上 下
37 / 54
第三章 樹海攻略 建国編

5 リッチ討伐報告①

しおりを挟む
 今日は朝からエデッサの街に行くことにした。昔ハムモンの部下だったS級冒険者のヴィルマさんに、リッチの討伐を報告するように言われてたからだ。

 いやー、行きたくない! 何で行かなきゃいけないんだ?!

 大体、僕って冒険者としてはFランクだから、冒険者ギルドで「リッチ討伐しました」なんて言っても信じてもらえないと思うんだけど。

 仮に信じてもらえたとしても、実績が無いのにいきなりリッチを討伐するなんて違和感しかないから、色々調べられるんじゃないか? その結果、正体が吸血鬼ヴァンパイアでした、なんて洒落にならないよ。

 ただ、リッチ討伐が冒険者ギルドに伝わらないのもまずい。討伐依頼が出続けてるってことは冒険者が樹海に入ってくるわけで、仲間達が攻撃されるかも知れない。


 他にも行きたくない理由がある。ヴィルマさんがなんか怖いんだよなぁ。「待ってるわねぇ?」って言ってたけど、なんでだろう? なにか狙いでもあるのかな?

 僕って一応ハムモンの友人枠だし、流石に討伐されたりしないはず……だよね。

 あっ、そうだ、ハムモンに付いて来てもらえないか聞いてみるか。


 ハムモンはお客様ってことで、馬人族ウェアホースの長デメテルの家の客室に泊まっている。

 馬人族ウェアホースの村に入ると、村の広場でハムモンとデメテル&マリナが模擬戦をしていた。朝から元気だなぁ。

 1対2のはずだけど、ハムモンが優勢なようだ。

 っていうか、ハムモンの剣の一振りで二人とも吹っ飛ぶから、優勢というか戦いになってない……。

 吹き飛ばされては立ち上がり、掛け声と共に斬りかかるデメテルとマリナ。それを片手で弾き返し、吹き飛ばすハムモン。

 デメテル達も今なら屍人騎士ゾンビナイトと渡り合えるぐらい強くなってると思うけど、ハムモンが強過ぎるんだろうな。大人と子供が戦っているみたいだ。

 再びデメテルとマリナを吹き飛ばしたタイミングで、ハムモンが僕に気づいた。

「おお、ジン! 昨日はいつの間にか姿を消しおって、どこに行っていたのだ?」
「ごめん、ハムモンに声をかけて話の腰を折るのも悪いなと思って、サスケと一緒にリッチの研究所を調べに行って来たんだ。結構良さそうな施設だったから、イルモに使ってもらうことにしたんだけどね」
「むう、そうだったのか。面白そうではないか。我も行きたかったぞ?」
「うっ、そうなの?! ごめん、今度連れてくよ! で、悪いんだけど、その前に付いて来て欲しいところがあるんだ」
「ふむ。良いぞ」
「まだ場所とか言ってないんだけど」
「どこでも構わんよ。お主といると飽きんからな」
「助かる! エデッサの街に行こうと思ってね。正直言ってヴィルマさんに会うのが怖いから、ハムモンにも付いて来て欲しかったんだ」
「そうか。ヴィルマはどうもお主に興味があるようだったな。まぁ悪意があるわけでは無かろう」
「それなら良いんだけど。今日行こうと思ってたんだけど、いつ頃行けそうかな?」
「ふむ」

 ハムモンはそう言うと、デメテル達の方を見る。デメテル達はすでに立ち上がっているものの、ゼェゼェと肩で息をし、剣を杖にして倒れないよう体を支えている状態だ。

「デメテル、マリナよ。そろそろ終わりにしてもよ──」
「「ハイ!!」」

 返事はやっ。なんかしごかれてたっぽい。

 近くで見守っていたソフィアとエヴァが、安心した様子でフウッって息を吐いてる。

「よし、ではこれから行こうではないか。準備をするから少し待っていてくれ」

 僕が頷くと、ハムモンはデメテルの家に向かった。

 それを見ていたデメテルが、老婆のようにつえをついて僕のところまで来た。

「おっ、お二人はどちらに行かれるのでしょう?」
「大丈夫? 【小回復ヒール】」
「ああ、ありがとうございます……」

 ちょっと涙ぐんでる。そんなに辛かったんだ……。マリナにも【小回復ヒール】っと。

「これからエデッサの街に行こうと思ってるんだ」
「なるほど、リッチの討伐報告ですわね。もしかすると私もお役に立てるかも知れませんので、是非同行させてもらえないでしょうか?」
「え、良いの? デメテルがいてくれると助かる!」
「本当ですか?! では早速準備して参りますわ!」

 デメテルは力強くそう言うと、うきうきした様子でハムモンの方へ駆けて行く。マリナ達もそれについて行く。一緒に行くのかな?


