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第1章

45. 実験の結果

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「ここからは何をされるか分かりませんから、気を引き締めましょう」

 馬車から降りようとすると、フィーリア様に制止されて、そんな言葉をかけられる。
 権力によって牢から出られたことを疑問に思う人も少なくないから、嫌がらせをされることは容易に想像できてしまう。

「ええ、もちろんですわ」

 だから、しっかり頷いてから馬車から飛び降りる。
 今は学院玄関前の馬車寄せ込み合う時間だから、降りた瞬間から視線を感じた。

 グレン様によれば、フィーリア様が牢から出たことは既に知れ渡っているから、視線を集めることは間違いないそうなのだけど、見ている限り言葉の通りになっている。
 けれど注目されることには慣れているから、気にせずに私達のクラスの部屋に向かった。

「おはようございます」

「ええ、おはようございます」

 私が先に入ると挨拶が返ってくる。
 けれどフィーリア様の時は、冷たい口調の言葉が返ってきてしまった。

 疑いが晴れた訳ではないフィーリア様が含みのある視線を送られるのは想定していたこと。
 正直、牢から出て休みも無く学院に行かないといけない仕組みが酷いとは思うけれど、私は他国の人間だからどうにも出来ないのよね。

 フィオナ様からの視線は特に冷たくて、私にも向けられている気がする。
 毒殺されかけたのだから恨むのは当然の事だから、これも私には何もできない。

「早く証拠を見つけますわね」

「ありがとうございます。でも、無理はしないでくださいね?」

 小声でフィーリア様と話しながら席に移動する。
 けれど、そこでフィオナ様が笑った気がしたから、腰を下ろそうとするフィーリア様の肩を掴んで制止した。
 椅子の方から魔力の気配がするから、何かの魔法罠が仕掛けられていると思う。

 代わりに私が魔力を纏ってから座ってみると、魔法罠が発動してお尻の辺りが暖かくなった。

「やっぱり……」

「シエルさん、大丈夫ですの!?」

「ええ、防御の魔法を使っていましたから、大丈夫ですわ」

 椅子から離れてみると、ちょうど座面が燃えていて、そのまま座っていたらと思うと恐ろしい。
 今まで聞いていた嫌がらせは怪我をするようなものでは無かったけれど、これは消しに来ていると思う。

「ちょっと言ってきますわね」

 最初の嫌がらせがこれでは先が思いやられるから、フィオナ様に忠告することにした。
 水をかけるくらいなら子供のする悪戯だと思えるからまだ良いけれど、火は良くない。

 こんなに強い炎なら制服が燃えて、全身に火傷を負うことになると思う。
 跡も残ってしまうから、許せるわけが無い。

「フィオナ様。悪戯にしては度が過ぎると思うのですけれど?」

「私を殺そうとした女に復讐して何が悪いの?」

「今度は貴女が投獄されますわよ。侯爵家の令嬢でも酷い扱いを受ける牢に入ったら、男爵令嬢でしかない貴女はどんな扱いを受けるのでしょうね?
 楽しみで仕方ありませんわ」

 きっとフィオナ様は私に怒りを覚える。
 それでも、フィーリア様に手が及ばないなら今取れる最善の選択だと思う。

 ずっと魔力を纏っていれば、どんな嫌がらせをされたとしても怪我をすることは無いのだから。

「平民上がりなのに……許せないわ」

 言うことを済ませた私はすぐにフィーリア様の隣に戻ったのだけど、フィオナ様は恨み言を口にしていた。
 すごい目つきで睨まれているけれど、強面冒険者さんの方が怖いから気にならない。

「どうしてシエルさんが標的になるようなことを言いましたの?」

「私なら無傷で済みますもの。それに、これ以上フィーリア様に辛い思いはさせたく無いのです」

「分かりましたわ。お願いしますね」

 それから、フィオナ様から私への嫌がらせが始まった。

 持ち物は魔力で固めてあるから手出しされていないけれど、代わりにお花を摘んでいる時に大量の水をかけられそうになって、咄嗟に作った魔力の壁で防いだのよね。
 そうしたら、フィオナ様が全身に水を被ったみたいで、私が嫌がらせをしていると主張された。

 結果として私は先生に呼び出されて事情を聴かれたのだけど、事実をお話したら無事に解放された。
 一方のフィオナ様は……。

「どうして私が反省文なんかを……」

 ……何文字になるのか分からない反省文を書かされている。
 お陰でこの日はフィオナ様が嫌がらせをする余裕が無くなっているから、昨日と同じように楽しく過ごせそうだわ。

 フィーリア様に対する視線は険しいままだけれど、アイネア様を筆頭に無実の罪だと信じている方も少なくないから、次第にフィーリア様にも笑顔が戻っていた。



 それから数時間。無事に今日の学院を終えた私は、一度屋敷に戻ってから魔法の実験をするために帝都の外に向かった。
 移動は乗り合い馬車ではなく、侯爵家の馬車を出してもらっている。

 護衛は邪魔になるから馬車に同乗している御者さんともう一人だけ。
 帝都の中では襲われることも予想していたけれど、王都と違って治安が良いらしく、襲われる気配すらなかった。

 代わりに帝都を出てからは頻繁に魔物が襲ってくるから、いくつか考えておいた魔法を試してみる。

「これは……やっぱり魔物に撃たせて正解だったな」

「ごめんなさい……」

 一回目はワイバーンの羽が切れてしまったから、失敗。
 最初にクラウスで試そうとしていたけれど、やめておいて正解だったわ。

 腕が切れても私の治癒魔法で治せることは分かっているけれど、あまり痛い思いをさせたく無い。

「こっちは成功したわ」

「お、無傷だな」

 二回目は一切傷を付けなかったから、成功だと思う。
 試した相手は斬りやすいゴブリンだから、人に撃っても怪我一つしないと思う。

 念のため私自身を敵だと頭で浮かべてから撃ってみたのだけど、魔法が触れる感覚すら無かった。
 これなら完璧だわ。

「明日のお昼休みに調査するわね」

「分かった。俺は怪しい動きが無いか見ておくよ」

 無事に魔法が完成したから、私達は報告のために侯爵邸に戻ることにした。
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