男子高校生たちの

ハリネズミ

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それからも俺はコンビニを訪れる成願寺になにかにつけて声をけるようになった。
失恋した傷ついた心につけこむような大人の卑怯なやり方だった。
純粋なキミに汚い俺。
それでも俺はキミの事が好きだから、キミの優しさにつけこむしかないんだ。


そしてあの日、コンビニでバイト中に大学の友人の桂山かつらやまに突然後ろから抱き着かれた。

突然の事に驚いて振りほどく事もせずそのまま話す。
「――一ノ瀬、俺お前の事好きなんだ」
「ごめん。俺…他に好きな子がいる。正直その子の事で頭がいっぱいで、他の事考える余裕ないんだ」
「―――そっか…」
たったそれだけのやり取りだった。
自分の事を好きだと言ってくれる友人に対してもう少し何かなかったのか、と思う。
でも、何をどう取り繕って言ったところで結果は同じならこれでいいのかもしれない。
俺が好きなのは成願寺だけなのだから。

ドスンという鈍い音がして、音がした方を振り向くと成願寺が走り去る後ろ姿が見えた。

―――え。泣いて……?

俺はもう何も考えられなかった。
恋の駆け引きがどうとか、大人の余裕だとか。
そんな事よりも泣いているキミをひとりぼっちにはさせたくなかった。
必死に追いかけておいかけて、あの土手にたどり着いた。

「圭くんっ!」
「…っ」
俺が呼びかけると再び逃げようとするキミ。
俺は堪らず捕まえて、もう逃がすもんかと抱きしめた。

「――んで逃げるの」
「………」
キミは何も言わずただ首を左右に振るだけだった。

あの日のキミは友人を想って泣いていた。
今日のキミは何を想って泣いているの?
もし、もしも俺の事なら……泣く必要なんてこれっぽっちもないのに。

キミが泣く理由が自分で分からないなら俺がその答えをあげるよ。

「ねぇ、なんで泣いてるの?」
「…から…ない。分からない……。一ノ瀬さんは…なんで追いかけてきてくれたの?なんで…抱きしめて…くれるの?」

「あの日、俺は恋を捨てたはずだった。だけど…捨てる事なんてできなかったんだ。キミが…圭くんの事が……好きだから…」

やっと口にできたキミへの想い。
俺の声は少し震えていたかもしれない。

「え?」
「ごめんね…。言うつもりはなかった。だけど、キミに誤解されたままにはしておきたくなかったし、キミが涙する理由も知りたかった…」

ごめんね。綺麗な部分しかキミに見せてあげる事はできないよ。
キミに嫌われたくないから。

「――あの人…は?」
遠慮がちにさっきの事を訊いてくるキミが愛しい。
早く、早くキミの気持ちを聞かせて?

「―――俺の事好きだって告白された。でも、断ったよ。俺には好きな子がいるからって。圭くん、好きだよ。付き合えとか俺の事好きになれとか言うつもりはないけど、キミが一人で泣いているのは辛いんだ。だから、こうやって抱きしめて慰める事を許してくれないかな?」

嘘と本音が混ざり合う。
キミが一人で泣いているのは想像しただけでも辛い。
本当はキミに好きだと言いたかった。
本当はキミと付き合いたかった。
本当はキミを俺の物にしてしまいたいたかった。

キミが好き、キミしかいらない。

そんな気持ちが少しでもキミに伝わるように抱きしめる腕に力を込めた。

「―――好き…」
そっと呟かれるキミの『好き』

その続きを早く聞かせて?キミの好きは誰の物…?

おずおずと背中に回されるキミの腕。
あぁ…!

「一ノ瀬さん、好きです。俺と付き合って下さい」

その瞬間、キラキラと水面が輝きだして、キミが輝きだして。
俺たちは見つめ合い、そして笑った。


やっとキミを手に入れた。




-終-
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