22 / 39
本編
22. 見えた光
しおりを挟む
あの後、セレスティア様を捕らえる方法について議論されることになった。
結論から言うと、捕らえる騎士達に事前に強い洗脳をかけて操ることに決まった。
その騎士達を操るのは……この国で唯一、全ての魔法属性が扱えるお方が適任だという話にまとまった。
けれども、そのお方――国王陛下は乗り気ではなかった。
陛下は他人を操るという行為を嫌っているから。
けれども最後は罪人を捕らえるためには致し方ないと受け入れてくださった。
だから、バルケーヌ公爵家の力をある程度抑えることが出来たら、セレスティア様を捕らえることが出来るようになった。
その力を抑えるというのが一番難しいのだけれど……。
「お嬢様、おはようございます」
「ええ、おはよう」
朝になり、ベッドを出る私。
それから部屋の扉を開けてシエラを招き入れた。
「今日は学院に行かれますか?」
「流石に無理そうだから、部屋着でお願い」
昨日のうちに、お父様達とシエラには事情を話してある。
だから、これだけで私の言いたいことを察してくれた。
「畏まりました」
ちなみに、昨日は防御魔法を使いすぎて高位の治癒魔法を使うだけの魔力が残っていなかったから、傷を治すことは出来なかった。
けれども、今から治癒魔法を使えば朝食に間に合わなくなってしまうから、そのまま姿見の前で待つことにした。
「お待たせしました。お着換えの用意が出来ました」
「ありがとう」
公の場に出るためのドレスは1人で着ることなんて出来ないけれど、部屋着にしている簡素なドレスは私1人で十分。
だから、着替えている間、シエラはベッドを整えたりしてくれているはず。
私が着替えを終えて衣装部屋から出ると、今度はシエラが髪を整えてくれる。
「やっぱり、お嬢様のお顔に傷があると心が痛んでしまいます」
「大袈裟よ。跡が残らないのはこの前大怪我した護衛さんで証明したでしょう?」
「それでもです。お嬢様はお強いのですね」
「別に強くはないわ」
そんなやり取りをしている間にシエラは髪を整え終えてくれて、普段よりも早いけれど朝食に向かうことになった。
☆
それからしばらくして、私は治癒魔法の準備を始めた。
「ほんと、なんでこんなに恋文が送られてくるのよ……」
「どの方も下心が丸見えでしたね……」
この大量の手紙の返事を書いていたせいで、もう10時を過ぎてしまっている。
ちなみに、魔法の準備と言っても行為の魔法に必要な詠唱をするだけだけれど。
「始めるわね」
「分かりました」
私の邪魔にならないようにと、部屋の扉の前に移動するシエラ。
部屋に誰も入れない状況になったのを見計らってから、詠唱を始めた。
「光の精霊よ……」
私の魔力量は貴族の中でもかなり多い方……というよりも、普通の10倍以上はあるのだけれど、1割くらいの魔力が減っていく。ちなみにお父様とお母様も私並みに多いらしい。
高位の治癒魔法は特に魔力消費が激しいのよね……。
でも、無事に傷を消すことが出来た。
「上手くいったわ」
「良かったです」
笑顔を浮かべるシエラ。
私も無事に治せてほっとしたのだけれど、同時に違和感も感じていた。
植え付けられたはずのトラウマが消えたわ……。
「お嬢様、何かありましたか?」
「トラウマが消えたのよ」
「それは本当ですか!?」
「こんな嘘をつく私じゃないわ」
一度植え付けられたトラウマは消えない。シエラは洗脳魔法の使い手だから、それをよく分かっている。
私の言葉を疑いたくなるのも仕方ないわよね。
「それってつまり、アリス様のトラウマも消せるってことですよね?」
「そうなるわね。さすがに、このことはセレスティア様は知らないわよね……」
「知らないとは思いますが、そもそもお嬢様には闇属性魔法があまり効きませんから違和感は感じていると思います」
シエラの闇魔法はそれほど強力ではないから、防げて当然だと思っていたのだけど……。
「あれは普段から意識して防御しているからよ。それに、セレスティア様の魔法は効いていたわ」
「それは実際に切りつけられていたからではないですか? 直前の記憶を利用すれば、トラウマを植え付ける難易度は下がりますからね」
そう説明するシエラ。
実際に闇属性の魔法が使えて、セレスティア様のようにトラウマを植え付けることも出来る彼女の説明だから、私は全て信じることにしている。
