上 下
39 / 39

最終話 前に進むために

しおりを挟む
「……来てくれて、ありがとう」

 月曜日の放課後。
 祐一は夜霧に呼び出され、屋上へと足を運んだ。
 そこで、待っていた女子生徒。
 お団子髪の夜霧と向かい合う。

 ――きりちゃんの話しをちゃんと聞いて、ちゃんと答えてあげて。

 彩香にはそう言われている。

 今日は雨は降っていないが、空は曇に覆われ、風も出ている。

「私……祐一くんに言わなきゃいけないことがあるんだ……」

 祐一は頷いて、言葉の続きを促す。

「それはきっと……言わない方が祐一くんにとってはいいことなのかもしれないけれど……私が、前に進むために……言わせてください……」
「わかった。俺もちゃんと聞く」
「……ありがとう。それじゃ……ちゃんと言う、ね……」

 そう言うと、夜霧は祐一のことをより真剣な目で見つめ、胸に手を当てて口を開いた。

「私、好きです! ……祐一くんのことが、好きなんです……! 私みたいな日陰者に親身になってくれて……優しくしてくれる祐一くんが、大好きなんですっ……! この気持ちは……兄妹だってわかった今でも、消えてくれないんです……!」

 意志の籠った瞳が、言葉よりもさらに強く気持ちを伝えてくる。 
 本当に好きになってくれたんだと祐一に実感させる。
 けど……。

「景村さん、ごめん……俺、景村さんとは付き合えない」
 祐一も本当の気持ちを口にする。
「兄妹だからとか、そういうこととは関係なく……俺には綾香がいるから。綾香のことがどうしようもなく好きだから――だから、景村さんとは付き合えない」

 それを聞いた夜霧の瞳に涙が浮かび上がった。
 けど、口の端を少しだけあげて……。

「……それじゃ、仕方ないね」

 微笑みを湛えて、そう言う。
 けれど、言葉と共に、夜霧の頬を涙が伝い落ちた。
 その表情のままで、夜霧は言葉を続けた。 

「……真剣に答えてくれて、ありがとう……しばらく引きずると思うけど、それは許して……」
「ああ」

 祐一が頷くと、夜霧は制服の袖で目元を拭った。
 それからもう一度、祐一の目を見つめなおして、言葉を発した。 

「……それと、ひとつお願いがあります」
「お願い?」
「私たち兄妹みんなで、パズルを作って欲しい……とびきり大きいサイズのパズルを」
「パズル?」
「はい……綾香ちゃんが提案してくれたんです。それを作り終わる頃には、きっと……私たち、本当の兄妹みたくなれるって……。私も……そんな気がするんです。だから……」
「ああ、わかった。一緒に作ろう」

 ――夜霧も俺と兄妹になろうとしてくれている。
 祐一も、その気持ちは同じだ。 
 いろいろあった二人だけれど、今は同じところを目指そうとしている。
 支えてくれる仲間もいる。
 だから、きっと上手くいくはず。
 いつの間にか雲間から差し込んだ太陽の光が、屋上で向かい合う二人を照らしていた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

さこゼロ
2020.11.08 さこゼロ

結局、小糸の言うとおり、バカな遠回りでしたね。
ですが…せっかくこう言うタイトルと言うか設定にしたのだから、そう言う展開をもっと全面に出して欲しかったなーとか思います(^^)

深山ナオ
2020.11.08 深山ナオ

最後まで目を通して頂き、ありがとうございました。
何度も感想を頂けて、大変励みになりました!

タイトルと内容のズレに関しては、心に引っかかりながら書いていたので、次回以降は気を付けたいと思います。

解除
さこゼロ
2020.10.24 さこゼロ

最新話、最後のシーン、祐一が祐一の頭を撫でてませんか?(^^)

深山ナオ
2020.10.24 深山ナオ

教えてくださり、ありがとうございます!
修正しました。

解除
さこゼロ
2020.05.04 さこゼロ
ネタバレ含む
解除

あなたにおすすめの小説

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

元婚約者様の勘違い

希猫 ゆうみ
恋愛
ある日突然、婚約者の伯爵令息アーノルドから「浮気者」と罵られた伯爵令嬢カイラ。 そのまま罵詈雑言を浴びせられ婚約破棄されてしまう。 しかしアーノルドは酷い勘違いをしているのだ。 アーノルドが見たというホッブス伯爵とキスしていたのは別人。 カイラの双子の妹で数年前親戚である伯爵家の養子となったハリエットだった。 「知らない方がいらっしゃるなんて驚きよ」 「そんな変な男は忘れましょう」 一件落着かに思えたが元婚約者アーノルドは更なる言掛りをつけてくる。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。