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3. 逆行したようです
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「ひああぁぁぁっ!」
「わっ!?」
恐ろしい痛みに、中々止まらない大量の血。
そんな悪夢のせいで、私は悲鳴を上げながら飛び起きた。
「サーシャ様、どうされましたか!?」
「血が、血が……」
直前まで見ていた光景が脳裏に浮かんで、助けを求める私。
腰の辺りが冷たくなっているのは、気のせいでは無さそうだ。
粗相をしてしまったのかしら? それとも、さっきの血が残っているの?
恐る恐る視線を下ろすと、暑い時期に使う薄手の掛け布団の上に、ひっくり返ったティーカップがあった。
「血、ですか? どこかを怪我を?」
「ただの悪夢よ……」
「そうでしたか。何事も無くて良かったです。
それと、お茶をかけてしまって申し訳ありません」
「私の方こそ、脅かしてごめんなさい」
普段なら悪夢を見たとしても叫ぶことは無かったのに……。
あの夢は、妙にリアルだった。
まるで現実に起きたことのように。
ううん、違う。あれは現実そのもの。
ということは……。
私、助かったのね!
けれども難産だったのは間違いないから、赤ちゃんも無事とは限らないのよね。
だから、悲しい言葉を聞く覚悟を決めてから問いかけた。
「ダリア、赤ちゃんはどうなったのかしら?」
「赤ちゃんですか? それはどなたの?」
「私以外に居ると思うの?」
「もしかして、赤ちゃんを産む夢でも見ていたのですか? 婚約されたばかりなのに、もうそんな将来のことを考えていたのですね」
婚約したばかり……?
私は助かったのよね……?
頭では理解している。あの状況になってしまったら生きている方がおかしいことくらい。
つまり、これは──。
一度死んでから、時間が巻き戻ったのかもしれない。
すぐには信じられないけれど、それ以外の原因が思いつかなかったから、無理矢理納得することにした。
「そうみたい。でも、その夢が妙にリアルだったのよね」
「慣れないことをしたからでしょう。今日はゆっくりした方がいいと思いますよ?
お茶はこちらに置いておきますね」
「ありがとう」
私好みの冷たいお茶を口にする私。
やっぱり乾いた喉には冷たい飲み物が一番だ。
生き返る感じがするなんてよく言うけれど、この表現は嘘ではないのよね。
実際に生き返ったようなものだけど。
「ねえダリア、私はオズワルド様と婚約したのよね?」
「ええ、その通りですよ? 記憶喪失にでもなられましたか?」
「悪夢のせいで不安になってしまったの」
心配そうに問いかけてくるダリア。
寝起きだったら聞き間違えたと思っていたけれど、どうやら本当だったらしい。
時間が巻き戻るのなら婚約前の方が良かったけれど、結婚前の今でも運命を変えることは出来るはず。
見捨てられるのは嫌だし、苦しみながら死にたくもない。だから、婚約は解消して一人で生きていった方が幸せだと思うのよね。
婚約期間はたったの1ヵ月だから、すぐに動いた方が良い。
一度目ではオズワルド様に浮気の気配なんて感じなかったけれど、今考えてみればずっと前から彼はリリア様と関係を持っていたはずなのよね。
それを知らなかった私は、オズワルド様を好きになっていたけれど……。
今はもう、そんな気持ちは欠片も残っていない。むしろその逆で、恨んでいるくらいだ。
「少し相談に乗ってもらえるかしら?」
「ええ、構いませんよ」
「私、オズワルド様との婚約を解消するために動くわ」
どう転んでも彼と結婚するなんて御免だから、まずはダリアに相談することにした。
「昨日婚約したばかりなのに、ですか?」
「それでもよ。二度と良縁は望めなくなると思うけれど、夢の時みたいに見捨てられるよりは良いと思ったの」
「つまり、今日の夢は正夢で、オズワルド様が浮気していると思われたのですね。
私に出来ることなら、全力で協力します」
「ありがとう! 理解が早くて助かるわ」
詳しく説明していないのに、私の言いたいことを理解してくれたダリア。
これからの行動が決まったから、私はベッドから慎重に降りて着替えることにした。
せっかくのやり直しのチャンス。逃すわけにはいかないもの。
「わっ!?」
恐ろしい痛みに、中々止まらない大量の血。
そんな悪夢のせいで、私は悲鳴を上げながら飛び起きた。
「サーシャ様、どうされましたか!?」
「血が、血が……」
直前まで見ていた光景が脳裏に浮かんで、助けを求める私。
腰の辺りが冷たくなっているのは、気のせいでは無さそうだ。
粗相をしてしまったのかしら? それとも、さっきの血が残っているの?
