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24. ヴィオラside 止められない綻び③

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 一度目の夢で私達が襲われた後、リリアは私達を殺めたとして処刑されたに違いない。
 きっとその時に私と同じように逆行して、サーシャを殺めようとしていることが発覚しないように立ち回っているはず。

 一度目の前でサーシャが死んでいるから、それで恨みが晴れていれば良かったのだけど……。
 各々の教室に向かおうと中庭を後にしようとしてた時、すれ違ったリリアはサーシャを睨みつけながらこんなことを呟いた。

「化け物……不死身なんて気色悪いわ」

 この言葉を聞いて、私は少し救われた気がした。
 友人を化け物と言われたことは嬉しくないけれど、あの時のサーシャは生きていたことになる。だから内心では少しうれしかった。

 きっと、サーシャの癒しの力は他人に使うよりも、サーシャ自身に使った方が効果があるのね。
 それなのに、サーシャも同じような夢を見たみたいだから……きっと癒しの力でもどうにもならない酷い目に遭ったと思ってしまう。

「私、不死身じゃないのに……」
「あれは癒しの力を万全だと思っている馬鹿が揃って言う言葉だ。気にしなくていい」

 少し悲しそうに声を漏らすサーシャに慰めの言葉をかける殿下。
 王家の血を引いている殿下も当然ながら癒しの力を持っているから、似たような言葉をかけられたことがあるらしい。

「ありがとう。でも、気にしていないから大丈夫よ」
「そうか、それなら良いが。あの殺意の籠った目は気になるな。刺されてからでは遅いし、今から拘束させよう」
「それは最後の手段にした方が良いと思うわ。これで何も証拠が出なかったら、王家の評判が下がってしまうもの」
「ならどうする? 学院の中だと護衛の人数を増やせても限りがある」

 歩きながらそんな話をするリーシャと殿下。
 すごく仲良く話しているからかしら? お兄様が嫉妬の視線を殿下に向けている。

 そして、突然こんなことを口にした。

「心臓を刺されないように、防具を征服の下に仕込むのはどうだ? サーシャさえ良ければ、俺が持っている新品を貸そう」
「新品をお借りしても良いのですか?」
「ああ。俺が使った物よりは良いだろう。教室に置いてあるから、取ってくる。少し待っていて欲しい」

 そう言って廊下を駆け出すお兄様。
 廊下は走らないほうが良いのだけど、お兄様の場合は出会い頭でぶつかりそうになる前に察知して避けることが出来るから、あまり関係無いのよね。

 今も人の気配を察してスピードを緩めていた。


 それから数十秒。
 服の下に身に着けられる防具を手にしたお兄様が戻ってきて、サーシャに手渡した。

 私なら息が上がってしまうのに、お兄様は息の乱れ一つも無かった。鍛えた結果の体力でも、少し羨ましく感じてしまう。
 私にもこれくらいの体力があれば、あの時に逃げることだって出来たというのに。

「少し大きいが、曲げれば調整出来る」
「これを曲げるのですか?」
「ピッタリ合わせるのは難しいが、こうして見比べながら……」
「アドルフ様が良ければ、私の身体に触れても大丈夫ですわ」
「いや、無理はしなくて良い」

 せっかくのサーシャの提案を断って、鉄の板のような防具をぐにゃぐにゃと曲げていくお兄様。
 こんな板で護れるのか心配になってしまうけれど、お父様が実際に刃物が刺さらないか試してあるものだから大丈夫なはず……。

 そう頭で分かっていても、こんなに容易く曲がってしまうのを見ると不安になってしまう。

「多分、これで着けられると思う」
「ありがとうございます。早速着けてみますわ」

 そう言って制服の上着を脱ぐサーシャ。
 上着の下には襟付きのシャツを着ていて、このシャツだけでも制服として認められているのよね。

 だからこの場で脱いでも問題ないのだけど、お兄様は目を逸らしていた。

「少し持っていてもらえる?」
「ええ」

 それから手早く防具を身に着けたサーシャに上着を返す私。
 上着を着てしまえば、サーシャが防具を着けていることなんて分からなかった。

「そごい、ピッタリです!」
「良かったよ。上着を着たら教えて欲しい」
「もう着ていますわ。それに、シャツだけでも制服なのですから、見ていても大丈夫ですよ?」
「そうだった……」

 サーシャに言われて、恥ずかしそうにするお兄様。
 そんな時、授業開始5分前を告げる鐘の音が聞こえたから、私達は教室に急いで戻ることになった。


「間に合ったわね」
「5分もあれば余裕よ」

 無事に教室に戻ってこれて、安堵する私。
 そんな時、リリアと目が合ってしまった。

 声は聞き取れないけれど、私を睨みながら何かを呟いている。

「何を呟いているのかしら……?」
「あんたのせいで私の復讐が失敗するのよ……だって。ヴィオラ、私の防具が必要だったら言ってね?
 私は刺されても何とか出来るから」
「大丈夫よ。流石に刺しては来ないと思うわ」

 この発言を後悔する時が来るなんて、今の私に知る由も無かった。
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