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10話side勇人
しおりを挟むハッ!
俺はベッドから飛び跳ねるように起き上がる。凄く悪い夢を見た気がする。寝ている間に全身から出た汗によって寝巻きが濡れている。冷房で冷やされた汗は、体温を容赦なく奪っていき風邪をひきそうなくらい寒い。
「シャワーでも浴びるか」
まだ身体が重いが、何とか自分の足で歩けるくらいには回復しているみたいだ。汗で濡れた服を脱ぎ捨て洗濯機に放り込む。
熱いシャワーを頭から被ると、身体中に血液が巡り、ぼーっとしていた意識が一気に覚醒する。理由は不明だが俺の体の一部分がやけに元気だ…その一部分がナニがとは明言を控えるが。
汗でベタつく髪や肌を洗い、頭から豪快に熱いシャワーをかける。
「〇〇×××△△!」
何かドアの外から声が聞こえるが、シャンプーを流している最中で内容がさっぱりわからない。
「はいはいなんだ?」
俺が適当に返事をすると急に浴室の扉が開く。そして雷鳴の様な悲鳴が浴室中に響き渡った。
「ききゃああああああっ!!なんてもん見せんのよ!」
ドゴッッッ!!!
あっ…ずじょうにお星さまが見える。これが死兆星か…。
しずかの拳骨を受けた俺は後ろに倒れ込み、そのまま湯船にダイブした。
ぶくぶくぶく
「ちょ!ちょっと!なに沈んでんのよ!もー!重いー!誰か助けてー!」
次に俺が目を覚ましたのは1階のソファの上だった。さすがに2階まで俺を担いで上がるのは無理だったらしい。一応パンツとTシャツを着せてくれたのには感謝だ。真っ裸で寝ている姿を母さんに見られたら、死ぬまでネタにされそうだからな。
俺はすぐ横のテーブル上のメモ書きに気がつく。
『今日はしっかり休んで、明日必ず学校に来るように!来なかったら放課後かくごしなさい!』
明日登校できなかった場合、心配して様子を見にきてくれるようだ。何故かは分からないが全力で体調を戻して、明日は絶対登校したほうが良い気がする。というわけで早速自室に戻って二度寝するか。
「…と…と!…ゆうと!いつまで寝てんの!」
「うるさいなぁ。もうちょっと寝かせてくれよ…痛たい痛い痛い!なにすんだよ母さん!」
俺の耳が千切れんばかりに引っ張られ、その痛みによって強制的にベッドから引き離される。怪我人をなんて扱いしやがんだ。
「そんだけ元気があるんなら大丈夫そうね。そういや可愛い彼女の看病はどうだった?どこまで進んだんだい?」
子供に向かってなんちゅう話をしてんだ。俺は呆れ顔で我が母に冷ややかに視線を送る。
「彼女?そんなんじゃねーよ」
「えー!つまんなーい!つまんないつまんないつまんなーい!」
こどもかよ!俺は心の中でツッコミを入れる。するとさっきまでニヤついていた母の表情が消え、悲しみと怒りが混じったような真剣な眼差しを俺に向ける。そして静に俺に語りかける。
「ま、冗談は置いといて。あんた随分無茶したみたいね。あんたのした事は勇気ある行動だし、それで救われた人がいるのも事実だ。でもね!下手すりゃあんたも含めて皆んなが危険に晒された可能性がある!下手すりゃ死人も出たはずだ!あんたがまずやることは大人に助けを求めることだ!わかったね!」
「うん。わかったよ。ありがと」
「返事は『はい』!」
「はい!!!!!」
「よろしい!さあ!晩御飯だよ!」
「ふーっ。食った食った」
俺は満腹で膨らんだ腹を撫でながらベッドに仰向けになる。そして今回起こった事件に関して思いを巡らす。今回の一件ではっきりしたことがある。俺には力が無い。今回誰も犠牲にならなかったのはたまたま、運が良かっただけだ。
確かに母さんが言った様、自分で解決できない時は大人に頼ればいい。だが今すぐに助けが必要な人間が目の前にいた際、俺自身に人を助けられるだけの力が必要だ。
栞の死を回避するには俺自身の『レベルアップ』がいる
のだが…だめだ。血糖値が急激に上昇してきたのと、疲労で頭がぼーっとする…
脳が分厚い膜で覆われたように外部からの情報もぼんやりとしか入ってこなく、考えもまとまらない。おまけに視界もだんだんぼやけてきた…
とりあえず今すべきことは、寝てH Pの回復だな。
ピピピピピピ!
なんの面白みもないよくある電子音が部屋に響く。ゆっくりと立ち上がり、思いっきり背伸びをする。床に座って入念にストレッチをしながら、身体の動きに異常がないか一箇所ずつ丁寧に確かめていく。最後に大きく深呼吸。
「よし!問題なし!」
流石成長期!回復速度が違うな。階段を一歩一歩確かめるように慎重に降り、脱衣所で洗顔を済ましパジャマを脱ぐと身体のあちこちに痣や擦り傷があることに気づく。まぁ無傷ってわけにはいかんよなぁ。
「痛ッ!」
こめかみについた傷に触れると鋭い痛みが走る。これ跡に残ったりしないよな?まるで稲妻のような形の傷、俺が厨二病患者なら歓喜するとこだが俺の中身はいい歳の大人だ、ちょっとご遠慮願いたい。
「お!おはよ!気分はどうだい?」
「痛ったー!なにすんだよ!」
俺の背中に平手をかました母は冗談の様に軽い口調で質問しているが、真剣な目つきで俺の全身をくまなくチェックしているのが分かる。俺の中身が大人じゃなかったらその視線には気づけなかったかもしれない。
「まぁまぁかな。心配かけてごめん」
その言葉を聞いた母さんは俺の額に手を当てる。
「熱はないみたいだね。学校にはいけそう?」
俺は大きく頷くと山の様に用意された朝食をかき込み家を出る。
「いってきます!」
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