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本編
2. 婚約破棄ですか?
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ど、どういうこと――!?
貴族の子女が15歳になる年になったら通うことが義務付けられている王立学院。その庭園で目にした衝撃的な光景に、私は声を上げそうになってしまった。
目の前にいるのは、仲睦まじげに抱き合う一組の男女。
それだけならそっと目をつむることが出来たのだけれど、問題は殿方の方が私の婚約者のケヴィン様だということ。
分かりやすく言うと、私は浮気の現場に遭遇してしまっていた。
最近、ケヴィン様の様子が変だとは思っていたけれど……。
普段なら一緒にとっている昼食を「生徒会の仕事があるから」と断られ、毎日一緒の馬車で帰っていたはずなのに「先生に呼び出されていて遅くなる」と断られ、普段とは違う怪しい動きはたくさんあった。
少し前までの私なら「忙しいのね……」と思うだけで不安にはならなかった。
でも、今は違う。
彼の言葉が言い訳だと気づいたから、不安になって彼の後をこっそりと追いかけていた。
ケヴィン様のお相手はバルケーヌ公爵家のセレスティア様みたいね……。よく取り巻きと一緒に家格が低い方々に嫌がらせをしているお方。
だから、私は彼女の目につかないように出来るだけ関わらないようにして過ごしてきたのだけれど……。
こうしてケヴィン様の心を奪いに来たということは、彼女に良くない意味で目を付けられてしまったに違いない。
だから、今は何もせず傍観することしか出来なかった。
☆ ☆ ☆
――という事があってから2日。
念のためにと浮気の証拠を集め終えた私は、久しぶりにケヴィン様の家の馬車で家路についていた。
追求のための手札は揃っているから、浮気のことを問い詰めよう。そう思っている。
そのせいか、何を話すのにも気まずくて、会話が続かない。
それがケヴィン様の決意を確かなものしてしまったのか、彼は突然頭を下げると、こんなことを口にした。
「ソフィア、申し訳ないが婚約を破棄したい」
先手を打たれてしまった。けれども、これはケヴィン様の家を敵に回さなくて済んだということにもなる。
もしも私が問い詰めていたら、彼の家からの印象は良くないものになってしまうもの……。
でも、簡単に「はいそうですか」と引き下がることはできない。
「どういうことか、説明してください」
「今はこうするしか手が……いや、何でもない。好きな人が出来てしまったんだ」
すごく辛そうな様子で、そう告げられた。
言いかけていた言葉が気になるけれど、問い詰めれば私の印象が悪くなるというもの。
だから、黙って受け入れる事しかできなかった。
私の方から言い出すと決めていたことなのに、胸が締め付けられるような気がした。
浮気されて辛いのは私の方なのに、なぜ貴方が苦しそうにするのですか……?
この疑問を言葉にすることは出来なかった。
代わりではないけれど、ほぼ確信に近い問いかけをする。
「浮気してましたのね……」
「ああ、そうなってしまうな。だから慰謝料は払うし、謝罪もする」
「……」
潔く認めるところは彼らしいと思った。けれども、この婚約破棄の申し出を私の一存だけで決めることは出来ない。
この婚約はキーグレス家とパールレス家の将来にも関わるからだ。
――本来なら。
けれど、今の私は両親から婚約を破棄しても良いと許しを得ている。
だからこの場で頷くことも出来た。
けれどもそうしなかったのは、彼と婚約破棄した後のことが不安だったから……。
婚約破棄をしたという事実だけでも汚点となってしまう。男性優位のこの社会では、女性である私にとって致命傷になってしまう。
仮に婚約破棄が成立してしまえば、私は修道院に行くか見知らぬ方の後妻くらいにしかなれない。
その覚悟はしていたはずなのに、躊躇ってしまう私を憎く感じてしまう。
お互いに無言になって、ガタゴトと馬車の進む音だけが響く。
ものすごく気まずい空気になっていた。
彼に罪悪感があるのかは分からないし、嫌だって感じているのは私だけかもしれないけれど……。
でも、何も話さない時間のお陰で覚悟を決め直すことが出来た。
「分かりましたわ。婚約破棄を受け入れますわ」
浮気男との関係を完全に切る覚悟を決められたからか、すんなりと言葉が出た。
あとは公式の場でお互いの両親の同意があれば婚約破棄は成立してしまう。
10年間、彼のためにと尽くしてきたから、すごく悔しかった。
でも、私に出来ることは何もない。
「話が早くて助かるよ。僕の両親の許可は得ているから、あとはソフィアの両親を説得すれば婚約破棄は成立するね」
口調はしっかりしているけれど、表情は苦しそうにしている。
そんなに苦しいなら、浮気なんてしなければいいのに……。
