男子高校生たちの

ハリネズミ

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近所をあてもなく歩き、辺りが薄暗くなり始めた。
「帰らないとな」
気持ちは浮上しないが、いつまでもこのままほっつき歩いているわけにもいかない。
俺が帰らないと渚も家に帰る事ができない。

なんとか気持ちを切り替えて、家の近所まで行くと血相を変えた学が家に走って行くのが見えた。

「おい!」
学の腕を掴む。

「兄ちゃん!えぐえぐ……」
俺の顔を見た途端滝のような涙を流す学。渚の姿が見えない。
「どうした?渚は?」
「ぼくっ…ぼく…なぎさちゃ…えぐえぐ」
泣くばかりで要領を得ない。

「落ち着け、ゆっくりでいいからちゃんと話せ」
胸騒ぎが止まらない。

「兄ちゃんがでていって、なかなかかえらないから、なぎさちゃんとさがしにいったんだ…ひっく」
「それで、渚は?」
「ぼく、ぼくがおとなにぶつかって…なぎさちゃんがつかまって…ぼくににげろって…」
「――それはどこだ」
相手は十歳の子どもだというのに気遣ってなんかやれなかった。
俺の怒気をはらんだ声に学は大声で泣きだす。

「学っどこに渚がいるか言えっお前ちっちゃくても男だろ!?俺は好きなヤツを守りたいんだ!頼むから教えてくれ…っ俺に渚を守らせてくれよっ」

俺の懇願する声にびくっと肩を揺らしたが指を指して郵便局の近く、と大きな瞳に涙を溜めて言った。
俺は学を家に押し込み。絶対に家から出るなと約束させた。
こんな事してる場合じゃない。一分一秒でも早く渚の元に行かなくては。

渚が泣いているかもしれない。
何かされているかもしれない。
怒りと焦燥がないまぜになる。
息をする事も忘れ渚の元に走る。

「渚っ!」
渚が酔っぱらった大人に抱きしめられキスを迫られているのが見えた。
俺は堪らず酔っ払いを殴りつけた。
「いい大人が子どもに盛ってんじゃねーよ!」
もっとずたぼろにしてやりたかったが、今は渚を安全な場所に連れて行く方が先決だ。
渚の手を取り走り出す。
大分走ってとりあえずの安全を確保し、ほっと息を吐く。

「渚……」
渚を見ると頬が赤く腫れていて口の端からは血が少し滲んでいた。
もっと殴ってやればよかった…!
怒りが再び頭を支配しそうになる。
が、悲しそうに揺れる渚の瞳を見て、赤く腫れた頬にそっと触れた。

「痛かったよな…ごめん……」
「哲が悪いわけじゃない。俺が…悪い」
「渚は悪くないだろう?俺がもっと我慢してれば…」

渚は目を伏せてぽつぽつとしゃべり始めた。

「違うんだ。最近、哲が…甘いだろう?キスしたり、抱きしめたり…。それでクリスマスには…多分そういう……。クリスマスが近づくにつれて哲とそういう事するの、段々実感が湧いてきて…。俺だって哲とそういう事するの…嬉しい、けど、恥ずかしくて…怖くなって…。だから、学君にかこつけて逃げてたって言うか…」

「――そうか。まず、学を守ってくれてありがとう。そして、俺は渚が好きだ。だからどうしてもキスの先もしたいとは思ってしまう。だけど、渚の気持ちを置いてきぼりにする気はないよ。だからさ、怖がらないで。これからずっと一緒にいてくれるんだろう?いつか、渚の気持ちの準備ができたら、そしたらでいいからさ」
「―――うん…ごめんね哲。大好きだよ…」

俺は渚を安心させるように
「知ってる」と囁き、ニッといつもの余裕のある笑みを浮かべた。

ここで恰好つけなきゃ男じゃないよな。

俺たちは笑いあって、見つめ合って、抱きしめ合って、そしてキスをした。

流石に辺りが真っ暗になって、名残惜しかったが急いで家に帰った。
学は俺のベッドで布団にくるまって泣き疲れて寝ていた。
眉はへにょりと下がり頬には涙の跡がある。
広い家に一人で怖かったのだろう。
濡らしたタオルで顔を拭き、そっと頭を撫でる。
撫でられて学はへにゃっと笑った。
一体どんな夢を見ているのか…。
小さい子に怖い思いを沢山させてしまった。
願わくば楽しい夢をみていますように…。

そんな願いを込めて学の頬にキスを贈る。
反対側には渚が。



俺たちはまだ子どもで、これからもいっぱいけんかもするかもしれない。
だけど、俺には渚しかないし、渚しか欲しくないんだ。

だから、何があっても一緒にいよう?
何があっても最後には俺の隣りで笑って?

二人でゆっくり進んでいこう。二人だけの道。


渚、愛してる。




-終-
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