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第2章
85. 待つよりも
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ワイバーンの背中で揺られること六時間。私はクラウスと共に無事に帝都近くの開けた場所へと降り立った。
私達を運んできてくれたワイバーンには申し訳ないけれど、放置しておくと人が襲われてしまうから、攻撃魔法で倒す。
洗脳していれば馬と同じように扱うことも出来るかもしれないけれど、洗脳は長い時間が経てば切れてしまうこともあるというから、町の中に入れるなんて有り得ないことなのよね。
「素材は取り終えたよ」
「ありがとう」
短く言葉を交わして、帝都に向けて足を踏み出す私。
合図は何も出していないけれど、クラウスも自然な動きで私の隣を歩いてくれる。
ここは街道から大きく外れた場所だから人影は無いけれど、その分魔物に襲われる危険が大きいから、気配を探りながらの移動になる。
街道から外れた場所は盗賊も出ないというくらい、魔物は恐ろしい存在なのよね。
「あの草の中、何か居るわ」
「あの土の中から魔物の気配がする」
Sランクになってしまった私でも、不意をつかれれば怪我は免れないし、下手をすれば命を落とすことだって無いとは言えない。
念のためにと防御魔法は常に張っているけれど、とんでもなく強い魔物が相手だと意味が無いはずだもの。
「一旦様子を窺おう」
「分かったわ」
クラウスの判断に任せて、足を止める。
それから少しして、土の中から飛び出した黒い魔物が襲い掛かった。
襲われたのは草に潜んでいた魔物で、勝負は一瞬でついたらしい。
草に潜んでいた魔物は必死に身体を捻って逃れようとしているけれど、黒い魔物の牙が刺さっていて抜け出せない様子。
「あの牙、痛そうね……」
「痛いで済むか? あの口の大きさなら腕くらいしか噛めないが」
あの魔物はブラックモールという、土の中を進む魔物だ。人も襲われることがあるけれど、大人で命を落とした人は居ないから、初心者の練習相手に相応しいとされている。
だから、私達は狩りが終わるのを待ってから、攻撃魔法を放った。
「よし、行こう」
「ええ」
頷き合ってから、街道に向けて足を進める私達。
それから二時間ほど歩いて、ようやく帝都の入口になっている門をくぐることが出来た。
けれど順調なのはここまでで、乗合馬車の駅には長蛇の列が出来てしまっていた。
「普段はこんなに並ばないが……」
「待っている人に話を聞いてみましょう」
帝都に入ったと言っても、ここからクラウスの家までは馬車で三十分ほどかかる距離だから、歩いて帰るのは難しい。
まだお昼を過ぎたくらいの時間なのが救いだけれど、もう歩きたくないのよね……。
「ああ、とりあえず先頭の人に話してくる」
「分かったわ」
早速行動に移したクラウスから少し離れて、私は別の人に声をかけてみる。
クラウスは先頭に立っている強面の人に躊躇いなく近付いて行っているけれど、あの人に近付くのは私には難しい。
目が合うだけでも背筋が凍り付きそうな強面の人は騎士団にも居なかったから、恐ろしくて仕方が無いのよね。
今は少し距離を取っていれば大丈夫だけれど、幼い頃の私は一目見ただけでも目に涙を浮かべる羽目になっていた。
「すみません、馬車は何時間も来ていないのですか?」
「ああ。昨日、事故があったらしくて、いつもの半分しか走ってないのよ。
本当に迷惑な話だわ。こっちは急いでるっていうのに……」
「事故なら仕方ないと思います……。でも、中々来ないのは困りますわね」
そんな事を話していると、ちょうど乗合馬車が近付いてくる様子が目に入った。
ここに来る馬車は空いている様子で、降りてきたのは数人だけ。
けれども、ここで待っているのは五十人を超えているように見えるから、待っていたら何時間かかるのか分からないわ……。
「シエル、あの人は三時間待っているそうだ」
「三時間なら、歩いた方が早そうね」
「これから更に歩くことになるが、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ」
エイブラム家で依頼を進めていた時は長時間歩くようなことは少なかったけれど、依頼が無事に終わってからは五時間以上自分の足で移動していることもあった。
身体強化の魔法を使っていれば、殆ど疲れずに歩き続けられるから、心配そうに問いかけられても笑顔で言葉を返せた。
「分かった。日が暮れる前に帰ろう」
そう口にして、クラウスは私の手をとった。
これだけの人が居る前で手を繋ぐのは恥ずかしいから、彼と肩が触れそうなくらいまで近付いて、手を隠してみる。
けれども、効果は無かったみたいで、近くの商店の前を通りかかると、こんな声をかけられてしまった。
「新婚さん、お幸せに!」
結婚するのはまだ先のお話だから、気まずくなってしまう。
クラウスは満更でも無さそうな様子だけれど、居たたまれなくなった私は少しだけ距離を取ることにした。
「婚約しているんだから、気にしなくても良いと思う。
恥ずかしいなら、手は離すよ」
クラウスがそう言ってくれたけれど、周りを見てみると手を繋いでいる男女は思っていたより多いみたい。
だから、離れそうになった手を握り直す私。