悲しい気持ちは変わらないけれど、少しだけ怒りが湧いてしまった。
貴族の子女が15歳になる年になったら通うことが義務付けられている王立学院。その庭園で目にした衝撃的な光景に、私は声を上げそうになってしまった。
目の前にいるのは、仲睦まじげに抱き合う一組の男女。
それだけならそっと目をつむることが出来たのだけれど、問題は殿方の方が私の婚約者のケヴィン様だということ。
分かりやすく言うと、私は浮気の現場に遭遇してしまっていた。
最近、ケヴィン様の様子が変だとは思っていたけれど……。
普段なら一緒にとっている昼食を「生徒会の仕事があるから」と断られ、毎日一緒の馬車で帰っていたはずなのに「先生に呼び出されていて遅くなる」と断られ、普段とは違う怪しい動きはたくさんあった。
少し前までの私なら「忙しいのね……」と思うだけで不安にはならなかった。
でも、今は違う。
彼の言葉が言い訳だと気づいたから、不安になって彼の後をこっそりと追いかけていた。
ケヴィン様のお相手はバルケーヌ公爵家のセレスティア様みたいね……。よく取り巻きと一緒に家格が低い方々に嫌がらせをしているお方。
だから、私は彼女の目につかないように出来るだけ関わらないようにして過ごしてきたのだけれど……。
こうしてケヴィン様の心を奪いに来たということは、彼女に良くない意味で目を付けられてしまったに違いない。
だから、今は何もせず傍観することしか出来なかった。
☆ ☆ ☆
――という事があってから2日。
念のためにと浮気の証拠を集め終えた私は、久しぶりにケヴィン様の家の馬車で家路についていた。
追求のための手札は揃っているから、浮気のことを問い詰めよう。そう思っている。
そのせいか、何を話すのにも気まずくて、会話が続かない。
それがケヴィン様の決意を確かなものしてしまったのか、彼は突然頭を下げると、こんなことを口にした。
「ソフィア、申し訳ないが婚約を破棄したい」
先手を打たれてしまった。けれども、これはケヴィン様の家を敵に回さなくて済んだということにもなる。
もしも私が問い詰めていたら、彼の家からの印象は良くないものになってしまうもの……。
でも、簡単に「はいそうですか」と引き下がることはできない。
「どういうことか、説明してください」
「今はこうするしか手が……いや、何でもない。好きな人が出来てしまったんだ」
すごく辛そうな様子で、そう告げられた。
言いかけていた言葉が気になるけれど、問い詰めれば私の印象が悪くなるというもの。
だから、黙って受け入れる事しかできなかった。
私の方から言い出すと決めていたことなのに、胸が締め付けられるような気がした。
浮気されて辛いのは私の方なのに、なぜ貴方が苦しそうにするのですか……?
この疑問を言葉にすることは出来なかった。
代わりではないけれど、ほぼ確信に近い問いかけをする。
「浮気してましたのね……」
「ああ、そうなってしまうな。だから慰謝料は払うし、謝罪もする」
「……」
潔く認めるところは彼らしいと思った。けれども、この婚約破棄の申し出を私の一存だけで決めることは出来ない。
この婚約はキーグレス家とパールレス家の将来にも関わるからだ。
――本来なら。
けれど、今の私は両親から婚約を破棄しても良いと許しを得ている。
だからこの場で頷くことも出来た。
けれどもそうしなかったのは、彼と婚約破棄した後のことが不安だったから……。
婚約破棄をしたという事実だけでも汚点となってしまう。男性優位のこの社会では、女性である私にとって致命傷になってしまう。
仮に婚約破棄が成立してしまえば、私は修道院に行くか見知らぬ方の後妻くらいにしかなれない。
その覚悟はしていたはずなのに、躊躇ってしまう私を憎く感じてしまう。
お互いに無言になって、ガタゴトと馬車の進む音だけが響く。
ものすごく気まずい空気になっていた。
彼に罪悪感があるのかは分からないし、嫌だって感じているのは私だけかもしれないけれど……。
でも、何も話さない時間のお陰で覚悟を決め直すことが出来た。
「分かりましたわ。婚約破棄を受け入れますわ」
浮気男との関係を完全に切る覚悟を決められたからか、すんなりと言葉が出た。
あとは公式の場でお互いの両親の同意があれば婚約破棄は成立してしまう。
10年間、彼のためにと尽くしてきたから、すごく悔しかった。
でも、私に出来ることは何もない。
「話が早くて助かるよ。僕の両親の許可は得ているから、あとはソフィアの両親を説得すれば婚約破棄は成立するね」
口調はしっかりしているけれど、表情は苦しそうにしている。
そんなに苦しいなら、浮気なんてしなければいいのに……。
悲しい気持ちは変わらないけれど、少しだけ怒りが湧いてしまった。
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