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諭吉を片手に

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 二人が出発した後、僕は唯一の所持品である学ランに着替え、諭吉を片手に外へ出た。
 雲一つない快晴。ティナの家の周りには、木造の民家が点在しているだけで何もない。
 どこに何があるかもわからないし、とりあえず門のところに行って門番に色々聞いてみよう。

 舗装されていない茶色い土の道をぼんやりと歩いていた時のことだ。誰かに肩をトントン、と叩かれ振り返る。

「お兄さん、見ない顔だねぇ」

 すらっとした短い茶髪の女性が僕に話しかけてきた。きりっとした目つきで、眉は細く整った、ボーイッシュな印象の女性だ。

「……昨日この町に来たばかりなので」

 愛想笑いを浮かべながら返事をすると、女性はにっと口の端をあげた。

「そうかいそうかい。それなら、あたしが町を案内してあげよう」
「僕にとってはありがたい話ですけど、いいんですか?」
「いーのいーの。どーせあたし、今日一日やることないから」
「では、お言葉に甘えて。よろしくお願いします」
「よし、任せろ!」
 そう言うと、女性は当然のように僕の手をとって歩き出した。

 ♢

「お兄さん、名前は?」
「マサトです」
「マサト君か。あたしはリコ。よろしく!」
「よろしくお願いします」

 リコさんは多分僕より年上。20代後半かな。
 身長は僕と同じくらい。
 スレンダーな身体に、肩を露出した濃い青色のタイトなドレスを纏っている。

「それで、マサト君はどこか行きたいところはあるかい?」
「とりあえず、服屋に行きたいですね。どうやらこの格好、目立つみたいで……。道行く人に見られてるし……」
「あー、珍しい格好だもんね。よし、あたしがマサト君に似合う服を見繕ってあげよう」

 そして、服屋に着いてからのこと。リコさんはダサいTシャツを進めてきた。どうやら独特のセンスの持主らしい。素敵なドレスを着ているというのに……。
 結局、自分で黒の戦闘服を選んだ。伸縮性が良く、デザインもかっこいい。
 加えて、パンツや靴下、シューズを買ってちょうど5,000円。この世界の物価はよくわからないが、リコさんが値切ってくれたおかげでかなり安く買えたと思う。

 それからリコさんに昼食を奢ってもらい、その後町を見て回っていた時、僕はある店に興味を引かれた。
 魔導書を扱う店だ。

「魔導書は、読むだけで魔法を取得したり、加護を得たりできる代物だ。ただし、魔導書は一度使うと消滅しちゃうんだ」

 リコさんが簡単な説明をしてくれた。

「リコさんは、何か魔法が使えるのですか?」

「あたしは魔法の適性が無くてね。残念ながら使えないんだよ」

 あはは、と笑って返すリコさん。適正が無いと使えないのか……。

「まあ、試しに使ってみたらどうだ?適性が無かった場合は、魔導書も消滅しないから返品できるし」

 それなら使ってみようかなと、魔導書を選ぶ。値段は安いものは500円程度だが、高いものは100万円を優に超える。
 どれにしようかな。

 初級火魔法・灯火
 初級水魔法・霧吹
 初級土魔法・砂利
 初級風魔法・微風そよかぜ

 うーん……。買える値段のものは、どれも弱そうだ……。
 魔導書が並ぶ棚の前で、渋い顔をしていた時。店主のお爺さんが声を掛けてきた。

「とっておきの魔導書があるんじゃが、試してみんか?」
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