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第一章 転校生は異能少女
星川明希の詮索②
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下駄箱で靴を履き替えて昇降口を出る。
二学期に入ったばかりの空は、放課時刻を一時間以上過ぎてもなお明るさを保っていた。気温もまだ高い。
手で顔を仰いでいると、少し遅れて三年生の下駄箱から明希が姿を現す。
「あの子、綺麗な黒髪だったなあ」
明希が自分の前髪を指先で弄びながら呟いた。
夏の光を受けた明希の髪はいつも以上に茶色く透き通っている。
「アタシ茶っこいから染めなきゃかな? どう思う? お兄ちゃん」
「いや、そのままでいいと思うけど。明希の明るい感じに合ってると思うし」
何気なく言って、僕は歩き出す。
「そうかな? えへへー」
喜色の滲んだ声と共に、明希が僕の腕に飛びついてくる。
明希とは家の方向が同じ。一緒に帰るときはいつも明希の家まで送っていく。
「ね、長さは? どのくらいが好き? アタシ、どのくらいにしたらいいと思う」
テンションが上がった明希は、言葉が止まらない。
爛々と目を輝かせて、そんなことを訊いてくる。
「そんなの好きにすればいいだろ?」
好みを正直に口にするのは恥ずかしい。
適当にあしらおうとすると。
「むー……」
明希は口を尖らせ、抗議してくる。
「それじゃ意味無いの! いいから! ほら、教えて」
絡める腕に力を込め、小さいなりにめいいっぱい顔を寄せて問いただしてくる。あまりに引っ付いてくるので、さっさと答えて離れさせよう。暑さでおかしくなっちまいそうだ。
今の肩にかかるくらいで揃えられたボブカットはバッチリ似合っている。生まれつきの茶っこさと相まって、可愛らしい明るさを醸し出している。
伸ばしているのは見たこと無いからわからん。子どもの頃のこいつは確かショートだったけどそれよりは似合っている気がする。
「……今くらいがピッタリだよ。知らんけど」
明後日の方を向きながらも、本当のことを伝えた。
横目でちらと見ると、笑顔を浮かべていた。今度の答えにも満足してくれたようだ。
「ホントに?」
明希は嬉しそうに訊き返してくる。
「ほんとほんと。かわいいかわいい」
「えへへー」
明希はご満悦な様子なのだけど。
「髪形は? ポニー? ツイン?」
続けざまに訊いてこられると困ってしまう。
「どれでもいいよ。みんな違ってみんないい」
だから、今度は正直に答えずに、はぐらかした。
「あー! またテキトーに答える! なんでそうやって誤魔化すかな?」
「だってさ、ほら。お前とこういう話しするの……なんか恥ずかしいし」
こういうこと言うのさえ、恥ずかしい。腕を取られているから離れられないし。
「あ。お兄ちゃん、照れてるのかー。そっかそっかー」
にやけながら、明希はうんうんと頷いた。
この辺は年上っぽいからかい方。
「ば、照れてねーよ!」
強い口調で僕は否定する。
「アレだ、家族と恋バナとかしないだろ? それみたいなもんだ」
ぱっと思い浮かんだ言い訳。だが……。
「家族って……。お兄ちゃん、えへへ……」
自称妹の先輩は、変なところに反応して、夢想の世界へ旅立っていった。
なんか表情がデレっとしている。きっと、しばらく帰ってこない。
まったく……なんてマイペースなやつなんだ。
自称妹の先輩を持つといろいろ大変だ。
夢現な明希の安全を気遣いながら、彼女の家まで送り届けた。
二学期に入ったばかりの空は、放課時刻を一時間以上過ぎてもなお明るさを保っていた。気温もまだ高い。
手で顔を仰いでいると、少し遅れて三年生の下駄箱から明希が姿を現す。
「あの子、綺麗な黒髪だったなあ」
明希が自分の前髪を指先で弄びながら呟いた。
夏の光を受けた明希の髪はいつも以上に茶色く透き通っている。
「アタシ茶っこいから染めなきゃかな? どう思う? お兄ちゃん」
「いや、そのままでいいと思うけど。明希の明るい感じに合ってると思うし」
何気なく言って、僕は歩き出す。
「そうかな? えへへー」
喜色の滲んだ声と共に、明希が僕の腕に飛びついてくる。
明希とは家の方向が同じ。一緒に帰るときはいつも明希の家まで送っていく。
「ね、長さは? どのくらいが好き? アタシ、どのくらいにしたらいいと思う」
テンションが上がった明希は、言葉が止まらない。
爛々と目を輝かせて、そんなことを訊いてくる。
「そんなの好きにすればいいだろ?」
好みを正直に口にするのは恥ずかしい。
適当にあしらおうとすると。
「むー……」
明希は口を尖らせ、抗議してくる。
「それじゃ意味無いの! いいから! ほら、教えて」
絡める腕に力を込め、小さいなりにめいいっぱい顔を寄せて問いただしてくる。あまりに引っ付いてくるので、さっさと答えて離れさせよう。暑さでおかしくなっちまいそうだ。
今の肩にかかるくらいで揃えられたボブカットはバッチリ似合っている。生まれつきの茶っこさと相まって、可愛らしい明るさを醸し出している。
伸ばしているのは見たこと無いからわからん。子どもの頃のこいつは確かショートだったけどそれよりは似合っている気がする。
「……今くらいがピッタリだよ。知らんけど」
明後日の方を向きながらも、本当のことを伝えた。
横目でちらと見ると、笑顔を浮かべていた。今度の答えにも満足してくれたようだ。
「ホントに?」
明希は嬉しそうに訊き返してくる。
「ほんとほんと。かわいいかわいい」
「えへへー」
明希はご満悦な様子なのだけど。
「髪形は? ポニー? ツイン?」
続けざまに訊いてこられると困ってしまう。
「どれでもいいよ。みんな違ってみんないい」
だから、今度は正直に答えずに、はぐらかした。
「あー! またテキトーに答える! なんでそうやって誤魔化すかな?」
「だってさ、ほら。お前とこういう話しするの……なんか恥ずかしいし」
こういうこと言うのさえ、恥ずかしい。腕を取られているから離れられないし。
「あ。お兄ちゃん、照れてるのかー。そっかそっかー」
にやけながら、明希はうんうんと頷いた。
この辺は年上っぽいからかい方。
「ば、照れてねーよ!」
強い口調で僕は否定する。
「アレだ、家族と恋バナとかしないだろ? それみたいなもんだ」
ぱっと思い浮かんだ言い訳。だが……。
「家族って……。お兄ちゃん、えへへ……」
自称妹の先輩は、変なところに反応して、夢想の世界へ旅立っていった。
なんか表情がデレっとしている。きっと、しばらく帰ってこない。
まったく……なんてマイペースなやつなんだ。
自称妹の先輩を持つといろいろ大変だ。
夢現な明希の安全を気遣いながら、彼女の家まで送り届けた。
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