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俺のかわいい幼馴染さま

幼馴染さま 番外編2 それは道端に咲く名も知らぬ花のように(1)

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山田 凛やまだ りんです。よろしくお願いします」

そうぶっきらぼうに挨拶したのは、先日数日で辞めていったアシスタントの代わりに来た青年だ。

山田 凛と名乗る青年の容姿はとりたてて美人だとか可愛いとかいうものではなく平凡で、ガリガリのひょろっとした感じのΩ青年だった。笑顔であったなら少しは違ったかもしれないが、どちらかといえば不機嫌といった感じでともすれば怒っているようにも見えた。
道隆は気づかれないように小さく溜め息を吐いた。

「俺は三条 道隆さんじょう みちたか。チーフしてる。凛には俺のアシスタントしてもらうから、よろしうたのむ」

道隆の方もにこりともせず事務的に挨拶を返すだけだった。


桜花おうかの従兄弟、三条 道隆は広告代理店に勤めていた。
道隆ほどの上位のαにしては低い地位であるが、チーフとしてバリバリ働いていた。
本当はそれ以上の出世も望めたが、当の道隆がそれを拒んだのだ。現場で働く事が好きだったからだ。
なんなら下っ端でも良かったが、道隆が上位のαという事もあり会社がそれを認めなかったのだ。
だからチーフという今の立場は両者の妥協の末の結果なのだ。

道隆は決して冷たい人間ではないし、二次性での差別もしない。だから凛がΩだからといって下に見るつもりもない。さっきの溜め息も凛がΩだからではなかった。
道隆は自分につくアシスタントに対して必要以上に期待していない。正確には期待しないようになった。
なぜなら道隆についたアシスタントはすぐに辞めていくからだ。
長くて一ヶ月、短くて三日。原因は分からない。あまりに続くものだから自分に原因があるのかと悩んだ事もあったが、どうもそうではないようだった。
道隆は丁寧に仕事を教えていたし、高圧的な態度もとっていない。よりよい関係づくりの為、プライベートで食事に誘ったりしてなんとか打ち解けようとした事もあった。
アシスタントといえばいわば仕事上のパートナーだ。道隆にとって人生を共にする『番』とはまた違う意味で大切にしたいと思っていた。だからできうる限りの事はやった。が、その全ては空振りに終わっていた。
いくら丁寧に教えても仕事は全く覚えないし、すぐに辞めていく。そんな事が続くといくら道隆でも段々期待する事自体間違っているのではないか? と、思うようになっていた。
だから凛に対して必要以上に興味もないし、今度はいつまでもつのか……と消極的な目で見る事しかできなかった。それ故の溜め息であった。

無駄に終わると分かっていても道隆は手抜きをする事なく丁寧に仕事を教えた。自分の損得勘定で手を抜いたりはしない。やる事はやる。それが相手に対する最低限の礼儀であり、社会人として当たり前の事である。そう考える人間だった。

だが、今回はいつもとは違っていた。凛の態度が違うのだ。道隆の説明を終始真面目に聞いており、ひとつも聞き逃さないようにとメモまで取っていた。
今まで道隆のアシスタントについた人間はΩばかりではない。βやαもいたが、こんな事は初めてだった。
凛の様子に「おや?」と、道隆の胸に予感めいたモノが生まれた。

その後、相変わらずの無表情ではあったが凛の態度はいつだって真摯だ。
笑顔こそ見せないが仕事が好きだという事が嫌というほど伝わって来た。どんなに小さな仕事も嫌な顔ひとつ見せず丁寧に行っている。
そうして一週間が過ぎる頃、道隆はある事に気が付いた。
仕事が上手くいくと凛の口角が少しだけ上がるのだ。他の人間が見てもきっと無表情のままに見えるだろう。道隆でなければ気づかないような小さな変化だ。
その変化を初めて見つけた時、道隆はびっくりし過ぎて手に持っていた書類を落としてしまった。
慌てて拾い集め、はっとして凛の方を見るといつもの無表情に戻っていてとても残念に思った。
道隆は、『もっと笑えばいいのに』と仕事には関係ない事を思っている自分に驚いた。
パートナーといい関係を築きたい想いは今でもあるが、番のように甘い関係を望んでいるわけではないのだ。それなのにもっと自分に笑顔を見せて欲しいと考えてしまう自分はどこかおかしいのではないか、と思った。
だけどすぐに、仕事上の繋がりであってもいい関係を築くのに笑顔はあるに越した事はないと思い直した。だから凛に笑って欲しいと思う事はなにも間違ってはいないのだ、と。

やがて、道隆の最初の予感めいたモノは『今度のアシスタントはいつもとは違う』と確信に変わっていった。


プライベートでは長年好きだった桜花をあと一歩というところで横から奪われたばかりだった。
せめて仕事では信頼のおけるパートナーが欲しかった。
今までの事から難しいと思えたが、凛であればもしかしたら……と思い始めていた。



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