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本編

21. 一番の近道

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「父上、お話があります。アリス、アルト、ソフィアと共に入ってもよろしいでしょうか?」

 ここは国王陛下の執務室の前。
 急な来訪だったために今回も侍従による案内はなく、護衛の騎士がついているだけになっている。

「ああ、もちろんだ。今鍵を開ける」

 そんな声に続けて、ドアの向こう側に足音が近付いてくる。
 それから扉が開けられると、陛下自ら執務室に招き入れてくださった。

「何も出せないが、とりあえずそこに掛けてくれ」
「「ありがとうございます」」

 軽く頭を下げて、案内されたソファに腰掛ける私達。
 この時点で、陛下は私の顔の傷に気がついた様子だった。

「早速だが、本題からお願いしたい。ソフィア嬢の怪我と関係があるのだろう?
 無理強いはしないが、出来ればソフィア嬢……貴女から語って欲しい」

 そう口にする陛下。
 ちなみに、傷をそのままにしているのは、イレーネ様に切り付けられた証拠として用いるためだから、陛下に見られた今はもう治してしまっても問題はない。

 でも、流石にこの状況で治癒魔法を使うなんて真似は無礼にも程がある。

「お話しできるのは私が感じたことだけですが、説明させていただきますわ。
 まず、今回の襲撃は私を傷物にするためだと襲撃者のイレーネ・ライブラン様は語っていました。彼女の説明通りなら、セレスティア様に何かしらの洗脳……もしくは脅しを受けていると考えられます」

 それから、襲われた時の状況や私がトラウマを植え付けられてアルト様を直視出来ない状況になってしまっていることなども説明した。
 私が話している間、陛下は表情こそ変えていなかったけれど、視線は険しいものになっていくように感じられた。

「こちらの対応が遅いばかりに迷惑をかけてしまったな。すまなかった」
「いえ、今回の件は私の油断が招いてしまったものでもあります。陛下が謝罪される理由にはなりません」

 頭を下げようとする陛下をなんとか止めようとする私。
 けれど、陛下のお気持ちは変わらないみたいで、軽く頭を下げられてしまった。

 私が陛下に頭を下げさせてしまったと知られたらどうなってしまうのか……想像したくないわ。

「この謝罪は国王としてではなく私個人の気持ちだ。だから無礼などと思うこともない」
「分かりましたわ……」

 そこで私と陛下のやり取りは一旦途切れた。


 けれども、この場の話し合いはここからが本題だった。

 セレスティア様が禁術を用いている時点で、本来は身柄を拘束するべきではある。
 けれども、バルケーヌ公爵家は経済を牛耳っているから下手に刺激できないというのが現状になっている。

 今は陛下が中心となってバルケーヌ公爵様の仕事を減らして、反逆されても耐える準備をしているらしい。
 だから今はセレスティア様にこれ以上手を出されないように対策するのが精一杯なのよね……。

「しかし、セレスティア嬢の目的が分からないな」
「ソフィア、恨まれるようなことをした覚えはある?」
「いいえ、そのようなことはありませんわ。セレスティア様との関わりは全くと言っていいほどありませんでしたので」
「となると、一方的に妬んでの行動と考えられるな」

 そう口にする宰相様。
 この場の全員がその結論に至ったみたいで、私を含めて頷いていた。

「そうなると、ソフィア嬢はしばらくの間学院に顔を出さない方が良さそうだな」
「ですが、それではソフィアの成績が大変なことになってしまいますわ」

 陛下の言葉はごもっともだと思った。

 けれども、長期間学院に行かない場合は留学などの理由を除いて成績に関わってしまう。
 もしも成績が悪すぎると、学院を卒業出来ないという最悪の状況になてしまう。

 アリスもそれを心配してくれたみたいで、陛下に意見を言ってくれた。

「となると、留学しかないが……ソフィア嬢の力を国外に出したくはないというのは分かってもらえるか?」
「そうですわね……。
 では、陛下の政策として、魔法の研究のためにソフィアを引き抜くというのはどうでしょうか?」
「不可能ではない。だが、それには時間がかかってしまう。
 そう考えると、セレスティア嬢を捕らえることが一番の近道ではあるが……騎士が洗脳されるリスクもある」

 少しだけ希望の光が見えたけれど、その希望にも問題点がある。
 これが八方塞がりというものなのね……。

 私達がそろって頭を抱えて黙る中、アルト様が口を開いた。

「少し疑問なのですが、そもそもソフィア嬢はなぜトラウマに最初から耐えられたのでしょうか?」

 確かに、私は直視さえしなければ耐えることが出来ていたし、今となっては直視しても悪寒が走るだけになっている。
 アリスの時は顔を逸らしていても耐え難い様子だったのよね……。

「確かに、私でも耐えられなかったのに、不思議だわ」
「精霊の愛し子であることと何か関係があるのでは?」
「ソフィア嬢はセレスティア嬢の魔法に耐性があるということになるな。それなら学院に行っても問題ないだろう」

 そう口にする陛下。 
 確かに問題は無いかもしれないけれど、学院に行くことへの抵抗感はまだ残っている。

 だから……。

「まだ学院には行きたくないのです。アルト様に対するトラウマは耐えられましたが、学院内でいつ襲われるか分からない恐怖に耐える自信はありませんの……」
「そうか。では、その恐怖心を克服するまでは自由に過ごしてもらって構わない。
 成績に響かないように此方で何か手を打とう」

 私の言葉に、陛下はそう答えてくれた。
 今まで積み重ねた努力が今回の件では崩れないと約束されて、少しだけ安心した。
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