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本編
4. いつもの光景
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「手紙……お父様に渡さないと……」
涙が尽きて落ち着いた頃、私は手紙の存在を思い出した。
机の上に置いてあるから忘れることはない。
けれども、こういう時は早めに行動した方がいいのよね。
とはいっても、玄関でお父様出迎えるという日々の行動に変わりはない。そこに手紙を渡すということが加わるだけだ。
「お嬢様、どちらに行かれるのですか?」
「お父様を出迎えるだけよ?」
どういうわけか、焦りを浮かべる侍女。
私が首を傾げると、慌てた様子で部屋に連れ戻されてしまった。
「お嬢様、その状態で旦那様の前に行かれては、旦那様が驚かれてしまいます」
「どういうこと……?」
「とりあえず、姿見で確認してください!」
言われるがままに、姿見の前に向かう。
そして気付いた。
「私、まだ冷静じゃなかったみたいね……。教えてくれてありがとう」
少しだけれど瞼が腫れていて、化粧もボロボロ。
こんな状態をお父様が見たら卒倒するかもしれない。
だから急いで顔を洗って、簡単な治癒魔法で瞼の腫れを治した。
魔法は貴族の血を引いている者なら誰でも使えるものなのだけど、こういう時は本当に便利なのよね。
「これで大丈夫かしら?」
「はい、問題ないと思います」
視線だけで意図を察してくれた侍女が頷いてくれた。
今度こそ玄関に向かう。
でも、私が辿り着いた時には既にお父様の姿があった。
「お父様、お帰りなさい」
「ただいま、ソフィア。何かあったのか?」
「これをケヴィン様に頼まれましたの」
そう口にしながら封筒を手渡すと、お父様は執事からペーパーナイフを受け取って封を開けた。
「面会か。昨日ソフィアが言ってた通り、彼が浮気しているのなら話の内容は想像がつくが……」
「婚約を無かったことにする覚悟は出来ています」
「ああ、分かっている。心残りは無いか?」
「ないと言えば嘘になります。でも、こうするしか道はないので……。覚悟なら出来ていますわ」
お父様の方を真っすぐ見て、私の意思を伝えた。
婚約破棄したくなくても向こうは侯爵家だから、従うしかないのだけれど。
普段は表情が読めないお父様だけれど、少しだけ悲しそうに、そして悔しそうにしていた。
「そうか……。そういうことなら、すぐに面会を受け入れることにしよう。他に話はあるか?」
「いえ、これだけです」
軽く頭を下げて、この場を去る私。
気になって振り返ってみると、お父様は頭を抱えていた。
もう夕食に向かわないといけないのだけれど、この時間になっても私の気持ちが晴れることはなかった。
「あっ、お嬢様! 夕食のお時間です!」
「分かっているわ」
「早くしないと冷めてしまいます!」
私を探していたのか、息を切らしながら駆け寄ってくる侍女。
彼女に急かされるようにして食堂に入ると、お母様とお兄様がいつもと変わらない様子で出迎えてくれた。
「旦那様、早くしてください。全員揃ってますよ!」
「今はそういう気分ではないんだが……」
「腹が減ってはなんとやら、とりあえず食べるが先です!」
執事に押されて入室するお父様。
一応、コノヒトすごく強いのだけれど……お母様と執事には弱いのよね。
それから、みんなで明るい話をしたりしたからか、お皿の上が空になる頃には気分が楽になっていた。
「ソフィア、これいる?」
「お兄様……私を太らせるつもりなの……?」
オレンジ色のフルーツが嫌いなお兄様にデザートを押し付けられそうになったけど、しっかりお断りしました。
「ソフィアは細すぎるんだよ……もう少し食べろ」
おだてられても乗せられませんよ? 一度の油断が命取りなのよ。
とりあえず……。
「お兄様がオレンジ食べたくないだけですよね?」
「っ……!? ソフィアが落ち込んでたから励まそうと思ったんだよ」
「今の間は何よ?」
図星だったみたいね。
好き嫌い、早く直してください!