恐る恐る視線を下ろすと、暑い時期に使う薄手の掛け布団の上に、ひっくり返ったティーカップがあった。
「血、ですか? どこかを怪我を?」
「ただの悪夢よ……」
「そうでしたか。何事も無くて良かったです。
それと、お茶をかけてしまって申し訳ありません」
「私の方こそ、脅かしてごめんなさい」
普段なら悪夢を見たとしても叫ぶことは無かったのに……。
あの夢は、妙にリアルだった。
まるで現実に起きたことのように。
ううん、違う。あれは現実そのもの。
ということは……。
私、助かったのね!
けれども難産だったのは間違いないから、赤ちゃんも無事とは限らないのよね。
だから、悲しい言葉を聞く覚悟を決めてから問いかけた。
「ダリア、赤ちゃんはどうなったのかしら?」
「赤ちゃんですか? それはどなたの?」
「私以外に居ると思うの?」
「もしかして、赤ちゃんを産む夢でも見ていたのですか? 婚約されたばかりなのに、もうそんな将来のことを考えていたのですね」
婚約したばかり……?
私は助かったのよね……?
頭では理解している。あの状況になってしまったら生きている方がおかしいことくらい。
つまり、これは──。
一度死んでから、時間が巻き戻ったのかもしれない。
すぐには信じられないけれど、それ以外の原因が思いつかなかったから、無理矢理納得することにした。
「そうみたい。でも、その夢が妙にリアルだったのよね」
「慣れないことをしたからでしょう。今日はゆっくりした方がいいと思いますよ?
お茶はこちらに置いておきますね」
「ありがとう」
私好みの冷たいお茶を口にする私。
やっぱり乾いた喉には冷たい飲み物が一番だ。
生き返る感じがするなんてよく言うけれど、この表現は嘘ではないのよね。
実際に生き返ったようなものだけど。
「ねえダリア、私はオズワルド様と婚約したのよね?」
「ええ、その通りですよ? 記憶喪失にでもなられましたか?」
「悪夢のせいで不安になってしまったの」
心配そうに問いかけてくるダリア。
寝起きだったら聞き間違えたと思っていたけれど、どうやら本当だったらしい。
時間が巻き戻るのなら婚約前の方が良かったけれど、結婚前の今でも運命を変えることは出来るはず。
見捨てられるのは嫌だし、苦しみながら死にたくもない。だから、婚約は解消して一人で生きていった方が幸せだと思うのよね。
婚約期間はたったの1ヵ月だから、すぐに動いた方が良い。
一度目ではオズワルド様に浮気の気配なんて感じなかったけれど、今考えてみればずっと前から彼はリリア様と関係を持っていたはずなのよね。
それを知らなかった私は、オズワルド様を好きになっていたけれど……。
今はもう、そんな気持ちは欠片も残っていない。むしろその逆で、恨んでいるくらいだ。
「少し相談に乗ってもらえるかしら?」
「ええ、構いませんよ」
「私、オズワルド様との婚約を解消するために動くわ」
どう転んでも彼と結婚するなんて御免だから、まずはダリアに相談することにした。
「昨日婚約したばかりなのに、ですか?」
「それでもよ。二度と良縁は望めなくなると思うけれど、夢の時みたいに見捨てられるよりは良いと思ったの」
「つまり、今日の夢は正夢で、オズワルド様が浮気していると思われたのですね。
私に出来ることなら、全力で協力します」
「ありがとう! 理解が早くて助かるわ」
詳しく説明していないのに、私の言いたいことを理解してくれたダリア。
これからの行動が決まったから、私はベッドから慎重に降りて着替えることにした。
せっかくのやり直しのチャンス。逃すわけにはいかないもの。
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