「ううん、このままでお願い」
「分かった」
それからは、色々なことをお話しながら、ひたすら足を動かし続けた。
私達を運んできてくれたワイバーンには申し訳ないけれど、放置しておくと人が襲われてしまうから、攻撃魔法で倒す。
洗脳していれば馬と同じように扱うことも出来るかもしれないけれど、洗脳は長い時間が経てば切れてしまうこともあるというから、町の中に入れるなんて有り得ないことなのよね。
「素材は取り終えたよ」
「ありがとう」
短く言葉を交わして、帝都に向けて足を踏み出す私。
合図は何も出していないけれど、クラウスも自然な動きで私の隣を歩いてくれる。
ここは街道から大きく外れた場所だから人影は無いけれど、その分魔物に襲われる危険が大きいから、気配を探りながらの移動になる。
街道から外れた場所は盗賊も出ないというくらい、魔物は恐ろしい存在なのよね。
「あの草の中、何か居るわ」
「あの土の中から魔物の気配がする」
Sランクになってしまった私でも、不意をつかれれば怪我は免れないし、下手をすれば命を落とすことだって無いとは言えない。
念のためにと防御魔法は常に張っているけれど、とんでもなく強い魔物が相手だと意味が無いはずだもの。
「一旦様子を窺おう」
「分かったわ」
クラウスの判断に任せて、足を止める。
それから少しして、土の中から飛び出した黒い魔物が襲い掛かった。
襲われたのは草に潜んでいた魔物で、勝負は一瞬でついたらしい。
草に潜んでいた魔物は必死に身体を捻って逃れようとしているけれど、黒い魔物の牙が刺さっていて抜け出せない様子。
「あの牙、痛そうね……」
「痛いで済むか? あの口の大きさなら腕くらいしか噛めないが」
あの魔物はブラックモールという、土の中を進む魔物だ。人も襲われることがあるけれど、大人で命を落とした人は居ないから、初心者の練習相手に相応しいとされている。
だから、私達は狩りが終わるのを待ってから、攻撃魔法を放った。
「よし、行こう」
「ええ」
頷き合ってから、街道に向けて足を進める私達。
それから二時間ほど歩いて、ようやく帝都の入口になっている門をくぐることが出来た。
けれど順調なのはここまでで、乗合馬車の駅には長蛇の列が出来てしまっていた。
「普段はこんなに並ばないが……」
「待っている人に話を聞いてみましょう」
帝都に入ったと言っても、ここからクラウスの家までは馬車で三十分ほどかかる距離だから、歩いて帰るのは難しい。
まだお昼を過ぎたくらいの時間なのが救いだけれど、もう歩きたくないのよね……。
「ああ、とりあえず先頭の人に話してくる」
「分かったわ」
早速行動に移したクラウスから少し離れて、私は別の人に声をかけてみる。
クラウスは先頭に立っている強面の人に躊躇いなく近付いて行っているけれど、あの人に近付くのは私には難しい。
目が合うだけでも背筋が凍り付きそうな強面の人は騎士団にも居なかったから、恐ろしくて仕方が無いのよね。
今は少し距離を取っていれば大丈夫だけれど、幼い頃の私は一目見ただけでも目に涙を浮かべる羽目になっていた。
「すみません、馬車は何時間も来ていないのですか?」
「ああ。昨日、事故があったらしくて、いつもの半分しか走ってないのよ。
本当に迷惑な話だわ。こっちは急いでるっていうのに……」
「事故なら仕方ないと思います……。でも、中々来ないのは困りますわね」
そんな事を話していると、ちょうど乗合馬車が近付いてくる様子が目に入った。
ここに来る馬車は空いている様子で、降りてきたのは数人だけ。
けれども、ここで待っているのは五十人を超えているように見えるから、待っていたら何時間かかるのか分からないわ……。
「シエル、あの人は三時間待っているそうだ」
「三時間なら、歩いた方が早そうね」
「これから更に歩くことになるが、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ」
エイブラム家で依頼を進めていた時は長時間歩くようなことは少なかったけれど、依頼が無事に終わってからは五時間以上自分の足で移動していることもあった。
身体強化の魔法を使っていれば、殆ど疲れずに歩き続けられるから、心配そうに問いかけられても笑顔で言葉を返せた。
「分かった。日が暮れる前に帰ろう」
そう口にして、クラウスは私の手をとった。
これだけの人が居る前で手を繋ぐのは恥ずかしいから、彼と肩が触れそうなくらいまで近付いて、手を隠してみる。
けれども、効果は無かったみたいで、近くの商店の前を通りかかると、こんな声をかけられてしまった。
「新婚さん、お幸せに!」
結婚するのはまだ先のお話だから、気まずくなってしまう。
クラウスは満更でも無さそうな様子だけれど、居たたまれなくなった私は少しだけ距離を取ることにした。
「婚約しているんだから、気にしなくても良いと思う。
恥ずかしいなら、手は離すよ」
クラウスがそう言ってくれたけれど、周りを見てみると手を繋いでいる男女は思っていたより多いみたい。
だから、離れそうになった手を握り直す私。
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「分かった」
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