ちなみに、お兄様との会話で敬語を使わないのは「敬語だと他人みたいだからやめて」と言われてるからです。
普段は敬語にしないようにしているけれど、怒ると忘れてしまうみたいです……。
涙が尽きて落ち着いた頃、私は手紙の存在を思い出した。
机の上に置いてあるから忘れることはない。
けれども、こういう時は早めに行動した方がいいのよね。
とはいっても、玄関でお父様出迎えるという日々の行動に変わりはない。そこに手紙を渡すということが加わるだけだ。
「お嬢様、どちらに行かれるのですか?」
「お父様を出迎えるだけよ?」
どういうわけか、焦りを浮かべる侍女。
私が首を傾げると、慌てた様子で部屋に連れ戻されてしまった。
「お嬢様、その状態で旦那様の前に行かれては、旦那様が驚かれてしまいます」
「どういうこと……?」
「とりあえず、姿見で確認してください!」
言われるがままに、姿見の前に向かう。
そして気付いた。
「私、まだ冷静じゃなかったみたいね……。教えてくれてありがとう」
少しだけれど瞼が腫れていて、化粧もボロボロ。
こんな状態をお父様が見たら卒倒するかもしれない。
だから急いで顔を洗って、簡単な治癒魔法で瞼の腫れを治した。
魔法は貴族の血を引いている者なら誰でも使えるものなのだけど、こういう時は本当に便利なのよね。
「これで大丈夫かしら?」
「はい、問題ないと思います」
視線だけで意図を察してくれた侍女が頷いてくれた。
今度こそ玄関に向かう。
でも、私が辿り着いた時には既にお父様の姿があった。
「お父様、お帰りなさい」
「ただいま、ソフィア。何かあったのか?」
「これをケヴィン様に頼まれましたの」
そう口にしながら封筒を手渡すと、お父様は執事からペーパーナイフを受け取って封を開けた。
「面会か。昨日ソフィアが言ってた通り、彼が浮気しているのなら話の内容は想像がつくが……」
「婚約を無かったことにする覚悟は出来ています」
「ああ、分かっている。心残りは無いか?」
「ないと言えば嘘になります。でも、こうするしか道はないので……。覚悟なら出来ていますわ」
お父様の方を真っすぐ見て、私の意思を伝えた。
婚約破棄したくなくても向こうは侯爵家だから、従うしかないのだけれど。
普段は表情が読めないお父様だけれど、少しだけ悲しそうに、そして悔しそうにしていた。
「そうか……。そういうことなら、すぐに面会を受け入れることにしよう。他に話はあるか?」
「いえ、これだけです」
軽く頭を下げて、この場を去る私。
気になって振り返ってみると、お父様は頭を抱えていた。
もう夕食に向かわないといけないのだけれど、この時間になっても私の気持ちが晴れることはなかった。
「あっ、お嬢様! 夕食のお時間です!」
「分かっているわ」
「早くしないと冷めてしまいます!」
私を探していたのか、息を切らしながら駆け寄ってくる侍女。
彼女に急かされるようにして食堂に入ると、お母様とお兄様がいつもと変わらない様子で出迎えてくれた。
「旦那様、早くしてください。全員揃ってますよ!」
「今はそういう気分ではないんだが……」
「腹が減ってはなんとやら、とりあえず食べるが先です!」
執事に押されて入室するお父様。
一応、コノヒトすごく強いのだけれど……お母様と執事には弱いのよね。
それから、みんなで明るい話をしたりしたからか、お皿の上が空になる頃には気分が楽になっていた。
「ソフィア、これいる?」
「お兄様……私を太らせるつもりなの……?」
オレンジ色のフルーツが嫌いなお兄様にデザートを押し付けられそうになったけど、しっかりお断りしました。
「ソフィアは細すぎるんだよ……もう少し食べろ」
おだてられても乗せられませんよ? 一度の油断が命取りなのよ。
とりあえず……。
「お兄様がオレンジ食べたくないだけですよね?」
「っ……!? ソフィアが落ち込んでたから励まそうと思ったんだよ」
「今の間は何よ?」
図星だったみたいね。
好き嫌い、早く直してください!
ちなみに、お兄様との会話で敬語を使わないのは「敬語だと他人みたいだからやめて」と言われてるからです。
普段は敬語にしないようにしているけれど、怒ると忘れてしまうみたいです……。
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