上 下
38 / 39

38 綾香のアドバイス

しおりを挟む
 祐一は綾香に連れ添ってもらいながら、家に帰宅した。今は風呂に入っている。長時間ずぶ濡れの状態でいたから、明日には風邪を引いているかもしれない。

 祐一が風呂に入ってから、綾香はスマホのチャットアプリを開いた。
 そこに表示されているメッセージ。

「私と祐一くん……兄妹なんだって……私、どうすればいい……?」

 夜霧との個人チャット。祐一が見つかったこと、そして祐一と付き合うようになったことを夜霧に伝えた後に、そのメッセージは送られてきた。
 彼女もまた、祐一と同じように困惑している。
 
「きりちゃんが悩んでるのは、未来のこと……これからの祐一との接し方について? それとも、祐一に対して今まで抱いていた恋心について?」
 
 夜霧に気持ちを明かされていた綾香は、夜霧の気持ちを想像すると、胸が苦しくなる。
 二人は兄妹。
 夜霧にとっては、叶わない恋だった。
 その残酷な真実と、夜霧はこれから向き合っていくのか、それとも逃げ出すのか。
 向き合っていくのだったら、自分の恋心とはどう決着をつけるのだろうか……。

「……今はまだ、はっきりとはわからないけれど……私は……祐一くんと、ちゃんとした兄妹になれたらいいと思う……」

 そのメッセージに綾香が目を通して、どう返そうか考えていると、もう一通メッセージが届いた。

「でも……これから祐一くんを兄として見れそうにない……かも。祐一くんは、初恋の人で……今もまだ、好きだから……このままだと、ずっと祐一くんは私の好きな人のまま……」

 ――ずっと好きな人のまま……。
 わたしがきりちゃんの立場でも、きっとそうなってしまう――
 ではどうすればいいのか、と綾香は考え……。

「きりちゃんも祐一に気持ちをちゃんと伝えてみるっていうのは?」
「え?」
「言わないままじゃ、ずっと辛いままかもしれない。でも言っちゃえば、きっとすっきりするし、自分の気持ちを切り替えられるんじゃないかな?」
「……切り替えるために、振られてこいってこと?」
「うん。それも辛い思いをすると思うけど……わたしはそうしたほうがいいと思う」
「でも……告白しないで、自分の気持ちを風化させていく人もたくさんいる」

 性格的には、きっと夜霧もそういう人だ。
 けど、これからも祐一と接していくのなら――そういう人にはならない方が、絶対いい。

「きっとそういう人たちの中には、大きい傷が残っていて……そこから一生目を逸らしていかなければならないんだよ。けど、気持ちを伝えたら、そういう傷との向き合い方はきっと全然違うと思うんだ」
「でも……これから兄妹としてやっていこうっていうのに、告白なんかしたら……」

 確かに、ただ告白しただけだと、別の気まずさがうまれるかもしれない。
 だったら……。

「じゃあ、こういうのはどうかな?」

 綾香はある提案をした――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

元婚約者様の勘違い

希猫 ゆうみ
恋愛
ある日突然、婚約者の伯爵令息アーノルドから「浮気者」と罵られた伯爵令嬢カイラ。 そのまま罵詈雑言を浴びせられ婚約破棄されてしまう。 しかしアーノルドは酷い勘違いをしているのだ。 アーノルドが見たというホッブス伯爵とキスしていたのは別人。 カイラの双子の妹で数年前親戚である伯爵家の養子となったハリエットだった。 「知らない方がいらっしゃるなんて驚きよ」 「そんな変な男は忘れましょう」 一件落着かに思えたが元婚約者アーノルドは更なる言掛りをつけてくる。

処理中です...