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久しぶりに見る会社は外から見る限り、なにも変わったようには見えなかった。俺ひとりがいなくなったからといって、やはり会社がどうにかなってしまうなんてことはないようだ。当たり前だが俺も大勢いるうちのひとりにすぎないということだ。なんともなくてよかったと思うのに内心少しだけ複雑だった。
自分の間違いを改めて見せつけられている気がしたからだ。
「こういうところがダメなんだよな……」
俺なんて、と変に過小評価する必要もないが、過ぎた評価もまた必要ではない。
気を取り直して受付へと向かう。
俺は受付に上司だった三戸口さんを呼んでもらうように頼んだ。一応前もって三戸口さんにはメールを送りアポは取っているが、忙しそうなら後日出直すことも伝えた。
数分の後、三戸口さんは小走りにやって来た。
「園田くんっ!」
「三戸口さん、その節は大変ご迷惑をおかけした上にメールだけで済ませてしまって本当に申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる俺の両肩を三戸口さんはパンパンと力強く叩き、
「いいんだよ、いいんだよ。それより大丈夫かい? 顔色はよさそうだけど……また体調崩してるなんてことはないかい? おっと立ちっぱなしでは疲れてしまうね。こっちで話そうか」
と、にこにこ顔で俺を応接室へと連れて行った。
*****
「私はね園田くんには大変申し訳ないことをしたと思っているんだよ」
「――え?」
三戸口さんの口から出た予想しなかった言葉に驚く。
「私はきみが入社した当時から見てきたから分かるんだ。きみは頑張り屋さんだけど不器用で誰かを頼るということができない子だった。知っていたのにきみの頑張りに甘えてしまったんだ。その結果きみは体調を崩して会社を辞める羽目になってしまった……」
「それは違いますっ。俺が勝手に無理して……俺のはただの傲慢なヤツで、頑張り屋さんだなんて言ってもらえる資格なんてありません……っ」
慌てる俺を三戸口さんは目を細めて見ていた。
「それでも、だ。私はきみの上司で、きみにできないことは私がすべきことだったんだよ。きみが入院して私はきみに連絡することを誰にもさせなかった。お見舞いに行くのも同じ理由で遠慮させてもらったんだよ。それはきみに仕事のことを考えずゆっくり治療に専念して欲しかったからなんだが――それも間違えてしまったのかな。きみをひどく傷つけてしまったようだね……」
申し訳なさそうに話す三戸口さんの言葉を否定することも肯定することもできなかった。
俺が一番傷つき引っかかっていたことが実は俺の為を想ってのことだったなんて――。
なにも言えず俯く俺に三戸口さんは、
「もう新しい仕事は決まっているのかい?」
「――いいえ」
「そうか。もしも、またここで働きたいと思ってくれるなら私を頼って欲しい。うちで働くのはもう嫌だということなら他所を紹介もできるから、きみの気持ちが落ち着いたら一度連絡をくれないか?」
俺は「分かりました」と伝え、名残惜しそうにする三戸口さんに改めてお詫びとお礼を言って別れた。
三戸口さんは部下のことをしっかり見てくれる人だった。俺が入社してすぐの頃右も左も分からなくて困っていた時、助けてくれたのも三戸口さんだった。
そんなことも忘れて俺は本当にバカだった――。
三戸口さんが行った先に、もう一度深くふかく頭を下げた。
自分の間違いを改めて見せつけられている気がしたからだ。
「こういうところがダメなんだよな……」
俺なんて、と変に過小評価する必要もないが、過ぎた評価もまた必要ではない。
気を取り直して受付へと向かう。
俺は受付に上司だった三戸口さんを呼んでもらうように頼んだ。一応前もって三戸口さんにはメールを送りアポは取っているが、忙しそうなら後日出直すことも伝えた。
数分の後、三戸口さんは小走りにやって来た。
「園田くんっ!」
「三戸口さん、その節は大変ご迷惑をおかけした上にメールだけで済ませてしまって本当に申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる俺の両肩を三戸口さんはパンパンと力強く叩き、
「いいんだよ、いいんだよ。それより大丈夫かい? 顔色はよさそうだけど……また体調崩してるなんてことはないかい? おっと立ちっぱなしでは疲れてしまうね。こっちで話そうか」
と、にこにこ顔で俺を応接室へと連れて行った。
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「私はね園田くんには大変申し訳ないことをしたと思っているんだよ」
「――え?」
三戸口さんの口から出た予想しなかった言葉に驚く。
「私はきみが入社した当時から見てきたから分かるんだ。きみは頑張り屋さんだけど不器用で誰かを頼るということができない子だった。知っていたのにきみの頑張りに甘えてしまったんだ。その結果きみは体調を崩して会社を辞める羽目になってしまった……」
「それは違いますっ。俺が勝手に無理して……俺のはただの傲慢なヤツで、頑張り屋さんだなんて言ってもらえる資格なんてありません……っ」
慌てる俺を三戸口さんは目を細めて見ていた。
「それでも、だ。私はきみの上司で、きみにできないことは私がすべきことだったんだよ。きみが入院して私はきみに連絡することを誰にもさせなかった。お見舞いに行くのも同じ理由で遠慮させてもらったんだよ。それはきみに仕事のことを考えずゆっくり治療に専念して欲しかったからなんだが――それも間違えてしまったのかな。きみをひどく傷つけてしまったようだね……」
申し訳なさそうに話す三戸口さんの言葉を否定することも肯定することもできなかった。
俺が一番傷つき引っかかっていたことが実は俺の為を想ってのことだったなんて――。
なにも言えず俯く俺に三戸口さんは、
「もう新しい仕事は決まっているのかい?」
「――いいえ」
「そうか。もしも、またここで働きたいと思ってくれるなら私を頼って欲しい。うちで働くのはもう嫌だということなら他所を紹介もできるから、きみの気持ちが落ち着いたら一度連絡をくれないか?」
俺は「分かりました」と伝え、名残惜しそうにする三戸口さんに改めてお詫びとお礼を言って別れた。
三戸口さんは部下のことをしっかり見てくれる人だった。俺が入社してすぐの頃右も左も分からなくて困っていた時、助けてくれたのも三戸口さんだった。
そんなことも忘れて俺は本当にバカだった――。
三戸口さんが行った先に、もう一度深くふかく頭を下げた。
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