「使い手が言うと説得力あるわね」
「一応言っておきますけど、私の魔法は陛下からお墨付きを頂くほどには強力ですからね?」
「そうなの!?」
「怖がられたくなかったので黙っていたのです。騙すようなことをしてしまい申し訳ありませんでした」
絶望的に思えた今の状況に、希望の光が見えた。
シエラの言っていることが正しければ。セレスティア様の魔法がシエラと同じくらいの力だったら……。
セレスティア様の悪意から身を守れるかもしれないわ。
結論から言うと、捕らえる騎士達に事前に強い洗脳をかけて操ることに決まった。
その騎士達を操るのは……この国で唯一、全ての魔法属性が扱えるお方が適任だという話にまとまった。
けれども、そのお方――国王陛下は乗り気ではなかった。
陛下は他人を操るという行為を嫌っているから。
けれども最後は罪人を捕らえるためには致し方ないと受け入れてくださった。
だから、バルケーヌ公爵家の力をある程度抑えることが出来たら、セレスティア様を捕らえることが出来るようになった。
その力を抑えるというのが一番難しいのだけれど……。
「お嬢様、おはようございます」
「ええ、おはよう」
朝になり、ベッドを出る私。
それから部屋の扉を開けてシエラを招き入れた。
「今日は学院に行かれますか?」
「流石に無理そうだから、部屋着でお願い」
昨日のうちに、お父様達とシエラには事情を話してある。
だから、これだけで私の言いたいことを察してくれた。
「畏まりました」
ちなみに、昨日は防御魔法を使いすぎて高位の治癒魔法を使うだけの魔力が残っていなかったから、傷を治すことは出来なかった。
けれども、今から治癒魔法を使えば朝食に間に合わなくなってしまうから、そのまま姿見の前で待つことにした。
「お待たせしました。お着換えの用意が出来ました」
「ありがとう」
公の場に出るためのドレスは1人で着ることなんて出来ないけれど、部屋着にしている簡素なドレスは私1人で十分。
だから、着替えている間、シエラはベッドを整えたりしてくれているはず。
私が着替えを終えて衣装部屋から出ると、今度はシエラが髪を整えてくれる。
「やっぱり、お嬢様のお顔に傷があると心が痛んでしまいます」
「大袈裟よ。跡が残らないのはこの前大怪我した護衛さんで証明したでしょう?」
「それでもです。お嬢様はお強いのですね」
「別に強くはないわ」
そんなやり取りをしている間にシエラは髪を整え終えてくれて、普段よりも早いけれど朝食に向かうことになった。
☆
それからしばらくして、私は治癒魔法の準備を始めた。
「ほんと、なんでこんなに恋文が送られてくるのよ……」
「どの方も下心が丸見えでしたね……」
この大量の手紙の返事を書いていたせいで、もう10時を過ぎてしまっている。
ちなみに、魔法の準備と言っても行為の魔法に必要な詠唱をするだけだけれど。
「始めるわね」
「分かりました」
私の邪魔にならないようにと、部屋の扉の前に移動するシエラ。
部屋に誰も入れない状況になったのを見計らってから、詠唱を始めた。
「光の精霊よ……」
私の魔力量は貴族の中でもかなり多い方……というよりも、普通の10倍以上はあるのだけれど、1割くらいの魔力が減っていく。ちなみにお父様とお母様も私並みに多いらしい。
高位の治癒魔法は特に魔力消費が激しいのよね……。
でも、無事に傷を消すことが出来た。
「上手くいったわ」
「良かったです」
笑顔を浮かべるシエラ。
私も無事に治せてほっとしたのだけれど、同時に違和感も感じていた。
植え付けられたはずのトラウマが消えたわ……。
「お嬢様、何かありましたか?」
「トラウマが消えたのよ」
「それは本当ですか!?」
「こんな嘘をつく私じゃないわ」
一度植え付けられたトラウマは消えない。シエラは洗脳魔法の使い手だから、それをよく分かっている。
私の言葉を疑いたくなるのも仕方ないわよね。
「それってつまり、アリス様のトラウマも消せるってことですよね?」
「そうなるわね。さすがに、このことはセレスティア様は知らないわよね……」
「知らないとは思いますが、そもそもお嬢様には闇属性魔法があまり効きませんから違和感は感じていると思います」
シエラの闇魔法はそれほど強力ではないから、防げて当然だと思っていたのだけど……。
「あれは普段から意識して防御しているからよ。それに、セレスティア様の魔法は効いていたわ」
