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第1章

37. 仲間割れ

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 あの後、空気が最悪のまま模擬戦始めの合図が出されてしまった。
 私達が居た場所は幸いにも生い茂った草の中で、隠れるのにはちょうど良かった。

 けれど一歩動いたら隠れる物が何もないから、勝ち抜くためにはある程度相手が減るまで息をひそめていた方が良いように思える。
 だから、事前に決めていたハンドサインを出して動かないように伝える。

 魔力の気配もしっかり隠しているから、簡単には見つからないはずだ。

「居ましたわ! あの崖の上!」

「撃て!」

 実際に、私の目の前を通りかかったチームにも気付かれずに済んで、勘が正しかったと確信した。
 けれども、そんな時。

 一緒に息を潜めていたはずのフィオナ様に突き飛ばされて、魔法が飛び交っているところに飛び出してしまった。

「嘘でしょ……?」

 信じられない行動に思わず素の言葉が出てしまう。
 咄嗟に防御魔法を使ったから攻撃は当たらなかったけれど、八人に囲まれているこの状況は絶望的すぎるのよね……。

 魔力が少し増えたから、身体の少し外側に防御魔法を張れているけれど、一斉に飛んでくる中級魔法は怖い。
 けれど見切りをつけるのは簡単だったから、少しだけ動いて攻撃魔法を躱していく。

「シエルさん、お願いですから当たってください!」

「お断りしますわ!」

 盾のように防御魔法が張られているから、一気に距離を詰めて、空いている横から初級魔法を撃ち込む私。
 身体強化の魔法も使っているから、これくらいの動きは難しくないのよね。

「嘘だろ、強すぎる」

「おい、後ろだ!」

 後ろと見せかけて、飛び跳ねて上から攻撃魔法を放つ。

「上に居ますわよ?」

「どうなっている!?」

 位置を教えても、気付かれるときには魔法も当たっていて、最後の一人もピカピカと頭が光った。

 これで片方のチームは全員倒した判定になったから、もう片方にも攻撃していく。
 攻撃魔法自体は初級しか使っていないから、魔石の魔力はまだ足りそうなのよね。

 クラウスのチームと当たらなければ、この調子で全員倒せそうなのだけど……。
 漁夫の利を狙っている人達が多すぎるから、一旦適当な岩陰に隠れることにした。

「クラウス……!?」

「静かに。今は一時休戦だ。フィオナ嬢だけど、怪しいと思うか?」

 驚いて魔力を練った時、すぐに口を塞がれてしまった。
 左手を明後日の方向に向けているから、戦う意思は無いらしい。

 私の行動が読まれていたことには驚いたけれど、ずっと一緒に居たから分かって当然なのかもしれない。
 だから敵には回したくないのよね。

「怪しいとは思うけれど、粗ばかりで侯爵家の令嬢を断罪に追い込めるとは思えないわ。
 協力者がいるか、それとも別の人が犯人だと思うの」

「なるほど。俺はフィオナだと思っていたが、もう少し様子を見よう。
 あ、離れるまで撃たないでくれよ?」

「分かったわ」

 毒殺未遂事件は一度成功しているから、私が狙われれば同じような目に遭う可能性は高い。
 けれど万が一にも毒を盛られた人が命を落としてしまえば、処刑されてしまう。

 だから先に動きを掴まないといけないのだけど、分かりやすいフィオナ様以外が黒幕だとすると、すごく厄介なのよね。

「まだ判断するのは早すぎるわよね……」

 誰にも聞こえない声で呟いてから、周りの様子を伺う私。
 ヴィオラ様達三人は流れ魔法に当たってしまったみたいで、肩を落として外側に移動していった。

 そんな時、先生の声が聞こえてくる。

「残り三チーム、四人です」

 飛び交う魔法も無くなったから不思議に思っていると、もう殆ど残っていないみたいだった。
 私と誰かは一人で、一チームだけ二人いる状況。

 下手に動くよりは身を潜めていた方が良いかもしれないけれど、ただ待っているのも暇なのよね。
 だから気配を殺して相手チームを探すことに決めた。



 最初に見つけたのは二人のチームで、クラウスの姿は見えなかった。
 だから前に作っていた追いかける魔法を使って攻撃してみる。

「うわっ」

 間抜けな声が聞こえて来たから、きっと当たったのだと思う。
 けれど確信が持てないから、草の中から様子を伺ってみると、二人とも頭が光っていた。
 多分、残っているのはクラウスだけ。

 だから慎重に探そうと思ったのだけど、位置を炙り出すだけなら追いかける魔法を使えばいいことに気付いた。

「残り二チーム、二人だけです」

 誰が残っているのかまでは教えてくれないけれど、実力を考えたらクラウスだけのはず。
 そう予想していたら、私が放った魔法の向かう先に人影が見えた。

 まだ気付いていないみたいだから、追加で百個ほど攻撃魔法を放ってみる。
 同じ属性だけだと容易に防がれてしまうから、全ての属性を混ぜているのだけど、クラウスは半分くらい防ぎきっていた。

 まだ足りないみたいだから、もっとたくさんの攻撃魔法を放つと、ようやく彼の頭が光った。
けれど、同時に地面から攻撃魔法が生えてきて、私の頭上も眩しくなった。
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