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10 屋上にて②

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「亮介。悪いんだけど、俺、追試あって、昼飯一緒に食えねーから」

 火曜日四限終了後。勇気が僕に一言声をかけて、教室から出ていった。昨日の英単語テストの追試か……仕方ないな。昼食はひとりで食べよう。
 購買でツナパンとコーンパン、緑茶を買って屋上へ。
 高く澄んだ青空の下。レジャーシートを広げている最中の小柄な女子生徒。薄っすら茶色がかったくせっ毛――まひるさんだ。
 近寄ってくる僕に気が付き、シートを広げ終えたまひるさんが振り向いた。眠気に耐えるようにして少しだけ開かれた目と視線が重なる。

「りょーすけ、はろー」

 ゆったりとした平淡な声で、挨拶された。

「えっと、はろー。まひるさん、ひとりなの? 熊谷さんは?」
「メグは追試だよー」

 そう答えて、まひるさんは僕に背中を向けた。それから靴を脱ぎ――さらに靴下を脱ぎ始めた。紺色のソックスが降ろされ、白く美しい脹脛ふくらはぎが露わになっていく。片足立ちになって靴下を外す瞬間、ちいさな足の裏が見えた。なんとなくいけないものを見ているように感じて、慌てて視線ををそらす。そう言えば、転校初日の昼休みに屋上で会ったときも靴下脱いでたっけ。
 靴下を脱ぎ終えると、まひるさんはシートに上がった。それから膝立ちになって、枕をセッティングした。

「りょーすけ、おひる、ここで食べるのー?」

 膝立ちのまま振り返るまひるさんに首肯してみせる。

「それなら、良かったらシート、使ってねー。それじゃあ、わたしは寝るから。おやすみ……」
「ありがとう。そして、おやすみ」

 仰向けになって眠りにつくまひるさん。僕は彼女の睡眠を妨げないよう、隅の方に座った。
 まひるさんと二人きり……。
 あまり意識しないように、無心でパンの袋を開けて食べる。
 …………。
 味わうことなく、あっという間に食べ終わってしまったな……。 
 緑茶を飲みながら、まひるさんの方をちらっと見る。
 子どものように無垢な寝顔。きめ細かくすべすべの肌。ほんのり赤く色づく頬。
 柔らかそう……。
 ちょっとだけ。
 人差し指をそっと近づけて、まひるさんの頬をつついてみる。
 ぷにぷに。
 おお……。もちもちほっぺ。
 ……と、いかんいかん。ほっぺをつつきたい欲望に意識を支配されてしまった。
 我に返って、人差し指をまひるさんの頬から離そうとした、その瞬間。
 
「はむっ……」

 !!!!!
 
 まひるさんが寝返りをうち、僕の指をまひるさんが咥えていた。
 生暖かい口腔こうこう。ぬめっとした舌が僕の指先に触れる。 

「ちゅっ、ちゅぱっ……」

 唇で咥え込み、おしゃぶりみたいに吸いついてくるまひるさん。
 なんだ、これ……。可愛いすぎだろ! 
 まるで母親にでもなったかのような感情が、胸の内から湧き上がってくる。

「ああ、知らなかったよ。男でも母親になれるんだね……」

「……なに言ってるの? っていうか、なにやってるの?」

 突然横から発せられた第三者の冷たい声に、背筋が凍りつく。恐る恐る声がした方へと首を回すと、そこには熊谷さんが真顔で立っていた。

「ち、違うんだ……ほんの出来心だったんだっ!」

 必死に弁解して、なんとか熊谷さんの誤解を解いたのだった。
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