 少ししてハムモンとデメテル達が戻ってきた。やはりマリナ達も行くらしい。

 サスケ達はお留守番だ。アンデッドだからね。

「じゃあ、早速行きますか!」

 【転移トランスファー】でエデッサの街に近い樹海の出口へ移動する。

 そして、いつもの様に【収納】からルビー製の赤いサングラスを取り出して掛ける。

 それを見たハムモンが聞いてくる。

「お主、そういう装いが好きなのか?」
「違います! 僕の目って赤いから、アンデッドだってバレるんだよ。そうなると困るから、これで隠してるんだ」
「ふむ。吸血鬼ヴァンパイアのスキルに【変身メタモルフォーゼ】があったと思うが、お主も持っているか?」
「えっ? えーっと、確かにあるね」
「【変身メタモルフォーゼ】はお主が知る生物に変身できるスキルなのだが、それを利用して目だけ変化させることも可能なはず。こういう時にも使えるから覚えておくと良い」
「へぇ、ありがとう!」

 僕より吸血鬼ヴァンパイアに詳しいハム神様、最高です。そして、自分の能力すら把握してない僕ってヤバイかも。

 とりあえず、今回は【変身メタモルフォーゼ】を使わないで『赤眼』ファッションで行こう。このスキルは使ったことが無いから自信ない。


 エデッサの街の門まで行くと、いつもの守衛がいた。そう言えば、戦勝会の日に酒を買いに来た時はいなかったな。

 そんなことを思いながら冒険者証を見せる。

「あんたか。その色眼鏡、好きだなホント。そう言えば、少し前からS級冒険者『宵闇の魔女トワイライトウィッチ』がこの街に来てるぞ。かなりの美女だがおっかなそうだった。まぁ下手に怒らせないよう気を付けるこった」
「ああ、いつも情報ありがとう」

 隣で「くくっ」とハムモンが苦笑するのが見える。ヴィルマさんの評判を聞いて面白がっているようだ。

 次にハムモンも守衛に身分証を見せる。僕のものと同じ冒険者証だ。

「……ん、ハムモン? なぁっ?! 『武神』ハムモン様?! よよよ、ようこそ、エデッサへ!!」
「……うむ。ありがとう」

 小さく頷いて冒険者証を受け取り、門を通り過ぎるハムモン。

 デメテル達も、冒険者証を見せて街の中に入った。


「ハムモンって『武神』って呼ばれてるんだね?」

 冒険者ギルドへの道すがら、僕は早速気になってたことを聞く。

「うむ。いつの間にかそう呼ばれていたのだ」

 少し困惑気味の様子。あんまり喜んではなさそう。

「結構かっこ良いと思うよ、それ。僕なんて『赤眼』だからね……。ていうか、ハムモンも冒険者だったんだね?」
「いや、冒険者証は持っているが、冒険者では無い。ピラミッド周辺で悪さする者共を捕まえたり成敗していたら、冒険者ギルドが勝手に作って我の元に持ってきたのだ。報酬も渡すから冒険者証と一緒に受け取ってくれと頼まれてな。街に行く際は中々便利だからこうして使うこともある」
「なるほどねぇ」

 何としてもハムモンを冒険者登録したかったんだろうな。ネームバリューが凄そうだから、登録してもらうだけでも宣伝効果がありそう。


 早速冒険者ギルドに向かう。

 通りすがりの獣人がハムモンを見て驚き、なにやら口にしている。「キャー!」といった黄色い声が聞こえた気もするが、当の本人はまるで意に介していない。

 本人に人気者だね? なんて聞くのもどうかと思ったのでデメテルに聞いてみる。

「ハムモンって人気者なんだね?」
「はい、人気があるのは間違いありませんわ。ハムモン様は歴史上の人物であり、生きる伝説なのですから。ですが、お顔を知る者は少ないはずなので、ハムモン様であることは気づいていないかと。先程から獣人ばかりがちらちらハムモン様を見ておりますが、それはハムモン様が始祖返りでいらっしゃるからなのです」
「始祖返り?」
「はい。現在獣人族は外見や能力などが普人族に近づき弱体化しておりますが、元々はハムモン様のような勇ましいお姿だったのです」
「その通りです! ハムモン様の雄々しさに憧れないものはおりません!」
「そうです。その滲み出る気高さは獣人族にとって羨望の的なのです」
「うん。ハムモン様イケメン」

 マリナ達もテンション高めで教えてくれる。

 そうなんだぁ。ハムモンの方を見ると、身内のベタ褒めが聞こえたのか恥ずかしそうに頭をかいてる。

 獣人ってハムモンみたいに、より獣に近い人の方が強いのか。それにしても弱体化ねぇ。前世だったら時が経つと種族って進化するものだったけど、この世界では逆ってことかな。


 そんなことを思っていると冒険者ギルドに到着したので僕達は中に入った。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。