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chapter.2 [答えのない堂々巡り]
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しおりを挟む「誰だ、貴様!」
真っ先に言葉を発したのはクランジェーの斜め後ろで様子を見ていたスタンだった。
すぐ傍にいるスタンですら気付かないほど、真後ろで何かを構えているその人物の顔すらクランジェーは拝めずに両手を顔の横にあげてどうしようかと考えていた。
「……私は聞いているんだ。何をしに来たのだ、と」
再びカチッと鈍い鉄の音と歯車が回る音が聞こえてくる。その声はかなり低く男のように聞き間違えるが紛れもなく、女性の声だ。
後頭部に突き付けられているものがひんやりと冷たい。押し当てられているのが銃口だと分かればクランジェーは素直に答えた。
「ボク達はライ・クランジェーっていう人を追ってここまで来たんだ、知らないかな?」
ビクビクと怯える事もなく、平然とした様子で話す姿は複数のハイエナに囲まれても怯まない百獣の王の如く。
堂々としたその姿に暫し答えを出すのを渋っていたがようやく銃口を下ろせば女性はクランジェーの問いに答える。
「……ライの名を知っているとは…何者かは知らないが奴は此処にはいないぞ」
「ええ!?じゃあ、会おうと思ったらどうしたらいいの?」
バッと恐れる事なく振り向いたクランジェー。この地域は森林に近いからかこの一帯の集落に住まう者は緑髪の人が多い中、腰ほどはある茶髪に髪よりもワントーンほど薄いブラウンの瞳が特徴的な女性は食い入るように見つめてくるクランジェーに困った顔を見せていた。
何度か言葉を濁していたがジッと見つめては離さないその真紅の瞳に耐え切れず、女性は答えた。
「……この世界では会えない。この世界よりももっと下層……そう、世界の裏側にある魔界に行けば奴には会える……だが……」
「だ、だが……?」
「会ったところでまともに受け答えできるとは思えないがな」
彼女の口ぶりと周辺に転がるゴブリンの亡骸。
それが何を意味するのか分からなかったが静かに聞いていたガルビス、そして心配そうに胸に手を当てるスタン。その二人を見てからクランジェーはもう一度問いかける。
どうして、まともに話せないのか。これらが関係しているのか────。
「…このゴブリンはあの人が?」
「良い着眼点だ。そう、これはライ・クランジェーが殺した、お前たちが来るよりもおよそ十分、ニ十分ほど前にだ」
そんな問いの返答にガルビスは不満足そうに眉間にシワを寄せた。
「だが、この遺骸の状態から見ておよそ死後数日は経過したように見受けられるが?」
ガルビスの言う通り、亡骸の一部は既に腐敗が進み白骨化しているものも見受けられる。
これが先程起きた事だとすればあまりにも辻褄が合わない。
だが、ここは魔法も奇跡もある不可思議に世界だ。僅か数十分前に殺されて急速に腐敗が進んだ……そんな事があっても不思議ではない。
その質問に彼女は窮する様子もなく、かといってすぐに答えるわけではなかった。
言葉を選んでいる────というよりは、どう伝えるべきか腕を組んでひたすら思案しているようだった。
暫くの沈黙を見守っていればハッと思い出したように顔を上げては一つ、ようやく言葉を紡いだ。
「お前たちはどうして此処に来た?」
先程聞いた言葉だ。どうしてそれを、と言葉にしそうになるがそれよりも先に問いかけていたガルビスが不服そうに「答える気あるのか?」と語気を荒げて不満を口にした。
不可解な質問だ、まるで手前の答えを忘れてしまったような……否、そうではない。まるで探りをかけているかのような問いかけだ。ここで"ライ・クランジェーを追ってやってきた"とまた答えれば堂々巡りになるだろう。
それでいいのだろうか、彼女の質問の意図はなんなのか。クランジェーもまたしばし思案していればようやく彼女が聞き出したい事を理解した。
その答えは────。
「ボク達、魔界に行く術を探しているんだ。知ってるかな、お姉さん」
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