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20 お披露目

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 放課後。
 祐一と綾香は夜霧と一緒に景村家へと歩みを進めていた――女子二人は一度着替えてから美容院へ行くようだ。

 家の中に入ると、玄関先に二人分の子供靴があった。月夜と雅人はすでに帰宅しているらしい。

「おっじゃましまーす!!」
「お邪魔しまーす」

 綾香が元気良く言うのに続いて、祐一も普通に挨拶をして靴を脱ぐ。

 夜霧がリビングのドアを開けると勉強をしている小学生二人の姿が見えた。

「二人とも、こんにちはー!」
「よっ」

 綾香が大げさに手を振り、祐一も軽く手を上げる。

「こ、こんにちは……」

 月夜ちゃんが不慣れな感じで挨拶を返すと、雅人もぎこちない会釈を返した。

「……お姉ちゃん、これから美容院に行ってくるから」

 夜霧がそう言うと、二人が頷いた。

「えっと……祐一くん、二人のこと見ててもらえますか……?」

 夜霧が長い前髪の隙間から祐一を見上げる。
 
「ああ、わかった。任せろ」

 祐一は力強く頷いてみせる。

「よろしくお願いします」
夜霧が祐一に丁寧に頭を下げる。
「……それじゃあ、着替えてきますので……」

 夜霧は綾香を連れだって二階の自室へと上がっていった。
 
 リビングに残った祐一は、テーブルで宿題を広げている小学生たちの元へと近寄る。
 月夜は漢字のプリントに向かっている。スラスラと解いているようだ。
 雅人も算数のプリントをそつなくこなしている。

「……俺も課題やるか」

 祐一は雅人の隣のイスに腰かけ、鞄からプリントを取り出した。



     ♢



 ――窓から見える景色がオレンジ色に染まってきた頃。
 玄関が開く音が聞こえた。

「たっだいまー!」
「ただいま……」

 元気な綾香の声と、控えめな夜霧の声。二人が帰ってきた。

 間もなく、リビングのドアが開く。
 ――綾香の後ろに。柔らかい雰囲気のお姉さんが立っていた。

 長いまつ毛に縁取られた大きな瞳と少し幼い顔立ち。
 水色のリボンで結ばれた長いお下げ髪を肩から垂らし、淡い水色のカーディガンにクリーム色のロングスカートを纏った柔らかい雰囲気。
 その姿に魅せられて、言葉を失ったのは祐一だけではない。
 三人の驚き様に、綾香と夜霧もキョトンとしてしまった――。

 見覚えのある不思議な気持ちにさせられる目と視線が合い、祐一はその女性が夜霧だとようやく気付いた。

「……景村、さ――」

 祐一がそう口にしかけた瞬間。

「――わあ、ねえねえ! かっわいい~! すっごく似合ってる!!」

 月夜が勢いよく立ち上がり、夜霧の元に駆け寄っていく。

「そ、そう……?」

 照れた夜霧がお下げ髪を指でくるくる巻きながら訊き返す。

「うん! すっごくいい!! ねえ、二人もそう思うでしょ!?」

 ハイテンションのまま、祐一と雅人に向かって声を掛ける。

「え、ああ、そうだな。似合ってる」

 そう祐一が答えるのと同時に、

「え、うん、そうだね。似合ってると思う」

 と、雅人も答える。
 それを訊いて月夜がにんまりと満足そうな笑みを浮かべた。
 それから夜霧の手を取り、「へ~」「ほえ~」と、しばしの間、夜霧を観察し続けた。
 綾香はその光景をにっこりと眺めていた。



     ♢


 
「失礼、とり乱しました……」

 数分後、月夜がそう言って座っていた席へと戻った。
 もう夕方なので、お暇しようかと机の上に出していた勉強道具を祐一が片付けていたところ、話の流れで少しお茶をしていくことになった。

 祐一たちがテーブルの上を片付け、布巾で拭き終えた頃、綾香と夜霧が飲み物と菓子を運んできた。
 オレンジジュースが注がれたグラスをそれぞれの前に置き、クッキーの乗った皿を中央に置いた。

 いただきますを言って、各々クッキーに手を伸ばす。

「……二人とも宿題終わった?」

 夜霧が弟妹に訊ねると、二人がこくりと頷く。

「そう……お疲れ様」

 言ってほんわかと微笑む夜霧。それにつられて、二人も嬉し気な表情になった。

 ――おお。これは髪を切った甲斐があったかな?
 今までと違って表情が良く見えるから、安心感が伝わってくる。
 景村さんってこんな表情するんだな――

「おいしいね~」

 そう言葉を発したのは月夜だ――雅人の方に視線を向けている。

「う、うん」

 言葉は少ないけれど、雅人はしっかりと頷き返した。
 みんな打ち解けようとしてる――祐一は安堵しながらグラスに手を伸ばした。
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