「それは実際に切りつけられていたからではないですか? 直前の記憶を利用すれば、トラウマを植え付ける難易度は下がりますからね」
そう説明するシエラ。
実際に闇属性の魔法が使えて、セレスティア様のようにトラウマを植え付けることも出来る彼女の説明だから、私は全て信じることにしている。
「使い手が言うと説得力あるわね」
「一応言っておきますけど、私の魔法は陛下からお墨付きを頂くほどには強力ですからね?」
「そうなの!?」
「怖がられたくなかったので黙っていたのです。騙すようなことをしてしまい申し訳ありませんでした」
絶望的に思えた今の状況に、希望の光が見えた。
シエラの言っていることが正しければ。セレスティア様の魔法がシエラと同じくらいの力だったら……。
セレスティア様の悪意から身を守れるかもしれないわ。
73
お気に入りに追加
2,885
あなたにおすすめの小説
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
私との婚約は政略ですか?恋人とどうぞ仲良くしてください
稲垣桜
恋愛
リンデン伯爵家はこの王国でも有数な貿易港を領地内に持つ、王家からの信頼も厚い家門で、その娘の私、エリザベスはコゼルス侯爵家の二男のルカ様との婚約が10歳の時に決まっていました。
王都で暮らすルカ様は私より4歳年上で、その時にはレイフォール学園の2年に在籍中。
そして『学園でルカには親密な令嬢がいる』と兄から聞かされた私。
学園に入学した私は仲良さそうな二人の姿を見て、自分との婚約は政略だったんだって。
私はサラサラの黒髪に海のような濃紺の瞳を持つルカ様に一目惚れをしたけれど、よく言っても中の上の容姿の私が婚約者に選ばれたことが不思議だったのよね。
でも、リンデン伯爵家の領地には交易港があるから、侯爵家の家業から考えて、領地内の港の使用料を抑える為の政略結婚だったのかな。
でも、実際にはルカ様にはルカ様の悩みがあるみたい……なんだけどね。
※ 誤字・脱字が多いと思います。ごめんなさい。
※ あくまでもフィクションです。
※ ゆるふわ設定のご都合主義です。
※ 実在の人物や団体とは一切関係はありません。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
拝啓、婚約者様。婚約破棄していただきありがとうございます〜破棄を破棄?ご冗談は顔だけにしてください〜
みおな
恋愛
子爵令嬢のミリム・アデラインは、ある日婚約者の侯爵令息のランドル・デルモンドから婚約破棄をされた。
この婚約の意味も理解せずに、地味で陰気で身分も低いミリムを馬鹿にする婚約者にうんざりしていたミリムは、大喜びで婚約破棄を受け入れる。
双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります
すもも
恋愛
学園の卒業パーティ
人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。
傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。
「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」
私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。
婚約者に好きな人がいると言われました
みみぢあん
恋愛
子爵家令嬢のアンリエッタは、婚約者のエミールに『好きな人がいる』と告白された。 アンリエッタが婚約者エミールに抗議すると… アンリエッタの幼馴染みバラスター公爵家のイザークとの関係を疑われ、逆に責められる。 疑いをはらそうと説明しても、信じようとしない婚約者に怒りを感じ、『幼馴染みのイザークが婚約者なら良かったのに』と、口をすべらせてしまう。 そこからさらにこじれ… アンリエッタと婚約者の問題は、幼馴染みのイザークまで巻き込むさわぎとなり――――――
🌸お話につごうの良い、ゆるゆる設定です。どうかご容赦を(・´з`・)
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる