたのはがっちりした体型のスポーツマン――堂上隼司だった。
彼は僕の前の座席。僕にとってクラスの中で一番仲がいい男子で、よく昼飯を一緒に食べる。
「どうした、隼司?」
僕の言葉に頷いて、隼司は口を開く。
「お前、如月詠香を落とすなんて――一体どんな手段を使ったんだよ?」
彼のどっしりとした声音には、興味の色が混じっている。
「いや、落としてないから」
「落としてないのか?」
隼司は訝し気に目を細めながら訊き返してくる。
「ああ」
頷くだけに留めた僕に、隼司は不満げな顔を見せる。
「じゃあなんで、『私に……話しかけないで』が『ええ。おはよう、天瀬くん』になってるんだよ」
「それは、まあ……いろいろだ」
この話には僕と如月さんの秘密が関わってくる。明かすわけにはいかない。
「オレには言えないってか」
言葉と共に向けられた視線には、力が込められていた。
僕も決意を強く瞳に宿した。
「……まあいい。頑張れよ」
数瞬後。隼司の口から、そんな言葉が漏れた。
「頑張れ、か……」
意外だった。
「なんだ、やめとけとでも言われると思ってたか」
隼司の言葉に、僕は頷く。
彼女の事情を知らない人から見れば、如月詠香は問題児でしかない。
「触らぬ神に祟りなしってか」
隼司が嘲るように呟く。
「わかる奴なんて、どこにもいねーだろ。未来の事も、人の気持ちも。わかんねーのに忠告するのは出過ぎたマネってもんだ」
「隼司……」
「まあ、お前がそうすると決めたならオレは応援するから頑張れ」
隼司の激励を受けて、僕は内心じーんとしてくる。
そんな僕を置いて、隼司は体操服に着替え始めた。
時計を見ると、そこそこ時間が経っていた。
のんびりしていては体育の授業に遅れてしまう。
僕も急いで着替えを始めた。
「あの……天瀬くん」
休み時間。隣の席の如月さんが小声で訊ねてくる。
「次の体育なのだけれど、女子はどこで着替えるのかしら」
普段通りの落ち着いた声音なのだが、軽く首を傾げる仕草が少し幼げで、意外な一面を見た気がした。
「体育館の更衣室だよ。行けばわかると思う。あ、体育館は南方向。渡り廊下に沿って行って」
「そう、ありがとう」
如月さんは軽く頭を下げる。長い黒髪が波打った。
それから髪を翻し、如月さんは教室を出ていく。
「……」
本来は新しくできた女の子の友達に教えてもらって一緒に行くような状況。
けれど、如月さんにはそれができる相手がいない。
難しい事かもしれないけれど、彼女がクラスの女の子と仲良くなれたら……。
一人でいい。
一人でいいから、どうか――。
そんな感情に浸っていると。
「なあ、天瀬」
前方から低い声。
顔を上げると、そこにいたのはがっちりした体型のスポーツマン――堂上隼司だった。
彼は僕の前の座席。僕にとってクラスの中で一番仲がいい男子で、よく昼飯を一緒に食べる。
「どうした、隼司?」
僕の言葉に頷いて、隼司は口を開く。
「お前、如月詠香を落とすなんて――一体どんな手段を使ったんだよ?」
彼のどっしりとした声音には、興味の色が混じっている。
「いや、落としてないから」
「落としてないのか?」
隼司は訝し気に目を細めながら訊き返してくる。
「ああ」
頷くだけに留めた僕に、隼司は不満げな顔を見せる。
「じゃあなんで、『私に……話しかけないで』が『ええ。おはよう、天瀬くん』になってるんだよ」
「それは、まあ……いろいろだ」
この話には僕と如月さんの秘密が関わってくる。明かすわけにはいかない。
「オレには言えないってか」
言葉と共に向けられた視線には、力が込められていた。
僕も決意を強く瞳に宿した。
「……まあいい。頑張れよ」
数瞬後。隼司の口から、そんな言葉が漏れた。
「頑張れ、か……」
意外だった。
「なんだ、やめとけとでも言われると思ってたか」
隼司の言葉に、僕は頷く。
彼女の事情を知らない人から見れば、如月詠香は問題児でしかない。
「触らぬ神に祟りなしってか」
隼司が嘲るように呟く。
「わかる奴なんて、どこにもいねーだろ。未来の事も、人の気持ちも。わかんねーのに忠告するのは出過ぎたマネってもんだ」
「隼司……」
「まあ、お前がそうすると決めたならオレは応援するから頑張れ」
隼司の激励を受けて、僕は内心じーんとしてくる。
そんな僕を置いて、隼司は体操服に着替え始めた。
時計を見ると、そこそこ時間が経っていた。
のんびりしていては体育の授業に遅れてしまう。
僕も急いで着替えを始めた。
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