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30. 恥ずかしいです

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「サーシャ様、大丈夫ですか?」
「ええ。私のことは気にしないで。それよりも、リリア様を助けなきゃ」

 意識は失っているみたいだけど、僅かに肩が動いているから、生きてはいるみたい。
 でも、首の骨が折れてしまっているから、このままだと1分も保たないと思う。

 階段を降りていたら、絶対に間に合わないわ……。
 外で待機している騎士さん達は助からないと判断したみたいで、助けるのを諦めている様子だった。

「ちょっと行ってきますわ」
「行ったところで間に合いませんよ」
「ここから行くのよ」

 このことはあまり知られていないけれど、私は2階からなら無事に飛び降りることが出来る。
 火事の時に逃げられるようにと、何度も練習させられたから。

 多分、2階も3階も大して変わらないわよね……?
 高さが倍になっただけだから。

「ここからって……まさか」
「多分大丈夫だから、止めないで」

 そう言ってから、窓の外に身体を乗り出す私。
 
 下を見ると思ったより高くて、少し怖い。
 でも、ここで諦めるわけにはいかないから、そのまま飛び降りた。


 あっという間に迫ってくる地面。
 上手く着地の姿勢は取れたけれど、私の足から嫌な音がして痛みが走った。

 でも、足のことは無視して、急いでリリア様の身体を真っ直ぐにしてから癒しの力を使った。

「サーシャ様、正気ですか!?」
「正気よ。目の前で死なれたくなかったのよ」

 無事にリリア様の怪我を治せたから、今度は私の足を治してから立ち上がる。

 リリア様の意識はまだ戻っていないけれど、逆行させずに済んだから少しだけ安心することが出来た。

「お前ら、呆けてないでリリア様を拘束しろ!」

 窓からそんな声がかけられて、リリア様が腕と足を縛られていく。
 貴族の令嬢が罪を犯したときは、普通なら腕を縛られて終わりなのだけど、逃亡を図りそうな時はその限りでは無いらしい。

 ちなみに、この縄は魔法を封じる効果もあるみたいだから、魔法を使って逃げることは無理だと思う。
 頑張って縄から抜け出せたら、逃げられるかもしれないけれど……意識を失っている今の状態ではその心配も無さそうね。

 私が持っている癒しの力のように魔法に似ていて魔法ではない無い力を封じることは出来ないから、もしリリア様が他人を操る力を持っていたらどうなるか分からない。
 でも、あの頭の打ち方だと1時間くらいは意識が戻らないと思うから、大丈夫よね……。

 牢に入れられたら、誘惑したところで出ることは出来ないのだから。

「連行しろ」
「御意」

 連れていかれるリリア様。
 そんな時、ヴィオラが声をかけてきた。

「もう無理はしないでよね! 心配させないで欲しいわ」
「ごめんなさい。逆行させないことだけ考えていたわ」
「気持ちは分かるけれど、私達だってやり直せるのだから、焦らなくても大丈夫よ」
「そうね……」

 頷いてから周りを見ると、この騒ぎを聞きつけた人たちが集まっていて、ちょっとした騒ぎになっているのが分かった。
 どうやら私が飛び降りたところも見られていたみたいで、私の噂がされているのも聞こえてくる。

「自分を切りつけた人を飛び降りてまで助けたらしいぞ」
「どれだけの聖人なんだ……」
「性格悪いと聞いたが、あの噂は嘘だったようだな」
「その噂、切りつけた犯人が流したらしいぞ」

 そんな噂を流されていたのね……。
 聖人でも無いから、どちらも困ることなのだけど。

 どうやら、私が飛び降りてから癒しの力を使うところは多くの方々に見られていたみたいで、私を聖人扱いする流れが広がってしまっている。
 ただ自分の目的のために動いていただけなのに……。

「私はそんな聖人では無いのですけど……」
「この謙虚さ、聖人以外の何物でもないですよ!」

 ……否定しても、私の株が上がるだけだった。

「サーシャ、誘惑の力でも身に着けたのかしら?」
「そんなの無いわよ」

 笑いながら問いかけてくるヴィオラに冷めた視線を送る私。
 でも、私の評価が下がることは無くて。

 恥ずかしいような、全身がくすぐったくなるような、不思議な感覚がする。
 この状況から今すぐにでも逃げ出したいわ……。
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